連載
#97 ○○の世論
五輪「反対」55%、開幕目前でも異例の状態に 世論調査が示す違和感
「異形」の無観客に対する圧倒的な支持
1年延期を経て、本来なら待ちに待ったはずの五輪。「この夏に東京オリンピック・パラリンピックを開くことに賛成ですか」。開幕が目前に迫った7月17、18日の全国世論調査(電話)で、こんな質問をすると、「反対」が55%にのぼりました。「賛成」は33%と、3人に1人にとどまっています。果たして、競技が始まってアスリートの活躍する姿を見れば、IOCのバッハ会長の言うように、人々の心は「和らぐ」のでしょうか。(朝日新聞記者・磯田和昭)
五輪の開催について、菅義偉首相は、「国民の命と健康を守っていく」「安全・安心の大会にしたい」と繰り返してきました。この言葉も、国民には響いていないようです。
「今回のオリンピック・パラリンピックは、菅首相が繰り返し述べたように『安全、安心の大会』にできると思いますか」。
調査でこう尋ねると、「できない」という回答が68%に達し、「できる」は21%しかいませんでした。
政府の新型コロナ対策への評価の低さも不信感につながっているようです。
今回の調査で、政府のこれまでのコロナ対応を「評価しない」は65%。「評価する」はわずか26%でした。そして、コロナ対応を「評価しない」人の8割以上が、安全・安心の大会には「できない」と答えました。
安全、安心の五輪に「できる」と思う人に限れば、五輪の開催も67%が「賛成」と答えました。一方、「できない」と安全性を疑問視する人では、開催に「賛成」はわずか22%で、「反対」が69%にのぼっています。
開催の賛否を男女別にみると、「賛成」は男性では41%と、女性の26%よりかなり多くなっています。年代別にみると、「賛成」は40代38%、50代37%と、中年世代で高めでした。
五輪の観客をどうするか。その判断は、ぎりぎりまで先送りにされ、首都圏1都3県の「無観客」が決まったのは、大会開幕の2週間前でした。
結局、ほとんどの会場で観客を入れずに実施することになりました。「無観客になったことはよかったと思いますか」と聞くと、「よかった」が76%と圧倒的多数で、「よくなかった」は17%とわずかでした。
無観客という「異形」の祭典が「よかった」とされるところに、コロナ禍の重苦しさを感じます。
開催「賛成」の人では「よかった」と思う割合が62%。一方、「反対」の人では、「よかった」が85%と、より多い結果でした。これは菅首相がこだわったとされる有観客が強行されなくて「よかった」という思いの表れかもしれません。
会場での観戦はほぼできなくなりましたが、自国開催ですので、時差に苦しめられることもなく、ライブ中継を楽しめそうです。
「テレビなどで見たいと思いますか」と尋ねると、「見たい」が56%と半数を超えましたが、「それほどでもない」という人も41%とけっこういました。
今夏開催に「賛成」の人では、さすがに「見たい」という割合が83%と多数を占めました。一方、開催に「反対」という人も39%が「見たい」と答えています。
菅首相自身が「異例の開催」と認める五輪は、開催の賛否すら大きく割れたままでの開幕となりました。
「United by Emotion」。五輪開会式のコンセプトを大会組織委員会は、こううたっています。「感動でつながる」とでも訳すのでしょうか。菅政権には、「五輪に批判的な世論が事前に強くても、いざ競技が始まって日本選手が活躍すれば盛り上がるはずだ」という期待交じりの読みがあるようです。
今回の調査結果からは、そんな政権の思惑どおりに、世論が流れるのかどうか微妙な感じがします。
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