連載
#108 #父親のモヤモヤ
娘は3歳から5歳に 「父親のモヤモヤ」耳を傾ける記者が伝えたいこと
上司の「期待」に応えられずもどかしい。フォローしてくれる同僚に申し訳ない。朝のドタバタを終えて会社にたどり着いた時はヘトヘトで「落ち武者」状態――。
仕事と子育てをめぐる私自身の体験を、2年前の父の日につづりました。当時、娘は3歳。「イヤイヤ期」をやっと抜けた頃でした。記事を読み返し、夫婦ともに心身がすり減っていたことを思い出しました。
記事は、仕事と子育ての葛藤を描く「#父親のモヤモヤ」企画の初回という位置づけです。同僚と始めたこの企画はいまも続いています。これまで15人以上の書き手が参加し、2年間で延べ約130本の記事を、配信、掲載しています。
2年が経ち、娘は5歳に。振り回されることが減った分、子育ての負荷はずいぶんと軽くなったように思います。
そんな企画班の1人として、モヤモヤを抱えた父親たちに届けたい言葉は、けれども、「やまない雨はない」とか「明けない夜はない」とか、そういうものではないのです。
今年の配信記事に登場する関西地方の30代男性は、2児の父親でした。「仕事優先」の上司の圧力に連日、さらされていました。
「子どもをつくったのは自己責任だろ」「仕事の締め切りには死んでも間に合わせろ!」。そんな言葉を浴びせられ続け、体調を崩してしまいました。
取材班には、これまで約500件のメールを頂いています。「育休取得を上司に相談したら『変なうわさが立つぞ』『俺はおめでとうと言えない』と言われた」。そうした声は後を絶ちません。
内閣府の調査によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方については、「反対」が約6割です。ただ、「賛成」も優に3割を超えます。この調査は2019年のものですが、男性が深く家庭に関わろうとする時、「逆風」が吹くことは依然として珍しくないと、最近の取材を通じても感じています。
「1人じゃない」
モヤモヤを抱える父親に伝えたい言葉は、自分を支えてくれた言葉でもあります。
私自身、モヤモヤを言葉にできずにいました。多くの女性は、ワンオペ育児や負担の偏重に苦しんでいます。私の葛藤など取るに足らないものだと自覚していましたし、男性の立場で語ることに躊躇もしました。
しかし、いざ企画を始めてみると、同じような声を聞きました。「初めて話すのですが」「これまで言えなかったけど」
そうして伺う体験談に、自分を重ねることもありました。30代の教員男性は、育休中の妻と2人の子どもの子育て中でした。帰宅して子どもに関わり、家事をこなすと寝るのは深夜。次の日は早朝から活動という生活でした。「仕事と家庭、どちらもうまくできない。自分を責める日々です」という言葉に、胸が痛くなりました。
一方で、そうした取材を通じて、「1人じゃない」と思えるようになりました。「立場を同じくする人がいる」。そう思えることが、どれだけの励みに、救いになったかと思います。
「男は弱音を吐かない」と言われることもあります。家庭の関わり方には濃淡があり、モヤモヤも千差万別です。こうしたことから、「パパ友」が作りづらい現実もあるでしょう。葛藤は語りづらいのだと思います。
だからこそ、いま葛藤の渦中にいる父親には、「1人じゃない」という言葉をまず届けたいと思うのです。
そして、できるならば、モヤモヤを言葉にしてほしいとも思います。
誰かが葛藤を口にすることで、「1人じゃない」と思える人が増えます。
さらには、モヤモヤの背景にも目を向けてもらえればと願います。「家事や育児をより担ってほしいと妻は言う。気持ちがザワつく」。そんな時は対立的になりがちです。まずは、家庭内で見直すべきことがあるかもしれません。
一方で、長時間労働などの労働慣行や「男は仕事」「女は家庭」のような性別による役割分担の意識などが、より悪影響を及ぼしていることもあると思うのです。
取材を通じて、父親のモヤモヤの多くは、母親がこれまで直面した困難の追体験だと感じています。そして、その根本にあるのもまた、こうした問題です。つまりは、父親がモヤモヤした時は、「共闘」できること、「共闘」すべきことが見つかった瞬間かもしれないのです。
「#父親のモヤモヤ」企画を始めた時、宣言文(ステートメント)をそえました。そこには、こう記されています。
思いは変わりません。
きょうも歯を食いしばっている人がいることを思い、「1人じゃない」と思ってもらえるように、いろいろな生き方をより柔軟に選び取れる社会になるようにと願いながら、企画の3年目に入ります。
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