連載
#92 ○○の世論
東京五輪「今夏に開催」支持盛り返す 世論調査、開催意義は冷ややか
菅首相の説明「納得できない」54%
東京オリンピック・パラリンピックの開幕まで1カ月を切るなか、「今夏に開催」を支持する意見が6月19、20日の全国世論調査(電話)で34%に増えました。3割を超えたのは今年初めて。ただ、再延期や中止を求める人も依然として、それぞれ同じぐらいいます。開催で新型コロナ感染が拡大する不安を感じる人は8割にのぼり、菅政権の期待する盛り上がりには、なおほど遠いようです。(朝日新聞記者・磯田和昭)
「今夏開催」を支持する意見は、新型コロナの感染が拡大した5月調査でわずか14%と、4月から半減していたのが今回、一気に盛り返しました。沖縄県を除き緊急事態宣言が解除されるなかの調査で、再延期、中止とほぼ3分しています。
「今夏開催」は50代以下の各世代で30%前後なのに対して、60代で41%と高くなっています。60代には前回1964年東京オリンピックのころ、ものごころついていた人も多く、「世紀の祭典」の記憶の有無が関係しているのかもしれません。
今夏開催を支持する世論が広がりを欠くのは、コロナ禍のなかで開催の意義が見えにくいのも大きいとみられます。菅義偉首相は当初、安倍晋三前首相を引き継ぐ形で「人類がコロナに打ち勝った証し」だと言っていました。
それが共感を呼ばないと見たのか、最近になって微妙に言い方を変えました。6月17日の記者会見では「新型コロナという大きな困難に直面する今だからこそ、世界が団結し、人々の努力と英知でこの難局を乗り越えていくことを発信したい」と説明しました。やや長いのですが、この説明を引用して、納得できるかどうかたずねてみました。
すると、「納得できない」が54%で、「納得できる」(38%)より多い結果でした。「納得できる」という割合は、男性で42%と、女性(35%)より多くなっています。
内閣不支持層では、「納得できない」が8割を占めました。内閣支持層でも、3割は「納得できない」と答えていて、首相の説明が世論にあまり響いていない様子がうかがえます。「今夏開催」を推す人のうちでは、さすがに「納得できる」が64%と多いのですが、ここでも「納得できない」人が28%います。
開催の可否を聞いたあと、中止と答えた人も含めて、この夏に開く場合の観客の扱いを2択で聞いたところ、「観客なしで行うべきだ」が53%と半数を超え、「観客数を制限して行うべきだ」は42%でした。
調査直前には、「無観客が望ましい」という提言を、新型コロナ分科会の尾身茂会長らが公表していました。提言では「五輪は規模や社会的注目度が別格で、感染拡大や医療ひっ迫のリスクがある」と指摘。これには、世論もうなずく向きが多いようで、開催でコロナ感染が拡大する不安は、各世代ともまんべんなく8割ほどが感じています。
「無観客」を求める意見は女性で57%と、男性(49%)より強くなっています。「今夏開催」推しの人に限ってみても、「無観客」が31%と一定程度います。
また、政府のコロナ対応の評価によって見方がわかれています。
「評価する」人では、「制限」が57%と無観客(38%)より多いのに対して、コロナ対応を「評価しない」人は、無観客を求める割合が65%と高くなっています。
調査直後の6月21日になって、五輪大会組織委員会などはとりあえず、観客について「収容人数の50%までで、上限1万人」にすると決定。これに伴い、一部の販売済みチケットでは再抽選による間引きが必要になり、一喜一憂の場面もありそうです。
政府のコロナ対応を「評価する」人では、「今夏開催」推しが半数をしめ、全体で見た場合よりも多くなっています。再び緊急事態宣言に追い込まれるような感染拡大を防ぎ、「安全安心な大会」に道筋をつけられるかどうかが、五輪へのまなざしを大きく左右するのはまちがいありません。
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