感動
今年度で閉校…たった1人のテニス部員 コロナの中、もぎとった快挙
練習相手は監督とOB「僕1人の『最後』じゃない」
その部活には、1年生も2年生もいません。
奈良県立平城高校。今年度いっぱいで閉校することが決まっている高校の、たった一人の現役部員として夏のインターハイ(全国高校総体)出場に向けて練習を重ねている生徒がいます。
テニス部3年の蓮見友羽さん(17)は、今春行われた奈良県のインターハイ予選男子シングルスで優勝しました。マネジャー含めて17人いる3年生のうち、インターハイ出場に進んだ蓮見さんをのぞき、仲間はみな、引退していきました。
後輩もいない。共に練習に励むチームメートもいない。1人、コートで黙々とトレーニングを続ける蓮見さんを、部活生を応援するYouTubeチャンネル「ブカピ」が取材しました。
蓮見さんは、テニスが趣味という両親の影響で小学校3年生のときにテニスを始めました。最初は「遊び」感覚だったのが、家族でテニスコートを借りてプレーなどしていくうちにテニスの魅力にはまっていったそうです。
中学校ではテニス部がなくテニススクールに通いましたが、「高校の部活でテニスをバリバリとやりたい」という思いから、大会での実績もある平城高校に入学しました。
入学を決めたとき、平城高校はすでに2022年3月末の閉校が決まっていました。ですが、蓮見さんに迷いはなかったといいます。
「テニスは個人競技だし、平城高校でテニスをやりたかったから」
1年生のころは、全く勝てなかったという蓮見さん。「来年があるから」という思いで練習に励みました。しかし2年生になると、新型コロナウイルスの影響で大会はすべて中止になりました。
「目標がなくなってしまい、悔しかったというより、腹が立った」と振り返りました。
蓮見さんは、8月に長野県で開幕が予定されているインターハイ出場にむけて、授業が終わると1人で練習に励んでいます。そんな最後の部員を、前川恭彦監督(63)がつきっきりで指導にあたっています。
前川監督は、平城高校に着任して8年目で、テニス指導歴では40年という大ベテラン。さまざまな県立高校を渡り歩いてきましたが、コロナや閉校という困難に直面したいまの3年生たちに対しての思いは特別のようです。
「(閉校は)自分よりも生徒のほうがつらいに決まっている。母校がなくなってしまうんだから」といたわります。
「トレーニング量が半端ない」と自負し、部員たちからも厳しい指導者としてしられる前川監督ですが、最後まで残っている蓮見さんに対しては「思いっきりやってこい」とだけ伝えているそうです。
「試合が終わったあと『楽しかったか?』ときいて『はい』で終わるのが一番の理想です」
前川監督のほかにも、蓮見さんの応援に駆けつけている人たちがいます。OBです。
昨年の平城高校テニス部キャプテンだった河野元輝さん。いまは大学1年生です。
月に2、3回は母校に駆けつけ、蓮見さんの練習相手になっています。
「蓮見はもともと強いので、優勝するだろうと僕は思っていましたが、本当に優勝してくれてめちゃめちゃ嬉しいです。後輩が練習相手がいなくて困っているので、なんとかしてあげたいなという気持ちでした」と話しました。
河野さんの同級生にあたる田中幹人さん(大学1年生)もそんな1人。頻繁には来られないものの、時間が許す限り練習に駆けつけています。
「僕らの代はコロナでインターハイそのものがなくなりました。今年は試合があり、開いてくれる人がいることに感謝してほしい。後輩には僕たちの分まで全力ででられるようにサポートしたいです」と笑顔をみせました。
県立高校の平城高校では、3年生は最後の試合が終わると受験にはげむために現役を引退してしまいます。でも、前川監督の励ましや、こうしたOBの支えもあり、蓮見さんは「僕1人じゃない」と思えるようになったそうです。
6月上旬。テニス部の「引退式」が行われました。毎年恒例の行事で、例年はインターハイの予選が終わったタイミングで予選会場で行ってましたが、今年はコロナの影響で集まることができなかったため、時期をずらして校舎内で行いました。
蓮見さん以外の3年生は引退し、受験モードにきりかえています。前川監督は「受験や進路は、部活よりもっとしんどいこともあると思う。焦ったり、うまくいかないこともある。でも、しんどい時こそクラブで頑張っていた時のことを思い出してのりきってほしい。一緒に汗を流した仲間は、一生のかけがえのない思い出だから」とエールを送りました。
その後、部員たちは1人1人、自分たちの印象に残った試合について振り返り、前川監督に感謝の気持ちを伝え、1人で全国の舞台に立つ蓮見さんにメッセージを送りました。
「本当めちゃうまいし、尊敬している。インハイ(出場)とか僕からしたら信じられない。頑張ってください」
「インハイで大暴れして、奈良県の平城高校の名を知らしめて欲しい」
「蓮見が一番ストイックにテニスしていた。最後は楽しんでプレーしてきてほしい」
蓮見さんは言います。
「自分だけ残ったとき、受験のこともあるし、少し複雑な気持ちもありました。でもやっぱり僕1人の『最後』じゃない。平城の最後で、OBの先輩方の分まで背負っている。『平城は最後弱かったよな』と言われないために、プライドをもって戦いたい。でも、僕は結果を意識しすぎると良いプレーができなくなるので、試合は楽しみたいです。楽しむことで自分のいちばん良いテニスが出来ると思っているから」
そんな蓮見さんの元を、YouTuberのともやんさん(23)が訪ねました。YouTubeチャンネルの登録数が40万人を越え、特にバスケットYouTuberの中で最も影響力のある一人です。
本人も高校時代はインターハイやウインターカップでも活躍したことのある実力の持ち主。個人競技はやったことがなかったそうですが、1人練習を続ける蓮見さんのことを知り、応援にかけつけました。
「僕を後輩だと思って、いろいろ教えてください!」
蓮見さんに初めて、後輩が出来た瞬間でした。
テニスラケットを持ったのも「たぶん、初めて」というともやんさん。運動神経抜群とはいえ、蓮見さんの目にも止まらぬ早さのサーブを受けることはできず、全国レベルの強さを実感しました。
汗を流し終え、ともやんさんがインターハイへの意気込みを聞きました。
ともやんさん「インターハイ(出場が)決まった瞬間というのはどうでしたか」
蓮見さん「そうですね。シンプルに。すごく嬉しいです」
ともやんさん「部活最後で、かつ平城高校の最後の年にちゃんとインターハイ予選を優勝できめて、全国出場でしめくくるなんてドラマです。今は1人で練習しているんですか」
蓮見さん「はい。基本は1人です。先生と2人で。コートが5面もあるので物寂しい感じありますけど、もといた部員が応援してくれるので、さみしいけどやってます」
ともやん「平城高校が閉校するって聞いてどう思いましたか」
蓮見さん「悲しいというより……いらだちを感じました。何でこんな良い学校をなくしてしまうんやろか、と」
ともやんさんは、テニス部の引退式にも”参加”。蓮見さんと仲間とのやりとりや、飛び交うエールを聞いて「1人1人に物語りがあって、1人1人に思いがある。自分は個人競技をやったことがなかったけど、個人競技でもチームの絆というものがあり、みんなが支え合っているということを感じました」と涙ぐみました。
「平城高校が閉校する最後の年で、みんなの思いや、僕がいかないと、という思い、いろいろなプレッシャーがあったと思います。最後の最後に結果を出したというのはドラマチックだし、蓮見君のスター性でもあるし、3年間頑張ってきた結果が出たのだと思います。本人はずっと楽しむことを意識してテニスをしていると言っていましたが、まさに楽しむことが一番大事だなと僕も学びました」
(構成・ブカピ 今村優莉)
ともやんさんによる蓮見さんへのインタビューは、部活生を応援するYouTubeチャンネル「ブカピ」でもご覧いただけます。
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