話題
私のイチゴになんてことするの! 戦前のレシピを「今風」にアレンジ
ひと工夫でおいしく変身
向平真記者が挑戦している新聞レシピ再現企画、もうご覧になりましたか?
謎に包まれた「ケヅレーライス」の次は「イチゴ」ということを小耳に挟み、イチゴが店頭に並ぶ季節は毎朝食べるほどイチゴを愛する記者も企画に混ぜてもらいました。
当時のイチゴと現代のイチゴで味の違いもあると思われるものの、向平記者の記事を読むと、「イチゴになんてことをするの!?」と思わず言ってしまうような、チャレンジングなレシピばかり。ならば、と「今風にアレンジしたレシピを考えて作ってみよう」というスピンオフ企画を立ち上げてみました。
まずは初回の反響で、「ぜひ食べてみたい」と期待の声が大きかった「苺フライ」。レシピ通りでも揚げたてはおいしかったようですが、より「おやつ感覚」でいただくために、コロナ禍のステイホームで大活躍中のあの粉を使ってみました。
さあ、それでは調理開始です。
まず、イチゴのヘタを取ってキッチンペーパーで水気を拭き取ります。ホットケーキミックスは、ホットケーキを作るときと同じ分量で牛乳と卵を入れ、混ぜて生地の完成です。イチゴの周りに生地をまんべんなくつけ、180度のサラダ油でキツネ色になるまで揚げます。
少し冷まして、温かいうちに食べてみました。ほんのり甘いホットケーキミックスと、イチゴの果汁がじゅわっと口の中に広がります。うん、小腹が空いた時にぴったりですね。よりイチゴを感じたい人は、生地を作るときに牛乳を少し多めに入れて薄付きにするといいかもしれません。
そう。現代の万能粉といえば、「ホットケーキミックス」です!
ちょうど1年前、最初の緊急事態宣言が出された際は、記者の自宅近所のスーパーマーケットの粉モノの棚は空っぽでした。
ホットケーキミックスが、ドーナツの材料になっているレシピを見たことがある方もいらっしゃるのでは? これはおいしくできる自信が沸いてきます。
職場でも食べてもらいました。
「ホットケーキミックスの優しい甘さとよく合います。本家「苺フライ」は天ぷら感がありましたが、こちらはスイーツ感が強い」と、ホットケーキミックスがいい仕事をしたようです。
2品目は「小鰺と茗荷の苺和え」。レシピを見ると、酢で締めたアジに加熱して潰したイチゴ……。控えめに言って、器の中で大げんかしそうです。
イチゴ好きとしては、真っ先に「イチゴがかわいそう!」と心の中で叫んでしまいました。
向平記者の記事と写真を見ると、酢を追加していったこともあってか、正直「これ、何?」というドロドロの物体です。向平記者の熟練の技で、見た目に反してお味は好評のようでしたが、昨今、人々の心をつかんで離さない「映え」からは遠いご様子。
どうしてもアジと和えたいというのであれば、と考えてみました。
インターネットで検索してみると、フルーツ料理は意外とたくさんレシピが紹介されています。料理研究家が出版しているフルーツ料理のレシピ本もいくつか発見しました。
おかずのフルーツと言えば、パイナップル入りの酢豚を思い出す人も多いのではないでしょうか。記者の実家では、たまにリンゴとレーズンをマヨネーズなどで和えたサラダが食卓にあがっていました。
宿泊したホテルの朝食ビュッフェのサラダに、グレープフルーツなど柑橘系のフルーツがおしゃれに入っていることもありますよね。
ともかく、作り始めましょう。
当然のようにアジを自分で開いていた向平記者とは違い、スーパーの鮮魚コーナーにある刺し身用に切ってあるアジを購入。刺し身用なので、1~1.5センチ幅と少々食べ応えがある大きさですが、あえてそのまま使います。
アジの両面に塩を振り、レシピ通り30分ほど寝かせた後、水洗いします。キッチンペーパーでしっかりと水気を取り、アジの身にかぶるように米酢を入れて20分置きます。
その間に、ミョウガを準備します。縦に半分に切ったら、斜めに薄くスライスしていきます。ミョウガは10分ほど水にさらしておきましょう。
さあ、お待ちかねのイチゴ登場です。
本家レシピでは「鉢の中に入れてよくすりつぶし白砂糖少々加へ……」となっていますが、どう考えても砂糖の甘さと酢で締めたアジが合う気がしません。
イチゴもミョウガと同じように縦半分にカットしたあとは、5ミリ幅にスライスするのみ。ここだけはレシピに反旗を翻して、加糖も潰すこともいたしません。あとは、酢の中からアジを取りだして、水気をきったミョウガとイチゴと和えるだけ。
真っ赤なイチゴの色が映える一品になりました。
肝心のお味はどうでしょうか。
「お酢とイチゴの酸味がよくあいます。イチゴをつぶさなかったことで、酸味がしっかり残っていて、食欲がわいてきます。夏にぴったり。酸味があるフルーツなら何でもいけそう」との感想をもらいました。
向平記者にも試食してもらうと、「酒がほしくなる味わいですね。やはり元レシピと違って潰さないのが良いのかも」とのこと。「お酒がほしくなる」、同意ですね。
アジもイチゴも大きめに形をしっかり残したことによって、食べ応えがある立派な晩ご飯の一品になった気がします。
最後は、「馬鈴薯の苺和え」です。
レシピを最後まで読むと、「之は照焼、塩焼などの付合せとなす」とあります。魚なのか肉なのかも不明ですが、メインの付け合わせとしていただくようです。
こちらも例に漏れず、イチゴに「砂糖を加へて火にかけり」とあり、甘いおかずです。甘い付け合わせで思いつくのは、ハンバーグやステーキについているニンジンのグラッセでしょうか。
甘いのも「ナシ」ではないのかなと思いつつ、甘さはかなり控えめでいこうと決心しました。
レシピ通り、ジャガイモを細切りにし、「串がやうやく通る位に」ゆでます。
こちらも、やはり原型がなくなると見栄えが悪そうなので、シャキシャキ感が残る程度にとどめます。
湯を切り、みりんで煮切ったら、塩・砂糖を少々と水を加えて加熱し、水気を飛ばします。
別の鍋に半分に切ったイチゴを入れ、果汁が少し出てくるくらいまで軽く炒めたら、ジャガイモを投入。火を止めてざっくり混ぜれば出来上がりです。
試食の結果は「ジャガイモのシャキシャキ感とイチゴの酸味が楽しい一品ですね。サラダ感覚で食べられます」と、やはり食感を残したことがよかったようです。
完成直後の見た目も、そこそこ良いのでは。ただ、時間が経つとイチゴの色がジャガイモに移ってしまい、お世辞にも「きれい」とは言えないまだら模様になってしまいました。ジャガイモの水気をしっかり飛ばすと、ドロドロにならずにさっぱりいただけました。
ただ、ジャガイモのイチゴ和えは結局砂糖を控えめにしただけで「アレンジとは言えないのでは……」と不安がよぎります。
せっかくなら、思いっきり甘くしてみるのはどうだろうかと、再チャレンジしてみました。
細切りにしたジャガイモをゆでるところまではレシピ通り。ただし、やわらかくなるまでしっかりゆでていきます。砂糖をたっぷり入れ、鍋の中の水がなくなるまで加熱していきます。
水気がなくなったら火を止め、香りづけ程度にしょうゆを少々。麺棒やスプーンでジャガイモをつぶしていきます。
もう何を作っているか、分かった方もいるのではないでしょうか。
そう、おせち料理などに入っている「きんとん」です。
粗熱がとれたら、1センチ角に切ったイチゴをさっくり混ぜ合わせ、広げたラップにのせ、口をきゅっと絞ってゴルフボールくらいの大きさに。これで完成です。
これまで、栗きんとんなどサツマイモを使ったきんとんしか食べたことがありませんでしたが、ジャガイモのきんとん、結構いけます。
イチゴを生のまま散らしたので「赤が映えますね」と見た目も好印象。かわいらしく甘いので「子ども向けのおやつにもいいかも」という感想もありました。
この料理に挑戦する前、向平記者が作ったイチゴのレシピを見て真っ先に感じたのが「なんでイチゴをつぶして加熱してしまうの?」ということでした。
さらに、砂糖で甘くするとおかずには不向きなのでは、と思ってしまいました。そこで、朝日新聞で料理と言えばこの方。ケヅレーライスの謎解きにご協力いただいた長澤美津子デスクに、またまた質問をぶつけてみました。
長澤デスクは「つぶす、加熱、加糖には、いろいろ意味がある」と言います。
「つぶす」と、果汁が出る、ソース状になって他の材料と一体化する。「加熱」すると、イチゴにはペクチンが含まれているので、とろみがでるのだそう。これは「ジャムに必要なもの」だといい、確かに納得できます。
「加糖」には、酸味を抑える、加熱ではつやや飴状になってとろみを出す、色もきれいになる効果があるといいます。「結果として保存性を高める」ことにもなるそうです。
「もとのレシピの狙いは、あえ衣の感覚かなと思う」とのことですが、現在のような冷蔵庫もない時代、食材をダメにしてしまわないような工夫でもあったのかもしれません。
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