連載
#89 ○○の世論
東京五輪、グッと増えた「中止」の声 世論調査で暴かれた空疎な首相
繰り返す「安全安心」への違和感
開幕まで2カ月を切った東京五輪。5月15、16日に実施した全国世論調査(電話)では、「中止」を求める意見がグッと増え、開催への機運は冷え込んでいます。コロナ禍での開催に不安感が漂うなか、菅首相の繰り返す、あのセリフは国民の心に響いていないようです。(朝日新聞記者・渡辺康人)
「東京オリンピック・パラリンピックをどのようにするのがよいと思いますか」。朝日新聞の世論調査では、「21年夏に開催する」「再び延期する」「中止する」の三つの選択肢を挙げて、尋ねてきました。新型コロナウイルスの感染状況が拡大傾向にあると慎重意見が増え、落ち着くと、開催派が盛り返す傾向がありました。20年12月の段階では、「開催」「再延期」「中止」がほぼ3等分に割れていました。
5月調査で、「開催」はわずか14%。4月調査の半分に減り、2度目の緊急事態宣言が出ていた1月の11%に次ぐ最低レベルになりました。男性は18%、女性は11%と女性の方が悲観的な傾向がみられます。
一方、「中止」を求める声は43%と初めて4割を超え、これまでの調査で最も多くなりました。「再延期」と合わせると、慎重意見が8割以上を占めました。
年代別にみると、「中止」が多いのは、60代と70歳以上で、ともに5割を超えました。18~29歳と30代の若年層では「中止」は3割台とやや低めですが、「再延期」が5割と高め。「開催」は、全世代を通じて10%台にとどまりました。
東京都民では、「開催」21%、「再延期」30%、「中止」46%。予定通りの開催を求める意見が全国より多いものの、「中止」も半数近くにのぼっています。
5月調査の菅内閣の支持率は過去最低タイの33%、不支持率は47%でした。
中でも、五輪「中止」派の支持率は20%、不支持は60%。菅首相の五輪開催への前向きな姿勢が、支持離れにつながっているとも言えそうです。
五輪を開催する場合に観客数をどうするのがよいかも聞きました。
「無観客」が59%と4月の45%から増え、「制限」の33%を上回りました。
五輪「中止」を望む人では「無観客」が72%を占め、「開催」派に限っても35%が「無観客」がいい、と答えました。
年代別にみると、70歳以上では「無観客」が48%と、他の世代よりは少なめでした。前回1964年の東京五輪を知る世代として、あのとき会場を包んだ歓声と興奮が思い出され、「開催するなら、観客はいないと……」という思いがあるのかもしれません。
菅首相は、国会答弁や記者会見で「国民の健康と命を守り、安全安心の大会を実現することは可能」と繰り返し、強調しています。国のリーダーとして自信を示すことで、国民に安心感をもたらそうとしているのかもしれませんが、反応は芳しくありません。
「菅首相は、東京オリンピック・パラリンピックについて、『国民の命や健康を守り、安全、安心の大会を実現することは可能』と話しています。菅首相のこの発言に納得できますか」と尋ねると、73%が「納得できない」と答える結果となりました。内閣支持層ですら「納得できる」43%よりも「納得できない」49%が上回っています。
5月調査で「菅首相の新型コロナウイルスに取り組む姿勢を信頼できますか」と尋ねると、61%が「信頼できない」と答えました。五輪の「安全安心」の発言に「納得できない」と答えた人に限ると、首相のコロナに取り組む姿勢についても、「信頼できない」が76%に上りました。
多くの人が五輪突入に不安を感じるなかで、「開催しても大丈夫」という理解を広めるためには、万全の対策はもちろん、安心の根拠を丁寧に説明して理解を求める姿勢が不可欠でしょう。それがないまま国民に向けられた「安全安心の大会」という首相のメッセージには、納得度につながらない空疎な響きが感じられてしまいます。
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