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連載

#30 山下メロの「ファンシー絵みやげ」紀行

コロナ禍、京都の土産店が野菜売る理由「100年で初の売り上げゼロ」

京都市の老舗土産店「京のふるさと」が始めた野菜販売=西澤摩耶さん提供
京都市の老舗土産店「京のふるさと」が始めた野菜販売=西澤摩耶さん提供

目次

コロナ禍で今なお苦境が続いている観光地。外国人観光客や修学旅行生で溢れかえっていた京都も、いつもの光景にはほど遠い状況が続いています。今年の春も、例年であれば桜を見に観光客が訪れる時期であり、さらには修学旅行生が訪れるシーズン。本来は書き入れ時のなか、ある土産店が苦境を打破しようと新しい試みを始めました。それは、地域の人に向けた野菜の販売。その仰天の秘策と理由について、土産店・京のふるさと店長の西澤摩耶さんに話を聞きました。

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ファンシー絵みやげ紀行

土産店の始まりと隆盛

京都市の中心部にある新京極商店街。ここは街中でありながら、旅行者も通るエリアなので土産店が多数あります。近くに泊まる修学旅行生が、夕食後の自由行動で訪れることも多いため、かつては昼も夜もたくさんの人でごった返していました。

その中に店をかまえるのが、今回の話をうかがった土産店・京のふるさと。創業101年。なんと京都で100年を超える歴史を持っています。

昨年10月に京のふるさとを訪れたときの筆者(右)と西澤摩耶さん=筆者提供
昨年10月に京のふるさとを訪れたときの筆者(右)と西澤摩耶さん=筆者提供

京のふるさとは、もともと西洋軒というパン屋さんとしてスタート。戦後になり、パンの横に八つ橋を置くようになったことをきっかけに、だんだんと土産店へと変わっていったそうです。

1970年代の大阪万博の頃が全盛期。当時は寺町通と新京極に「京のふるさと」と姉妹店の「古都」がそれぞれあったので、4店舗もあったそうです。

「祇園祭の時に、1店舗で1日80万円くらい売り上げたこともあると聞きました」(西澤さん)

西洋軒の看板だったころの京のふるさと=西澤さん提供
西洋軒の看板だったころの京のふるさと=西澤さん提供

そんな中、1990年代に入るとバブル経済崩壊の影響がやってきます。さらに1995年には阪神大震災。幸いにも店の被害は少しでしたが、自粛ムードから1カ月ほど客足が途絶えたそうです。

そして、外国人観光客が増えていた2011年の東日本大震災。最初は京都に滞在している外国人観光客の方が帰れなくなったため最初の1週間は逆に忙しくなったとか。しかし、それ以降海外からのお客さんが減り、国内観光も自粛ムードだったそうです。

今回のコロナ禍以前に大変だった時期について聞いてみましたが、震災については災害が起きた後に影響が出て、だんだんと回復していったと言います。それに対して、コロナ禍は今も続いており、終わりが見えないというのが大きな違いだそうです。

現在の京のふるさと=西澤さん提供
現在の京のふるさと=西澤さん提供

100年の歴史で初の出来事

そんなコロナ禍の2020年は売り上げが激減したものの、鬼滅の刃のご当地みやげがヒット。ある意味で苦境の土産店を救っていました。しかし、その鬼滅の刃のご当地キーホルダー1個しか売れない日もあったそうです。

そして年が明けた2021年2月には、100年を超える歴史の中で初めて売り上げゼロの日が発生。3月になると売り上げゼロの日が4度も発生しました。

例年だと桜の季節で観光客が増える時期ですが、京都市長は会見で京都観光を控えるように呼びかけました。あまり「来てください」と言えない状況下で西澤さんは、自分に何ができるかを考えたそうです。

京のふるさとの店長の西澤さん=本人提供
京のふるさとの店長の西澤さん=本人提供

変えたい「京都民の京都知らず」

そこで誕生したのが、店頭で野菜を売ること。しかしこれは観光客向けの京野菜などではありません。

「観光客が減ったなら、観光客向けではないものを売ろうと考えたんです。生活必需品を扱うスーパーにはみんな行きますから。じゃあ野菜かなと」

「前に近所にあったスーパーがなくなったとき、野菜をどこに買いに行けばいいかみんな困ったことがあって、しばらくローソン(ストア)100で買っていた。それを思い出しました」

店頭で始めた野菜販売=西澤さん提供
店頭で始めた野菜販売=西澤さん提供

観光地である嵐山と違い、新京極は通勤路でもあるため地元の人の往来が多いエリア。住民向けのチェーン店やファッションビルも多いです。しかし、土産店には立ち寄らないものなのでしょうか。

「『京都人の京都知らず』という言葉があるんです。京都人こそ京都を知らない。京都人こそ祇園祭を見ていない。暑いし行かん。葵祭りも見たことない。金閣寺も行かん」

地元の観光地に行かないというのは、どこの地方にも当てはまるものかと思います。しかし、観光地が多い京都であってもやはり同じ。それどころか、京都人の気質もあってか、他の地方以上に観光地や行事へ足を向けないようです。

「越境できないなら、今こそ野菜を買うのをきっかけに、地元京都の土産店にも入ってもらいたい。土産店を知って欲しいんです」

土産店には、和柄の一筆箋やぽち袋など日常で使えるものもたくさんあるそうです。中には他の専門店で購入するより格安で販売されているものもあるとか。

「普段使いできるもんもあるんやで。こんなん売ってるんやでってのを見てもらいたい」

京のふるさとの店内=西澤さん提供
京のふるさとの店内=西澤さん提供

土産店のままで打開する

街中の土産店で野菜を売るというのは、単に新しいことをして耳目を集めようという企画なのかと思っていましたが、お話を聞くと明確なビジョンと信念をもってチャレンジしているというのがよく分かりました。

「新京極の他の土産店の人に『今日どない?』と聞くと、泣きそうな顔で『もう店閉めよか』と言わはる。このままやったら確かに厳しい。でも店を閉めんと、土産店のままで打開できんもんか考えたんです」

西澤さんは、力強く言いました。

「待っててもしゃあない。なんで待ちの姿勢やねん。外国人観光客が戻ってくるのを待っているばっかりやったらあかんやん。こうやって野菜を売ることで、土産店は待っているばっかりじゃないよというのを示したい」

「土産店は待っているばかりではない」という言葉が胸に刺さりました。ぜひこの機会に地元の観光地、そして土産店を知っていただけたらと切に願います。

ポップを作ってアピールする西澤さん=本人提供
ポップを作ってアピールする西澤さん=本人提供
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