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ベッドガード「隙間できやすい構造」生後18カ月以上の利用は安全?
専門家に聞きました
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専門家に聞きました
大人のベッドからの転落を防ぐとされる「ベッドガード」。実は、生後18カ月未満は使用禁止なのです。過去にマットレスとガードの間のわずかな隙間に9カ月の赤ちゃんが挟まり、死亡した事故がありました。一方で、専門家は「18カ月以上でも幼い子どもが利用するのを避けるべきだ」と口々に指摘します。幼児が使っても安心なのでしょうか。
2017年8月、生後9カ月の男児がベッドガードとマットレスの間の隙間にずれ落ちて死亡。さらにその1カ月後は生後6カ月の男児が亡くなり、事故が立て続けに起こりました。
17年8月の事故の両親は今年2月、製造物責任法に基づき製造販売会社に対し約9300万円の賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしました。父親は「裁判に勝つことや、賠償金が目的ではありません。この訴訟をきっかけに、今後命を落とす子どもがいなくなればと思っています。子どもに使う製品の安全性について利用者も製造販売会社も考えるきっかけになってほしいです」と話します。
ベッドガードは、一般財団法人製品安全協会が定めた製品安全基準(SG基準)で、生後18か月未満は使用しないよう定められています。さらに、消費者庁も同じように注意喚起をしています。
一方で、ベッドガードの危険性が幅広く認知されている実感は筆者にはありません。事故のあったメーカーを含む日本の大手メーカー2社の通販サイトを確認すると、いずれも現在、販売していませんでした。父親によると、事故後もしばらくは販売されていたといいます。
子どもの事故を防ぐために、科学的・工学的視点から分析して防止策を考える日本技術士会「子どもの安全研究グループ」の森山哲さんと瀬戸馨さんは「どうしてもマットレスとベッドガードの間に隙間ができて子どもが挟み込まれます。幼い子供が利用するには危険です」と話します。
17年8月の事故が起きたモデルは、柵とマットレスの間に隙間ができないよう、ベルトで固定するものでした。しかし、事故の調査に参加した森山さんは「柵の側面はメッシュでできており、生地が伸びてどうしても隙間ができてしまいます。さらに、ベルトで引っ張られるため、隙間に落ち込んだ幼い子どもが締め付けられてしまうのです」。
利用年齢の基準は自力でベッドに登り降りできる月齢から18カ月以上と定めてられています。森山さんは「4~5歳でやっと腕力がつきます。首や胸を挟まれてしまった状態では、18カ月以降でも隙間に落ち込むと逃げられません」と話します。
ベッドガードとマットレスの間に挟まった別の事故の調査に関わった小児科医で、NPO法人「Safe Kids Japan」の山中龍宏理事長は「私が調査したケースでは、利用者の母親がベッドガードとベッドのあいだに隙間ができることを知っていて、タオルを詰め込んでいました」と振り返ります。
しかし、たった約2分、目を離したすきに挟まってしまったそうです。
「すぐに母親が気づいたので命に別条はありませんでしたが、5分挟まれると死亡率が50%と言われています」
すぐ隙間ができてしまうこと自体、製品として安全とは言えないと語る山中さん。
「もし事故が起きてしまった場合『親の責任』とされてしまうのはおかしい。ベッドガードは18カ月以上の子どもが使用するのもおすすめできません」
ベッドガードの製品安全基準には「SG基準」が適用されていますが、玩具はST基準(玩具安全基準)、電気製品はPSE(電気用品安全法)など、日本では製品によって基準がまちまちです。
森山さんは「一般の利用者がすべての基準のマークを覚えるのは困難です。ヨーロッパでは、『CE(conform European) マーク』があれば、どんな製品も安全だというひとつの基準が示されています。利用者に分かりやすい基準を統一する必要があります」と話します。
2017年8月の死亡事故では、インターネットオークションで「ベビーガード」という検索用語が出てきたことから、赤ちゃん向けの製品だと思って、その中から商品を選んで購入したそうです。
森山さんは「『ベビー」という検索に引っかかったのなら、赤ちゃんも当然使えると思ってしまいます」。さらに、オークション購入の場合、「説明書や箱がついてない場合があります。きちんと取り扱い説明書を読まなければ危険です」と指摘します。さらに、瀬戸さんは「国内メーカーが販売を中止していても、ネット通販では海外業者の製品が数多く販売されています。これらは、ベビーベッドガード等の名称で表示され、18カ月未満使用禁止の注意書きは少なくともネット上には記載されていないので注意が必要です」と話します。
「子どもを安全に寝かせたい」という親心が逆に悲しい事故につながってしまいました。森山さんは「安全」という言葉の危険性も注意喚起しています。
JIS基準(日本産業規格)を満たした製品では、たとえばヘルメットはかつて「安全ヘルメット」と言われていましたが「保護ヘルメット」と呼び方が変わりました。一つの危険に対してのリスクを軽減しただけで、予防したい事故とは別のリスクもあります。「安全ということばを妄信してはいけません」と話します。
Safe Kids Japanの山中理事長は、欧米で定着している制度として、18歳未満の子どもの死亡事例を調べて再発防止策を導く「Child(チャイルド) Death(デス) Review(レビュー)(CDR)」の導入を訴えています。
「親が24時間、子どもから目を離さないようにするのは不可能だ。親たちを責めるのではなく、医療機関や警察、消防、児童相談所などが情報共有して予防策を考える仕組みこそ必要だ」と話しています。(朝日新聞デジタル)
日本小児科学会のホームページでは「インジャリーアラート(傷害速報)」という欄を作り、子供の事故について情報共有するため報告書をアップロードしています。しかし報告はあくまでも任意です。「警察は事故の現場を検証しており、事故の原因調査をしています。しかし、せっかく行った調査結果は公開されず、予防策を検討することができないため、同じ事故が繰り返されてしまいます」(山中さん)
厚生労働省は、このCDRを昨年から7府県で実験的に始めましたが、全国での実施には至っていません。山中さんは「司法における責任追及とは別に、CDRの確立を急ぐべき。そうでなければ本当の意味での事故予防にはつなげられません」と話します。
公益社団法人 日本小児科学会公式サイト
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