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安全に寝かせたい親心が悲しい事故に ベッドガード、利用年齢に注意
18カ月未満は利用禁止
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18カ月未満は利用禁止
ベビーベッド、布団、大人のベッド……。赤ちゃんはどう寝かせたら安全なのでしょうか。大人のベッドからの転落を防ぐとされる「ベッドガード」は、実は18カ月未満の赤ちゃんには使用禁止です。過去にマットレスとガードの間のわずかな隙間に9カ月の赤ちゃんが挟まり、死亡してしまった事故もありました。子どもの寝かせ方の注意点を専門家に聞きました。
大人用ベッドに子どもと一緒に寝る場合、多くの保護者が心配するのは「子どもが転落しないかということでしょう。ベッドガードは、大人のベッドに使用し、ベッドから転落しないように後付けする柵で医療・介護用ベッドのサイドレールのようなものです。
しかし、実は1歳半未満の赤ちゃんは使えないのです。寝返りを打ち始めたばかりの赤ちゃんのいる家庭こそ「ほしいな」と思うところですが、乳児には使えません。業界でも商品名を「幼児用ベッドガード」としています。
ベッドガードは、一般財団法人製品安全協会が定めた製品安全基準(SG基準)で、生後18カ月未満は使用しないよう定められています。海外の規格(BSI:英国規格)を参考に、取り扱い説明書とカートンボックス及び製品本体に表記するように定められていました。
さらに、「小さな乳児の場合、隙間に挟まると自力では脱出できず窒息するおそれがある」という具体的な危険性について併記するよう2017年12月21日に基準が改正されました。
「子どもを転落事故から防ぎたい」と使ったベッドガードで、逆に事故が起きてしまう……というケースがありました。
2017年8月、生後9カ月の男児がベッドガードとマットレスの間の隙間にずれ落ちて死亡する事故がありました。その日の夕方、都内の自宅寝室で、男児は、ベッドガードをつけた大人用ベッドで昼寝をしていました。
父親は緊急の仕事で不在。母親は異常のないことを確認した後、当時2歳だった上の子どもの世話をしていて、約2時間半後に再び様子を見に行くと、首から下がベッドガードとマットレスの間に挟まっていて、呼吸をしていませんでした。
万が一転落しても大丈夫なように高さが低いベッド(床から30センチ余り)を購入し、念のため、けがを防止するためにつけたベッドガードでした。それは、購入して数日後の事故でした。ネットオークションで購入した日本メーカーのベッドガードには、説明書に「18カ月未満は利用禁止」と書いてありましたが、製品自体には明示されておらず、購入した父親は18カ月未満は使用できないことを知りませんでした。
これまでベッドガードにまつわる事故のニュースを見たこともありませんでした。
1カ月後、父親は東京都内で同じようにベッドガードとベッドマッドに赤ちゃんが挟まって死亡する事故が起こったことを知り、また、アメリカの調査機関の情報を調べると、2010年までの10年間でベッドガードに関わる死亡事故が十数件あったことも知りました。情報公開請求をした警察の調書によると、ベッドガードの隙間は最大7センチと記録がありました。父親は「わずか数センチの隙間によって子どもが死亡してしまう可能性がある。息子の死は社会的な問題に関係しているのでは」と思うようになりました。
「幼い命がこれ以上失われないようにするため、安全を重視した製品が販売されるようになることが、息子にしてあげられること」
両親は今年2月、製造物責任法に基づき製造販売会社に対し約9300万円の賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしました。訴状では身体が挟まる隙間が生じやすい構造だとして、「安全性を欠いている」と指摘。説明書には「生後18カ月から5歳ぐらいまでのお子様に使用して」「乳幼児用として使用しないで」とあるが、具体的な危険性は不明でベッドガード本体に記載もないことから「注意表示が不十分」とも主張しています。 3月にあった第一回口頭弁論では、製造販売会社は欠陥はないとして請求棄却を求めました。
父親は取材に「対象年齢の表示は、見落としていた立場なので、私が批判を受けるのは当然だと思っています。ただ、調べれば調べるほど、製品には、どう固定しても隙間が生じてしまう構造上の欠陥があり、たとえ生後18カ月以上であっても同じような事故が起こりうるのではないかと疑念をもつようになった」としています。さらに、「裁判に勝つことや、賠償金が目的ではありません。この訴訟をきっかけに、製品の危険性を知らない人に情報が伝わり、今後命を落とす子どもがいなくなればと思っています。また、子どもに使う製品の安全性について利用者も製造販売会社も考えるきっかけになってほしいです」と父親は話します。
18カ月未満の赤ちゃんを寝かせる適切な環境は何なのでしょうか。子どもの事故を防ぐために、科学的・工学的視点から分析して防止策を考える日本技術士会「子どもの安全研究グループ」に聞きました。
もし大人用ベッドでベッドガードを使う場合は、「隙間が絶対生じないようにベッドのボックスシーツとベッドガードの側面のカバーを縫い付けたりマジックテープで貼り付けない限り難しいです」と同グループで技術士の森山哲さんは話します。大人用ベッドでは壁の間に挟まって窒息する恐れもあります。転落事故も心配です。
大人用ベッドから0~1歳児が転落する事故が相次いでいるとして、ベッドを使う場合は、柵があるベビーベッドに寝かせるように消費者庁は注意を呼びかけています。
消費者庁が医療機関(2020年10月時点で30機関)から寄せられた事故報告を調べたところ、2015年1月~2020年9月、0~1歳児が大人用ベッドから転落した事故は555件ありました。床に落ちて頭部や顔面を骨折するなどしたケースも16件あったといいます。
消費者庁は「転落事故防止のため、0~1歳児は、大人用ベッドに寝かせるのではなく、できるだけベビーベッドに寝かせましょう」と推奨しています。
ベビーベッドの利用にも注意が必要です。消費者庁は、常に柵を上げて使用し、収納扉がロックされていることを必ず確認するよう注意喚起しています。
柵を乗り越えて転落したり、収納扉に頭を挟んだりといった事故も報告されています。
さらに、森山さんは、可動式のベビーベッドの床板の高さは一番下まで下げるようアドバイスします。
高い位置に設定すると、赤ちゃんが立ち上がって柵を乗り越えたときに転落の恐れがあります。また、「頭をぶつけないための緩衝材に」と考え、ベッドの中に窒息するようなやわらかいもの(クッションやぬいぐるみなど)を入れるのも危険です。
もし、添い寝をする場合は大人用ベッドではなく布団にすれば転落の危険は避けられるといいます。
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