連載
#234 #withyou ~きみとともに~
好きになったのは、女の子だった…「ごめんね」で伝わった恋愛感情
「同性だから異性だからという感情はなく、フラットだった」
連載
#234 #withyou ~きみとともに~
「同性だから異性だからという感情はなく、フラットだった」
金澤 ひかり 朝日新聞記者
共同編集記者「周りの人が偏見さえなければ、同性を好きでも普通に過ごせる」。そう語る大学生がいます。イラストレーターのしろやぎ秋吾さんが描いた、高校生の頃に同性の先輩を好きになったとある女性の経験。マンガを元に、あらためて女性に話を聞きました。
せなさんは東京都出身の大学4年生。高校1年生の頃、所属していた女子バレーボール部の2つ上の先輩のことを好きになりました。
バレーが上手で、優しくて、アニメという共通の趣味があったという先輩。色白でたれ目っぽい感じが「かわいい」と思っていました。
「一目惚れではなかったので、少しずつ好きになっていく感じでした」
体育祭では同じ係になり、組対抗の騎馬戦は先輩と一緒に会場の脇から見ていたというせなさん。
「『組』も同じで、騎馬戦は私たちの組が勝ちました。その時に一緒に喜んだのもいい思い出です」
片思いのままだったせなさんの元には、「先輩には彼氏がいる」という噂も流れてきました。
それでせなさんの気持ちが変わることはありませんでしたが、片思いのまま、先輩は卒業の時期を迎えました。
思いを伝えるタイミングが来たのは、送別会後、みんなで帰宅しているときのことでした。
先輩は2人で並んで歩いていた、せなさん。
他愛もない話の中で、先輩から身長の高さを指摘されました。「先輩も早く追いついてくださいよ」と冗談っぽく返しましたが、先輩からは「私はこれ以上高くなりたくないかな」との答えが返ってきました。
「ここでなぜか彼氏がいるのは本当なんだと思いました」
ただ、彼氏がいてもいなくても、せなさんの気持ちに変わりはなく、その後友人から「せなちゃんは本当に先輩のことが好きだね!」と言われた流れで「大好きです」と伝えました。
そのとき、周りにも人はいましたが、関係ありませんでした。
先輩からは「ごめんね」という返事。
「普通なら笑ったり、『ありがとう』だけで流されたりするところ、『ごめんね』と言ってくれたことで、恋愛として言ったのは伝わってたのがわかりました」
せなさんが同性に思いを伝えたのはこれが初めて。「どう思われるか不安な気持ちはあったけど、冗談っぽく言えたので大丈夫でした」と笑います。
実はせなさん、中学生のときには異性が好きな時期もあり、大学生になったいまでも同性を好きになったのは先輩のとき一回だけです。
「当時も『はじめて女の子好きになったなあ』っていう感じで、同性だから異性だからという感情はなく、フラットな気持ちでした」
フラットだったのはせなさんだけでなく、周りの友人も同じでした。
「先輩、可愛くて好きになっちゃった」と友だちに相談することもありましたが、相手の受け取り方も「へえ」と、いたって普通でした。
さらに、高校2年生になったときには、同性同士で付き合っていた友人もいたことで「周りには偏見のある人がいなかった。だから悩むこともありませんでした」
一方で、大学生になってからは、同性同士の恋愛について「気持ち悪い」「無理だわ」と言う友人にも出会い、好きになった相手の性別次第で悩みを持つ人たちの気持ちにも理解を示します。
「高校生のときは受け入れてくれる人ばかりだったので、否定してくる人は都市伝説だと思っていました。でも、受け入れてくれない人のことが絶対にだめとか間違っているとかは、いまも思いません」
その気持ちの根底にあるのは「人それぞれだから」という思い。
「受け入れてほしいという気持ちで、自分のことを話すのは、自分を守るためにも、私はオススメしません」
「ただ、『好き』という気持ちに関しては、伝えたいと思ったら、同性・異性に限らず、伝えたらいいと思います」
せなさんの話を聞いていて感じたのは、せなさんが先輩に抱いた「好き」という気持ちは、相手が異性であっても同性でもあっても共通するものだということです。
好きになった相手の性別で、ドキドキする気持ちや「一緒にいたい」という思いが変わるはずもなく、これまで恋愛の対象が男性だけだった記者も、普通の恋愛話の感覚で盛り上がりながら話を聞きました。
30分ほどの取材の最後、せなさんは「私にとって、先輩を好きになったことは、好きになったのがたまたま女の子ってだけなんですよね」と語ってくれました。
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