連載
#81 ○○の世論
菅さんの「選挙の顔」度を数値化してみた 勝ち筋は2ケタだけど…
党内には不安の声「ポスター別の人がいい」
国政選挙が近づくと、国会議員が気にするのが「選挙の顔」です。いまの選挙制度となった1994年以降、国政選挙は政党対決の色が濃くなり、党首の顔が有権者の一票を左右するようになってきたためです。朝日新聞社が実施した全国電話世論調査をひもとき、もっとも人気のあった「選挙の顔」を探ってみました。(朝日新聞記者・磯部佳孝)
小泉内閣から、いまの菅内閣まで、13回の国政選挙がありました。それぞれの投開票日直前の世論調査をみていくと、人気が高かったのは、次の通りです。(敬称略)
(首相/選挙/内閣支持率/与党第1党支持率/「選挙の顔」度)
トップは、2001年参院選の小泉純一郎さんで、「選挙の顔」度は40でした。1位から6位タイまでは小泉さんと2度目の登板となった安倍晋三さんが占め、「選挙の顔」度は2ケタでした。この7回の選挙では、与党が改選議席から議席を減らすこともありましたが、政権を維持しています。
最下位は、2009年衆院選の麻生太郎さんで、「選挙の顔」度は-1でした。麻生さんは当初、自民党内から「選挙の顔」として期待され、自民党総裁選で勝利しましたが、リーマンショックへの対応などを優先して衆院解散に踏み切れず、最終的に民主党(当時)に政権を明け渡すことになりました。
民主党時代にあった2010年参院選の菅直人さんと2012年衆院選の野田佳彦さんも「選挙の顔」度が低い首相でした。両氏とも1ケタの「選挙の顔」度で選挙にのぞみ、敗れました。野田さんの時は、安倍さん率いる自民党に敗れて、政権を失いました。
ここまで見てくると、「選挙の顔」度が2ケタだと政権維持につながる一方、「選挙の顔」度が1ケタまたはマイナスだと選挙後の政権運営は厳しくなることがわかります。
ただ、例外もありました。第2次安倍政権で実施された2017年衆院選と2019年参院選です。
2017年衆院選は、「選挙の顔」度が6でした。ところが、小池百合子都知事率いる希望の党(当時)が失速し、野党が分裂したため、安倍さんの自民党は大勝しました。
2019年参院選も「選挙の顔」度が8でした。ひとつの選挙区から1人の国会議員を選ぶ定数1の選挙区「1人区」で、自民党は苦戦したものの、全体では堅調な戦いぶりで、与党で過半数を維持しました。
この2つの例外に共通しているのが、野党第1党の支持率がともに1ケタだったことです。
つまり、「選挙の顔」として首相の人気がなかったとしても、野党に有力な「代わりの顔」がいない場合には、選挙は与党側の勝利となるようです。
かたや野党第1党の支持率が2ケタの時に、「選挙の顔」度が1ケタだった2007年参院選の安倍さん率いる自民党は大敗しました。
この結果、参院と衆院で多数派が異なる「ねじれ国会」となり、第1次安倍政権は政権運営に苦労し、安倍さんはその年の9月に退陣しました。
いまの首相、菅義偉さんの「選挙の顔」度はどうでしょうか。(敬称略)
最新の3月の世論調査では、内閣支持率40%-与党第1党(自民党)の支持率33%=7でした。野党第1党の立憲民主党の支持率は5%ですので、2017年衆院選の安倍さんと似た水準にあります。
(調査した月/支持する/支持しない/与党第1党支持率/「選挙の顔」度)
今年は10月に衆院議員の任期が満了となるため、それまでには必ず衆院選があります。
菅内閣の支持率が昨年12月から今年2月にかけて低迷したため、自民党内には「選挙の顔」としての菅首相に不安を持つ議員もいました。
ある中堅議員は「(2人の写真が載る)2連ポスターを菅さんにしようかどうか迷っている。秘書からは『別の人がいい』と言われた」と語ります。
ただ、朝日新聞など報道機関各社の最近の世論調査で、内閣支持率が回復傾向にあります。このため、自民党内には任期満了前に衆議院を解散して、総選挙を行うよう求める声もくすぶっています。
「どんなに遅くとも秋までには総選挙がある。私はその先頭に立って戦い抜く決意だ」。菅首相は3月21日の自民党大会で、こう強調しました。
はたして、菅首相は「選挙の顔」として衆院選に臨めるのでしょうか。
その試金石となる選挙が4月25日にあります。参院広島選挙区の再選挙と衆参の2つの補欠選挙(衆院北海道2区と参院長野選挙区)です。3選挙の結果次第では、衆院解散をにらみ、「選挙の顔」としてポスト菅を求める動きが本格化する可能性がありそうです。
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