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ダサくしても…「絵になった」木村拓哉、仕掛け人が振り返るロンバケ

“ロンバケ現象”と言われる社会現象を巻き起こした『ロングバケーション』。フジテレビのプロデューサーとして携わった亀山千広氏から見た木村拓哉氏とは
“ロンバケ現象”と言われる社会現象を巻き起こした『ロングバケーション』。フジテレビのプロデューサーとして携わった亀山千広氏から見た木村拓哉氏とは

目次

瞬間最高視聴率43.8%(ビデオリサーチ調べ)。“ロンバケ現象”と言われる社会現象を巻き起こし、フジテレビ「月9」の代名詞となった『ロングバケーション』。プロデューサーとして主演の木村拓哉氏とタッグを組んだのが亀山千広氏(株式会社ビーエスフジ代表取締役社長)です。ロンバケ以外でも数々の作品で関わった亀山氏から見る木村氏とは――。ライターの我妻弘崇さんがインタビューをしました。

数々のドラマでタッグを組んだ木村拓哉氏との思い出を振り返る亀山千広・ビーエスフジ社長
数々のドラマでタッグを組んだ木村拓哉氏との思い出を振り返る亀山千広・ビーエスフジ社長

「カッコ悪さの格好良さ」がアップデート

「『ロングバケーション』の瀬名秀俊は、恋愛に奥手な青年という設定。なんとかダサい男に見せたくて、いろいろ試してみたんだけど、木村君がやるとダサくなるどころか、新しいファッションになってしまう。二人で頭を抱えながら“ダサい”について、よく話し合いましたね」

目を細めながら、亀山氏は振り返る。96年、月9枠で放送された『ロングバケーション』は、最終回に瞬間最高視聴率43.8%を記録するなど平成史に燦然と輝くラブストーリーだ。舞台となった隅田川沿いのビルは観光スポットになり、主題歌である『LA・LA・LA LOVE SONG』はミリオンセラーを達成。月曜日になると街からOLが消える、ドラマの影響でピアノを始める男性が増える――、“ロンバケ現象”と言われる社会現象を巻き起こした。

亀山氏は、90年に編成部から第一制作部に異動し、93年の『あすなろ白書』のヒットでプロデューサーとして頭角を現す。99年に編成局へ戻るまで、『君といた夏』(94年)、『若者のすべて』(94年)、『輝く季節の中で』(95年)、『まだ恋は始まらない』(96年)、『ロングバケーション』(96年)、『踊る大捜査線』(97年)、『ビーチボーイズ』(97年)、『眠れる森』(98年)などを手掛ける。あらためて並べてみると、名作、話題作ばかりであることが分かる。

冒頭に登場した木村拓哉氏とは、『あすなろ白書』、『若者のすべて』、『ロングバケーション』、『眠れる森』でタッグを結成。「新しい時代のドラマを担える存在として心強かった」と語る。

「90年代前半は、アイドルではSMAPが、バラエティではダウンタウンが台頭したように、これまでとは違う新しい価値観が芽生え始めていた。“カッコ悪さの格好良さ”みたいなものが世の中に浸透しつつある、そんなことを感じていました。寅さん的な“カッコ悪さの格好良さ”がアップデートしていて、そういった格好良さ、ハードボイルドさを伝えられるドラマを作りたいと思っていた」(亀山氏、以下同)

現代的な不良性を意識した『若者のすべて』

90年代前半、フジテレビのドラマは、月9が牽引する形で、恋愛ドラマは欠かすことのできない存在になっていた。「小綺麗な服を着ているドラマが多かったから、古着にダメージジーンズを合わせるような人物ばかりが登場する物語があってもいいだろう」。萩原聖人氏と木村拓哉氏を主演に置いた『若者のすべて』の背景には、そういった着想があったと明かす。

「当時、“ジモティー”という言葉が流行っていました。大学進学などで東京に来る若者がいる一方で、川崎や埼玉など東京近県の若者は生まれた場所に住み続け、地元愛を隠さない。ややもすれば東京に乗り遅れたとも言える、そんな若者たちの姿は現代的な不良性を持っていた」

恋愛ドラマは東京を中心に描かれるものが多かった。そのカウンターカルチャーとしての『若者のすべて』。“カッコ悪さの格好良さ”を描きながら、あえてドーナツ地帯から穴を覗き込んでみたかった。「男が憧れる存在としての分かりやすい不良性を演出するために、僕がプロデュースしたドラマって、バンドエイドが貼られていたり青タンできていたりするシーンが多いはず」。そう相好を崩す。

『若者のすべて』のエピソードを語る亀山氏
『若者のすべて』のエピソードを語る亀山氏

二大巨頭で勝負した『ロングバケーション』

亀山氏は、恋愛ドラマが得意ではないという。「『好きだ』と言えば、それで終わってしまう。無理やり感情を長続きさせるのが恋愛ドラマ」だからだ。上記、亀山プロデュース群を見ても、恋愛の要素はあっても、群像劇やコメディ性などプラスアルファを含んだものが圧倒的に多い。その中で、唯一と言っていい王道のラブストーリーがある。それが社会現象を生み出した『ロングバケーション』だ。

「木村拓哉と山口智子、二大巨頭がいるのだからストレートにこの二人で勝負しようと。全体の60%は、この二人で行こうという気持ちでした」

ただし、普通のラブストーリーでは面白くない。男女同居に端を発する奇妙な関係性を描くために、“婚約者が失踪し、そのルームメイトだったピアニスト(瀬名秀俊)の家に転がり込んで連絡を待つ”設定を思いつく。

「今でこそルームシェアは珍しくないですが、当時は海外では当たり前でも、日本ではレアなケース。どうしても同棲に見えてしまうため、“こういう場所ならこういうことが起きても不思議じゃない”と思わせる場所が必要でした。その場所が見つからなければ、このドラマは上手くいかないという気持ちでしたね」

理想の物件は、ニール・サイモンの原作に出てきそうな外階段がある建物……「なんて、あるわけない」と思っていたそうだ。ところが、奇跡的に隅田川沿いに見つかる。しかも、取り壊しが決まっているため、内装を自由に造り替えられるとも。神様がくれた休暇ならぬ、神様がくれた舞台装置、としか言いようがない。

「台所は見えないようにレイアウトしました。お酒はまだしも、食事のシーンを入れると同棲感が出てしまう。美術には、そういったことを伝えながらセットを作ってもらったのですが、『ニューヨークのソーホーにあるようなイメージ』とも伝えました。すると、バスケットリングを作ってしまい……作った手前、使わないと駄目だろうと思ったんですよね」

その結果、「ピアニストの瀬名がバスケなんかするわけないだろ!」と、今でいう炎上に発展。「ドラマなんだから、ねぇ?」、ばつが悪そうに微笑むが、それだけテレビの前の視聴者を見入らせたということだ。

ダサさ狙ったはずが流行に

同じ屋根の下で男女が暮らす以上、恋愛に発展することだってあり得る。ただし、すぐに双方が惹かれ合うわけにはいかない。そこで、木村拓哉演じる瀬名秀俊は、シャイで奥手でダサい男である必要があった。ところが――。

「ストレートだった髪の毛にパーマかけてもらって、音楽室に飾られているベタな音楽家みたいな髪型にしてもらうものの、何をやってもかっこよくなってしまうんですよ! 困ったなぁって(笑)」

急遽、亀山×木村による“どんなことがダサいか会談”が行われることになった。

「プリントTシャツを着ているのに、その上から白いシャツを着て、そのプリントが透けて見える」
「テロテロのジャケットを着て、ジーパンを履き、紐の革靴を合わせる」
「ショルダーバッグをたすき掛けにする」

数々のアイデアがわき出て、いずれも「素晴らしくダサい」。そう唸ったはずなのに、いざキムタクがそれを試すと、「全部絵になっちゃった」と笑う。たしかに、普通の人が真似しようものならマイナスのファッション戦士が爆誕するが、“テロテロのジャケットの下に、白シャツとプリントTシャツを合わせ、ジーパンに革靴姿のキムタク”は、もうメンズノンノの表紙である。さらには、「ドラマの反響が大きくなると、ジーパンに合うような紐の革靴を、靴屋が作り始めてしまった」というからすさまじい。影響力を持つ人間が、面白い作品と重なることで、多くの人にとって忘れられないものへと変わるのだ。

ダサくしようとした木村氏が「全部絵になっちゃった」と笑う亀山氏
ダサくしようとした木村氏が「全部絵になっちゃった」と笑う亀山氏

真摯にドラマと向き合う姿

「木村君はすごい」、そう亀山氏は尊敬の意を込めながら破顔する。

「『若者のすべて』の主題歌は、Mr.Children「Tomorrow never knows」でしたが、僕は現場で主題歌をよく流すようにしていました。というのも、主題歌ってそのドラマとシンクロするものだから、曲が持つイメージやパワーが、そのままドラマの雰囲気や意図を伝えることに役立つからです。木村君は、照明直しなどの合間に、「あの曲をかけてほしい」とリクエストし、体の中に刷り込んでリズム感を作っていた。真摯にドラマと向き合う人間なんです。彼とは、群像劇の『あすなろ白書』『若者のすべて』、ラブストーリーの『ロングバケーション』、そしてミステリーの『眠れる森』と異なるテイストのドラマで仕事をしましたが、そのつど全幅の信頼を寄せていましたね」

亀山千広

1956年、静岡県生まれ。株式会社ビーエスフジ 代表取締役社長
早稲田大学在学中に、映画監督・五所平之助の書生を務め、映画製作を経験する。1980年フジテレビ入社後、編成部および第一制作部を経て、編成制作局局長に。代表的なドラマプロデュース作品に、「ロングバケーション」「ビーチボーイズ」「踊る大捜査線」など。2003年よりフジテレビ映画事業局長として、「踊る大捜査線」シリーズをはじめ「海猿」シリーズ、三谷幸喜監督作品、「テルマエ・ロマエ」などの製作を手がける。2013年同社代表取締役社長、2017年より現職。

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