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連載

#26 帰れない村

ダム建設で移住、そして原発事故「育った集落消滅、あまりに悲しい」

野生動物が侵入し、朽ち果てそうな自宅で途方に暮れる佐々木茂さん=2021年2月、福島県浪江町津島地区、三浦英之撮影
野生動物が侵入し、朽ち果てそうな自宅で途方に暮れる佐々木茂さん=2021年2月、福島県浪江町津島地区、三浦英之撮影

目次

帰れない村
東日本大震災から間もなく10年。福島県には住民がまだ1人も帰れない「村」がある。原発から20~30キロ離れた「旧津島村」(浪江町)。原発事故で散り散りになった住民たちの10年を訪ねる。(朝日新聞南相馬支局・三浦英之)

国道沿いの小さな資料館

旧津島村の国道114号沿いに、小さな私設の資料館がある。

「昔の農家資料館」の看板が掲げられている。震災翌年に避難先で亡くなった佐々木ヤス子さん(享年84)が、集落での生活を後世に残したいと、1994年に開設した施設だ。

国道114号沿いに建つ「昔の農家資料館」=2021年2月、福島県浪江町津島地区、三浦英之撮影
国道114号沿いに建つ「昔の農家資料館」=2021年2月、福島県浪江町津島地区、三浦英之撮影

「嫁の時代、主婦の時代、老後の時代、変わりゆく自分を見つめて、社会の片すみの御役に立てたらと考え、昔の姿を復元して、ごらんいただきたく」と設立の趣旨が刻まれている。

展示品は圧巻だ。農作業や養蚕で使われていた木製の農耕具や地域の伝統芸能で用いられた衣装、昭和初期の台所用品に加え、鳥類のはく製、手作りの古民家の模型など計約600点。「飯を食わない物は三年保存すべし。いつか役に立つときがある」との「お姑様の教え」も飾られている。

特に目を引くのが、88年に完成した大柿ダムのジオラマだ。「17戸の水没者の方々は地域発展のために住みなれた土地と昔からの歴史を後にして移転した」。細かな文字で移転者の氏名が記されている。

ヤス子さんが作った手製の大柿ダムのジオラマ=2021年2月、福島県浪江町津島地区、三浦英之撮影
ヤス子さんが作った手製の大柿ダムのジオラマ=2021年2月、福島県浪江町津島地区、三浦英之撮影

「生まれ育った集落が消滅する」

「大柿ダムの建設で、この大昼集落からは3分の1の家が立ち退いた。そして今度は原発事故だ」

次男の茂さん(66)=二本松市に避難中=がジオラマの横で言う。

震災前、22世帯が暮らしていた大昼集落は、今も全域が帰還困難区域だ。政府が除染を進めて避難指示解除を目指す「特定復興再生拠点区域」からは外れているが、政府が昨年、主要道脇の建物の取り壊しを認める方針を示すと、状況が一変。対象の全戸が解体を検討していると聞いた。

「生まれ育った集落が消滅する。そんなの、あまりにも悲しいじゃないか」

99年に大手企業を退職し、故郷の津島に戻った。実家の梅林を利用し、母や弟と梅干しやキュウリ、ナスなどの漬物を売った。

原発事故後、ヤス子さんは「展示品を次の世代に残してほしい」と言い残して逝った。茂さんは昨年末、浪江町内に約1500万円かけて倉庫を建設し、展示品の大半を移した。

浪江町内の倉庫に運び出された展示品を手に取る佐々木茂さん=2021年2月、福島県浪江町酒田、三浦英之撮影
浪江町内の倉庫に運び出された展示品を手に取る佐々木茂さん=2021年2月、福島県浪江町酒田、三浦英之撮影

母が残したかったのは

でも、葛藤が消えない。

「母が残したかったのは民具ではなく、この集落の暮らしそのものなのではなかったか」

母が大好きだった集落が今、消えようとしている。

「本当にいいのか。このままでは、俺たちは廃村、棄民だよ」

 

東京電力福島第一原発の事故後、全域が帰還困難区域になった福島県浪江町の「旧津島村」(現・津島地区)。原発事故で散り散りになった住民たちを南相馬支局の三浦英之記者が訪ね歩くルポ「帰れない村 福島・旧津島村の10年」。毎週水曜日の配信予定です。

三浦英之 2000年、朝日新聞に入社。南三陸駐在、アフリカ特派員などを経て、現在、南相馬支局員。『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で第13回開高健ノンフィクション賞、『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』(布施祐仁氏との共著)で第18回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で第25回小学館ノンフィクション大賞を受賞。最新刊に新聞配達をしながら福島の帰還困難区域の現状を追った『白い土地 福島「帰還困難区域」とその周辺』と、震災直後に宮城県南三陸町で過ごした1年間を綴った『災害特派員』。

南相馬支局員として、原発被災地の取材を続ける三浦英之記者
南相馬支局員として、原発被災地の取材を続ける三浦英之記者
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