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連載

#230 #withyou ~きみとともに~

日に焼けただけなのに…高校時代の「黒染め」 乗り込んだ職員室

「先生だけの力で『見た目を重視する社会』を変えることはできなかった。だからこそ…」

イラスト・しろやぎ秋吾
イラスト・しろやぎ秋吾

目次

中部地方出身の女性は高校時代、日焼けした髪の毛の色を黒く染めるように言われた友人に代わり、職員室に乗り込んだ経験があります。「全然納得できなかった」と当時を思い出しつつ、30代になったいま、「正論と正論のぶつかり合いだったのかも」と考えるように。イラストレーターのしろやぎ秋吾さん(@siroyagishugo)がマンガにした女性に、あらためて話を聞きました。
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この企画は、インスタグラムやツイッターを中心に作品を発表している、イラストレーターのしろやぎ秋吾さん(@siroyagishugo)との共同企画です。「10代のときにしんどかったこと、どう乗り越えましたか?」とSNSでエピソードを募り、しろやぎさんがマンガ化したエピソードの中から記者が取材を進めています。
《マンガ全編はフォトギャラリーで読むことができます》

友人の処遇に「怒りでいっぱい」

女性は、中部地方に住む33歳のKさん(匿名)です。
当時、屋外での部活動に所属していたKさんは、同じ部活の友人から、服装指導でひっかかってしまったことを相談されます。
Kさんの学校は「地毛登録」の提出が必要で、Kさんの友人は黒髪で登録を出していたそうです。しかし、長時間の屋外での部活を通じて髪の毛は茶色がかっていました。

「そもそも染めることが校則違反なのに、日焼けで茶色くなった髪を黒く染めるっていうのはどういうこと?と本当に納得がいきませんでした」

その怒りをそのままに、放課後、単身職員室に乗り込んだといいます。

そのとき職員室にいたのは、厳しい指導で有名な英語の女性教師。
「職員室に行くまでは怒りでいっぱいだった」というKさんでしたが、その先生一人しかいない職員室の雰囲気に、「この人と戦うのかと、一瞬『あ…』と、ひるみました」。
でも「勢い」で対峙することを決め、先生と1対1で向き合うことにしました。

イラスト・しろやぎ秋吾
イラスト・しろやぎ秋吾

2時間話し合ってもかみ合わず…

先生は、Kさんの思いをじっと聞いてくれた上で「あなたの言うことも分かるけど」という教師としての見解を説明したといいます。
そのとき先生が強く言っていたのは、「この先社会に出たら、見た目で判断されることもある」ということでした。
それでも先生の言い分に納得がいかなかったKさんは、「黒髪ではない留学生が来たら、黒く染めろと言うんですか?」などと、何度も思いを伝えましたが、話がかみ合うことはありませんでした。

「先生も、教師としての考え方を何度も伝えようとしてくれていたんですが、私の中には入ってこなかったんです」

結局2人の対話は2時間ほどにおよび、部室に戻った時にはあたりは真っ暗になっていたといいます。

イラスト・しろやぎ秋吾
イラスト・しろやぎ秋吾

「正論と正論の戦いだった」

「正論と正論の戦いだったと思います」

当時を振り返ってKさんはつぶやきます。
「日焼けをしてしまった髪を黒く染めるのは、そもそも染髪を禁止する校則に違反している」と主張するKさんと、「社会に出たら見た目で判断されることもあるから、黒く染めるべき」と主張する教師側。
「私が言っていたことも、先生が言っていたことも間違いではなかったと思います」

「先生だけの力で見た目を重視する『社会』を変えることはできなかった。だからこそ先生も葛藤を抱えていたと思う」

イラスト・しろやぎ秋吾
イラスト・しろやぎ秋吾

「見た目重視」の社会に送り出す教師、「葛藤あるのでは」

そんな先生の立ち場を理解できるようになったのは、「『見た目で判断される』社会」の中で会社員として働くようになってから。

「自分が大人になり経験を重ねていく中で、会った瞬間『怖そうな人だな』とか『きつそうな人だな』とか、外見から受ける印象というのはどうしてもあります」
「もちろん関わってから『そんなことなかった』とか『話してみたらいい人だった』とかいうことはあるんですが、最初の印象で『関わらない』という判断をする場合だってあります」
それがとてももったいないとKさんは感じています。

だからこそ、高校生当時の先生の対応に、いまなら一定の理解ができるのだといいます。

多様化している社会の中で、厳しい校則で子どもたちを縛ることにもちろん疑問は感じつつ、「でもやっぱり、まだまだ社会では『見た目』が重視されてしまっている。その社会に子どもたちを送り出す責任のある教師がそういう指導をするのも仕方ないのかな…」

先生の立ち場が理解できるようになったとはいえ、Kさんもまた葛藤を抱え続けてています。

ブラック校則、話し合いで変える学生「素晴らしい」

その一方で、最近では「見た目」に関わるものも含まれる理不尽なブラック校則を、生徒と学校との話し合いの中で変えていくという動きもあります。

Kさんはそのことについて、「その学校の出身者が就職や進学をするときに、この子は学校を変えたんだ、学校という組織を変え、変えた校則を守った上で『この子』なんだ、と判断されればそれは素晴らしいと思います」。

Kさんは、会社で働く一人の社会人として、「結局企業は、校則を守っているかどうかを協調性があるかないかの判断材料として見ているところがあります。だからこそ、何か物事を変えるときには、個人が組織を動かした結果としてやらないと、『身勝手』と判断されてしまうこともあるんだと思います」と話します。

イラスト・しろやぎ秋吾
イラスト・しろやぎ秋吾

「おかしい」を変えるには、声をあげて

記者は、Kさんの取材を終え、ルッキズムの根深さを感じました。

Kさんは「外見で判断されることは社会的な問題だと思う」としつつ、「大きな社会の流れは先生にもどうすることもできなかったと思う」と当時を振り返っていました。

すでに決められている校則については、「おかしい」と思って一足飛びに一人だけでその校則を守らなかったら、それは残念ながら「ルールを守っていない」と判断されてしまいます。

それが人権に深く関わる、明らかに不合理な校則なのかどうか納得してもらうためにはどうすればいいのか。Kさんの「個人で動くだけでなく、組織を変えていくことが重要」という考え方に、共感しました。


おかしいと思ったら声を上げること。そして、周りを巻き込んで「どうやったら変えられるか」を話し合っていくこと。その過程があれば、小さな集団から大きな集団、社会までも変えていくことができるのではないかと思います。

「地毛証明」の問題は、社会を変えるムーブメントにつながる先例も出てきています。

できることはなにか、考え、周りに話してみるのも一つの手ではないでしょうか。

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