連載
#228 #withyou ~きみとともに~
文化祭の〝危機〟に奇策 ネットで全国つなぐ高校生「最後に思い出」
「いまできるのは、オンラインでのコミュニケーションを拡充させていくこと」
コロナ禍で学校行事が中止になったり、例年より規模を縮小して開催する学校などがあった2020年度の終わりに、「全国の高校生をオンラインでつなぎ、ネット上で文化祭をしよう」という企画が高校生たち自身の手によって走り出しています。企画している高校生の一人は、「僕たちなりの乗り越え方を見せたい」と話します。話を聞きました。
「全国オンライン学生祭」開催のきっかけは、昨秋のこと。
「文化祭という学生にとって一度きりのイベントができなくなってしまった彼らを可哀想に思っていた」というLUCKが9月、多摩生徒会協議会にメールを送ったことがきっかけでした。
「大人が『一緒にやろう』と声をかけてくれるのは初めての経験で、びっくりしたというのが正直なところ」と章さんは笑います。
LUCKからの提案を受けて実際に「全国オンライン学生祭」というテーマで企画を考え始めるまでに1カ月かかりました。
しかし、そこからはトントン拍子で話し合いが進んで行ったといいます。どんな企画を立ち上げようか、企業に協賛を募れないか――。LUCK代表の小川凜一さんも「想像もできないバイタリティー」と称讃します。
「イベントの準備が始まると、学生たちは主体的に、僕たち大人からは想像もできないバイタリティで様々な企業や人々を巻き込んで企画を作り出していて、本気で全国の文化を変えるという想いで企画の準備を進めています」
現在は、学校が終わったあとの放課後の時間を使ってオンラインミーティングを重ね、企画を練り上げていっています。
全国オンライン学生祭では、10前後の企画が用意されています。
その中の一つに「文芸コンテスト」があります。責任者の森木花歩(かほ)さん(都立国分寺高校2年)は、LUCKや運営メンバーとの話し合いの中で、「自分になかった視点がもらえた」と話します。
生徒会役員として、学校内で自転車マナーなどに関する企画書を出すこともあるという森木さんですが、あくまで、それは学校内での話。
「外の視点を介すことで、これまで『やりたい』という自分たちの気持ちだけで考え、漠然としていた企画が、読者側の立ち場を汲んだりすることでわかりやすくなっていきました」
運営メンバーたちは、従来通りの学校生活が送れなくなっている日々をどう考えているのでしょうか――。
代表の章さんは「いまの生活は直接的なコミュニケーション少なく、つらいこともある」と話します。章さんが通う学校では、例年なら体育の授業では試合形式でチーム競技に取り組んでいましたが、現在は感染拡大防止の観点から、個々で取り組める体力作りに大半の時間が割かれています。
「『学校でなにを学ぶか』の一つに、社会性を学ぶということがあると思います。体育の授業のこともそうだし、昼ご飯の時にしゃべってはいけないことも、部活ができないことも、社会性を学ぶ機会が減っているということになる」
ただ、この状況になり、社会性を学ぶ別の機会としてオンラインがあると気付かされたといいます。
「いまの状況を責めても仕方ない。いまできることは、オンラインでのコミュニケーションを拡充させていくことだと思います」
鈴木莉恩(りおん)さん(昭和第一学園高校2年)は、「学びに関しても、自分はこれをチャンスだと思っている」と話します。
将来教育関係の職に就くことを目指しているという鈴木さんは、「学校に行くのがつらい子もいる中で、いま、オンラインでの学びの経験を積んでいくことで、将来的にもその子たちへの対応ができるようになるかもしれない」。
章さんは今回のイベントを「我々なりの社会課題の乗り越え方を見せたい」と意気込みます。
「人口減など、解決すべき社会課題は今回のコロナだけに限りません。社会課題の一つとしてコロナをみて、その乗り越え方を自分たちなりに考え、『乗り越え方』と提示するに値するクオリティーを目指したい」
今回の企画では、学生たちをサポートする立ち場でもある、LUCKの小川さんは「新しい時代に戸惑う大人をよそに、学生たちは変化などは当然のこととして、生き生きとそこに新しい文化を作り出して行く。いつのまにか、学生たちを導くつもりで参加していた僕たちが、導かれ、学ぶ機会をもらっているような気持ちです」と話しています。
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