連載
#23 帰れない村
帰れない村の「原状回復要求」どうしても外せなかった 弁護士の思い
「国や東京電力は責任を持って、放射能で汚された地域を、元の状態に戻すべきだと考えています」
福島地裁郡山支部で7月に判決が予定されている「津島原発訴訟」。旧津島村の住民約700人が国や東電を相手取って起こした裁判で、弁護団の共同代表を務める小野寺利孝弁護士(79)は、裁判の趣旨を説明する。
津島訴訟には、大きな二つの特徴がある。
一つは、原告全員が帰還困難区域の住民で、誰一人自宅に戻れていないこと。
もう一つは、原告が国や東電に津島地区を除染し、再び暮らせるよう「原状回復」を求めている点だ。
原発事故を巡る全国各地の避難者訴訟が、国や東電の責任の有無を事実上の焦点としているなか、難しいとも思える「原状回復」を求めることに、初期の弁護団でも意見が分かれ、約3分の1の十数人の弁護士が離れた。
「でも、この裁判では『原状回復』の要求をどうしても外せなかった。原告の多くが『元のように住めるなら賠償金はいらない』という人ばかりなのです」
いわき市の出身。1歳半で父の死去後、母が常磐炭鉱の採炭夫と再婚したため、旧内郷町(現・いわき市)の炭住街で貧しい生活を送った。
中学入学後に義父が肺結核を患い、炭鉱を解雇。磐城高校に進学したものの、両親が離婚したため、化学工場に就職した。
しかし、大学進学の夢を諦められず、退職。浪人して中央大に入学し、在学中に司法試験に合格した。
炭住街では、炭鉱の事故でけがをした男たちがタンカに乗せられて病院に運ばれていくのを目の当たりにした。労働環境や貧困の問題など、社会のひずみを少しでも解決したいと、人権派弁護士として常磐じん肺訴訟など、数々の公害訴訟に取り組んできた。
「すべての人間の『人権』を尊重することが、民主主義の基本。その『人権』が損なわれたとき、回復する手段の一つが裁判であり、それを担うのが弁護士の役目だと思う」
2013年秋に地元町議を通じて訴訟の依頼が持ち込まれた時、即座に引き受けることを決めた。
「津島には原発事故前、豊かな自然や文化、コミュニティーがあった。それらは住民にとって『人権』そのもの。それらが今、著しく失われ、踏みにじられているのです」
三浦英之 2000年、朝日新聞に入社。南三陸駐在、アフリカ特派員などを経て、現在、南相馬支局員。『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で第13回開高健ノンフィクション賞、『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』(布施祐仁氏との共著)で第18回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で第25回小学館ノンフィクション大賞を受賞。最新刊に新聞配達をしながら福島の帰還困難区域の現状を追った『白い土地 福島「帰還困難区域」とその周辺』と、震災直後に宮城県南三陸町で過ごした1年間を綴った『災害特派員』。
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