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「鬼滅」じゃなくて「滅鬼」では? 校閲記者が気になった…タイトル

古代人にもあった?〝文法ミス〟

「鬼滅の刃」1巻表紙のタイトル部分=©吾峠呼世晴/集英社
「鬼滅の刃」1巻表紙のタイトル部分=©吾峠呼世晴/集英社

目次

劇場版の興行収入が過去最高を記録した「鬼滅の刃」(きめつのやいば)。原作コミックスは、累計発行部数が1億2千万部に達しました。「鬼滅~」には、刺激的で、ちょっと悩ましい「ことば」が満載です。新聞社の校閲記者視点で気になったのが、ずばりタイトルです。「漢文なら〝滅鬼(めっき)〟では?」。真相を確かめることにしました。(朝日新聞校閲センター記者・田辺詩織)

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古代人にもあった?〝文法ミス〟

先日、朝日新聞の読者から「『鬼を滅する刃』なら、漢文の文法上は『滅鬼』(めっき)がよいのでは?」という質問が寄せられました。語順が逆のほうがいいのでは、というのです。

確かに「書を読む」は「読書」、「天を仰ぐ」は「仰天」といったように、動きを表す熟語の多くは、目的語に当たる漢字が後ろに来ます。

漢字・漢語の専門家でつくる日本近代語研究会に、話を聞いてみました。

すると「字の順番どおりに『鬼が滅する』と読むこともできます」とのこと。ただし、「それだと(鬼殺隊が)『鬼を滅する』という能動性が薄まってしまう」ともいいます。

研究会は、漢文の文法ではなく「日本語の語順通りに漢字を並べてしまうことは、古くからありました」と説明します。

たとえば「初心忘るべからず」を漢文にする際、「不可忘初心」とすべきなのに、「初心不可忘」と「日本語っぽく」してしまう例があるというのです。室町時代の能役者・世阿弥も、みずからの能楽論「花鏡」(かきょう)のなかで「初心不可忘」という語順で、このことばを紹介しています。

さらにさかのぼれば飛鳥時代、奈良・法隆寺の薬師如来像に刻まれた銘文には「薬師像作仕奉」(薬師像を作り仕え奉る)とあります。が、漢文で正しく書くなら、語順は「作薬師像~」となるはず。あえて日本語風に書いたのか、間違えてしまったのかは、議論が分かれているそうです。 古代人にも漢文法のマスターは難しかった――なんてこともあるのでしょうか?

世阿弥作の能「花筐(はな・がたみ)」は味真野を舞台に男大迹王と愛する女性の恋を描く。その2人の像が越前市の庭園に立っている=2020年3月7日、福井県越前市余川町
世阿弥作の能「花筐(はな・がたみ)」は味真野を舞台に男大迹王と愛する女性の恋を描く。その2人の像が越前市の庭園に立っている=2020年3月7日、福井県越前市余川町 出典: 朝日新聞

「和製漢語」説が浮上

そんな話とはまた別に、研究会は「鬼滅」というネーミングの背景には「おにほろぼし」のような日本語的な表現や発想があるのかもしれない、とも推測します。

たとえば、「さかづくり」という語に「酒造」の漢字をあて、さらに音読みで漢語風に「しゅぞう」と読むようになった例があります。以前から和語として存在したことばに、あとから漢字があてられて、それが漢語風に読まれるようになっていった――というものです。そのようにして日本で作られた漢語は「和製漢語」と呼ばれます。

日中対照言語学が専門の成城大学教授・陳力衛さんも、「和製漢語」説を推します。たとえば「心配」ということばは、「心を配る」という句が元になったと考えられるといいます。

これらを踏まえると、「鬼滅」は「鬼を滅ぼす→鬼滅(おにほろぼし)→鬼滅(きめつ)」のように変化してできた、と見ることもできるのです。

「きめつ」という音の印象に関しては、どうでしょう。日本近代語研究会も、陳さんも、「滅鬼の刃とすると、メッキのやいばとも聞こえ、イメージが安っぽくなる」と感じています。また、「きめつ」という斬新な音の並びをつくることで「強烈なイメージを持たせる効果がある」ともいいます。

「鬼滅」という日本語らしい文字の並び、音の響きには、タイトルにふさわしいセンスが光っていると言えそうです。

ずらりと売り場に並んだ「鬼滅の刃」の23巻=2020年12月4日午前9時18分、東京・渋谷、嶋田達也撮影
ずらりと売り場に並んだ「鬼滅の刃」の23巻=2020年12月4日午前9時18分、東京・渋谷、嶋田達也撮影
出典: 朝日新聞

集英社の「見解」は……

こうなると、なんとしても「真相」が知りたい!

コミックスを出版する集英社の広報担当に、「鬼滅」の真意について直接、尋ねてみました。すると「本作についての取材は受け付けておりません」というお返事……。

作品をめぐる考察はファンを中心に盛んに交わされていて、それ自体が大きな楽しみになっています。ひとつの「正解」をあえて提示せず、考える余地が残されていることこそ、人気の秘訣(ひけつ)ではないでしょうか。

 

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