連載
#21 帰れない村
DASH村「あんなに有名になるとは」 地主が見続けたTOKIO
「あの土地を復興のシンボルとして使ってくれるなら、無償提供したいと思っているんだ」
旧津島村の元浪江町議、三瓶宝次さん(84)は取材に語った。
「あの土地」とは、日本テレビ系列の番組で、アイドルグループ「TOKIO」が農作業を体験した「DASH村」があった場所だ。親類が開拓した土地を買い取り、三瓶さんが管理してきた。
「まさか、あんなに有名になるとは思わなかった」
ある日、福島出身のディレクターがやってきて、「ロケ地に使いたいので貸してほしい」と頼まれ、自宅から約2キロ離れた約4ヘクタールの山林や田畑を貸した。
ディレクターが語る番組名も、TOKIOというアイドルグループも、聞いたことはなかった。番組に出て、農作業を指導してほしいと頼まれたが、当時町議だった三瓶さんが出演するとロケ地がばれてしまう。番組では「DASH村」の場所は秘密だった。
三瓶さんは裏方に徹し、番組には妻や知人を登場させて、TOKIOのメンバーに農作業を教え込んだ。
「彼らはいつもハキハキとしていて、一生懸命農作業に取り組んでくれた」
古民家を舞台に、アイドル自らが田植えや炭焼きを体験し、自給自足の生活を送る。そんな農作業の風景が、高齢者には懐かしく、都会の若者の目には新鮮に映った。TOKIOは「農業アイドル」として有名になり、若者の間に田舎暮らしのブームが起きた。
しかし、2011年の原発事故で津島は帰還困難区域になり、「DASH村」にも入れなくなった。それでも、いつか「村」が再開される日が来ると信じて、草刈りなどの管理を続けてきた。
「TOKIOにも色々と事情があるのは報道で知っている」と三瓶さんは言う。「でも、『DASH村』は今も多くの人の心に生き続けている。撮影は無理でも、ファンが当時使われていた古民家を訪れたり、若者が実際に農作業を体験したりできる、そんな津島の復興の足掛かりにできないだろうか」
三浦英之 2000年、朝日新聞に入社。南三陸駐在、アフリカ特派員などを経て、現在、南相馬支局員。『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で第13回開高健ノンフィクション賞、『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』(布施祐仁氏との共著)で第18回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で第25回小学館ノンフィクション大賞を受賞。最新刊に新聞配達をしながら福島の帰還困難区域の現状を追った『白い土地 福島「帰還困難区域」とその周辺』。
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