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手紙でしか予約できない宿なのに…コロナ後もお客が途切れない理由
「パソコンよりも便利なんです」
新型コロナウイルスで世の中が揺さぶれる中、以前と変わらない暮らしを続けている場所があります。岩手県野田村にある宿「苫屋(とまや)」は、電話もインターネットも使わず、手紙でしか予約ができないことで知られています。そんな、一見、不便と思われる「苫屋」ですが、コロナ後も変わらず宿泊客が訪れているといいます。私たちにとって、本当に必要なものは何か? 2020年12月、オンラインでつないだ「苫屋」の囲炉裏を囲みながら、考えました。
テーマ①「苫屋」とは?
〈ここで一度、現地から宿の内部を紹介するバーチャルツアーの時間がありました。電話もインターネットもない宿からの中継、少し不思議です。オンラインイベントの利点を生かし、その場で視聴者からの質問を読み上げる時間も。まずは窓の外に見えた雪についての質問です〉
視聴者:苫屋の周りの雪は、多い時どれくらい積もるんですか。
坂本充さん(以下、充さん):一晩で60センチくらい積もるのが、1シーズン3回くらいあるのが普通でした。ここのところ温暖なのか、すごく減っていますね。この季節にこの寒さは珍しいくらい寒いですよ。靴下3枚履いてます。
〈苫屋内のツアーを終えて、イベントに戻ります〉
御船記者:北野さん、バーチャルツアーをご覧になっていかがですか。
北野さん:個人的にはすごく懐かしいなと。私の祖父母の家が鹿児島の中山間地域で、雪の降るようなところなんです。私が子供の頃ですと、練炭のこたつがあるような家で、冬になると、他の部屋に行くと寒くて寝られないということがありました。そういう感じだったので、ホッとするんだろうなあという感じがします。
御船記者:北野さんのお話で、少し前の日本であれば同じようなおうちもたくさんあったのではないかと思うのですが、当時の暮らしを今も自然体で続けていらっしゃるような感じなんでしょうか。
充さん:まあ、そうですね。こういう経験をしたことがないようなはずの小さな子供でも、懐かしさを感じることもあるみたいです。
久美子さん:人間のDNA に火が組み込まれているのかもしれない。
御船記者 :予約する方法が手紙だけというのが特徴的かなと思いますが、どうして手紙だけなのかを改めて伺えますか。
久美子さん :(宿が)できた時に、電話がなかった。だからそのまま手紙で良くて。私にとって手紙は、1番便利。
御船記者 :取材させていただいた時に、自分のペースで読めて、自分のペースで返せるとおっしゃっていましたが、リズムを崩されないということですか。
久美子さん :うちはポストも7キロ以上行かないと無いから、郵便屋さんが毎日郵便物を届けに来てくれるので、右手で受け取って、左手でお願いしますと(新しい手紙を渡す)。パソコンは起動のボタンを押すじゃないですか。私の場合、それさえなく手紙のやりとりができるから、何と言っても便利なんです。
〈ここでまた、視聴者から質問が〉
視聴者:客室の2部屋と、ランチ(営業)の時にテーブルを置いている部屋で計3部屋あると思うんですが、それで経営的に成り立つのでしょうか。
久美子さん:十分暮らせています。
御船記者:充さんが畑をお持ちで、たくさん栽培されているんですよね。
充さん:そうですね。使うお金が少ないのもあるかも分からないけれど、でも冬に遊びに行くこともありますから。それなりの暮らしができていますよ。
別の視聴者:充さんは、岩手のご出身ですか。関西弁が交じっているような気がして。
充さん:兵庫県の神戸出身です。
久美子さん:私は栃木県です。
御船記者:二人は野田村に来るまで、トラックを改造したキャンピングカーで日本中を巡っていたという話でしたね。旅の最北端が野田村で、そこで今、定住されています。
御船記者:北野さんは、苫屋にどういう魅力があると思われますか。
北野さん:囲炉裏があって、部屋を変えると寒いというのは、今の暖房が充実している居住空間では、なかなかないです。でも、昔を考えると当たり前。だけど、その当たり前を経験できる宿は少ないので、貴重ですし、原体験をくすぐる良い宿なのかなと思います。
別の観点で、実は、手紙でやりとりするのが新しいのではないか、と思っています。デジタルになればなるほど、色々なお客さんが来ます。手紙という風にした時点で、本当に行きたい人じゃないと書かないと思うんです。ある意味、新しいやり方なのかなと考えました。
〈次のテーマに移る前にもう一つ質問が〉
視聴者:ひっきりなしに予約が入るとのことでしたが、広報はどのようにされているのですか。
充さん:別に何もしていないというか、村の観光協会のホームページでは出ているでしょうけど、それも見たことがないからよく知らないですね。
久美子さん:お客さんが広報してくださる。
御船記者:口コミでどんどん広がっていくという感じですね。
充さん:ネットでなんとなく調べていたら出てきたという若い人も増えていますね。
テーマ②「コロナ」と観光
〈苫屋がある岩手県は、7月まで新型コロナウイルスの感染ゼロが続いていた都道府県としても注目されていました。コロナ禍における観光がどうなっているのかを考えていきます〉
御船記者:岩手県は唯一、感染が確認されていない県と全国から注目を集めていました。その分、県内の1例目として確認されてしまった患者に関しては、一時期、誹謗中傷のようなものも寄せられました。ただ、そういう誹謗中傷は良くないねという動きが活発になり、患者の元へ、花や励ましのメッセージが送られることもありました。
御船記者:11月になって初めてクラスターが確認され、そこから全国の流れと同じように増加傾向になっています。北野さんにお伺いしたいのですが、ソトコトオンラインで編集長をなさっていて、地域の観光は影響をどのように受けているのでしょうか。
北野さん:大変だと思います。その一方で、変わった動きも出てきてます。例えば、通信販売が活発になったり、SNSでの発信が活発になったり。地域への思いや良さをどう伝えるか、というところに関しては、ある意味、コロナがきっかけとなって、活性化したんじゃないかな、次のステージに進んだのではないかな、と思っています。
御船記者:調べていると、一部の宿でオンライン宿泊がありました。コロナ禍で観光は少しアップデートしているのかもしれません。
北野さん:まさに和歌山の熊野でやってらっしゃる「Why Kumano(ワイ クマノ)」ですね。ソトコトのオンラインサロンでもオーナーに来ていただきました。来ていただいてと言っても、zoomなんですが、現地とつないで対談しました。コロナがきっかけになって、世界中からお客さんがオンラインで来るようになったと。何が起きるかというと、宿を知ってもらう、また訪れたいなというきっかけが加速したとおっしゃられていて。まさにコロナが生んだ次のステージと言いますか、工夫の結果かなと思っています。
〈ここで、「ロックダウン中のドイツからだという視聴者から参加しています」というメッセージが届きました。実際に苫屋でも次のステージに進んだような気分です〉
御船記者:苫屋ではどうだったんでしょうか。何か新型コロナウイルスの影響を受けたことがあれば伺ってもよろしいですか。
充さん:4月10日から5月いっぱいは休んでいました。岩手で(感染者が)出るまでの方が、東京の常連さんたちは来にくいと遠慮していましたね。その時に、さっきの話のように、オンラインで宿泊できていれば、喜ぶ人もいたでしょうね、多分。
久美子さん:でも、どうやって?お手紙宿泊…。緊急事態宣言の時は、お客さんに苫屋の絵はがきを送って、遊んでいましたよ、私たち。28年岩手にいて、初めて連休をとったので、初めてお花見しましたからね。きれいだなと思って。野田村の美しさを改めて知らせてもらった感じ。コロナが私たちにくれたのは、身の回りにある美しさにもう一回気がつけたこと。あと、自分の時間をもう一回見つめ直す機会をくれたことかなと思います。
〈次のテーマの前に、また質問が〉
視聴者:来られるお客さんに共通することってありますか。例えば、感性とか求めていることとか。
久美子さん:何か楽しいこと探しているのかな。
充さん:何というかな、単純な本物を求めているということじゃないかな。この火が本物、とかね。
久美子さん:自然の美しさも、岩手にいたら当たり前だけど、都会の人には本当にびっくりするぐらい、きれいだろうし。お水の冷たさもそうだし。空の青さもそうだから。きっと今まで見られなかった自然というか、そういうものを探される人かなあ。
充さん:時間の流れも、ね。本当は時間の流れって、全員平等なんだけれども。感じ方がゆっくり感じられるんじゃないですかね。
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