顔の変形やアザといった外見の症状のため、生きづらさを抱え、学校生活や恋愛、就職活動で苦労する「見た目問題」。当事者の中には、「ふつう」と異なる外見ゆえに、アルバイトなどの面接で冷遇された人もいます。就活での「顔差別」をなくす上で、履歴書から写真を削除する必要があるのでは? 容姿への偏見は、なぜ生まれるのか? 見た目問題の当事者2人と、「ブス」にまつわる著書がある作家・山崎ナオコーラさんが、トークイベントで本音を語りました。(ライター・雁屋優)
2020年11月末、「ブス×見た目問題 生きづらさの正体は?」と題したオンラインイベントが開かれました。登壇したのは、以下の4人です。
山崎ナオコーラさん
作家。42歳。恋愛、結婚、仕事、子育てといった身近な話題について「常識」や「固定観念」を揺さぶる作品を発表。著書に『ブスの自信の持ち方』『肉体のジェンダーを笑うな』など。
神原由佳さん
ソーシャルワーカー。27歳。生まれつき肌が白く、髪色が金髪のアルビノ。ずっと外見に違和感があったが、少しずつ誇りに思えるようになった。
吉村さやかさん
日本大学大学院博士課程・日本学術振興会特別研究員。34歳。小学校1年生のときに円形脱毛症を発症し、全身の体毛が抜ける。髪の毛のない女性の生きづらさをテーマに研究。
岩井建樹記者
朝日新聞。40歳。長男(10)が右顔の表情筋不形成で生まれ、笑うと表情が左右非対称になる。著書に『この顔と生きるということ』。
トークイベントでは、署名サイト「Change.org」で昨年9月から始まった「履歴書から写真欄もなくそう」キャンペーンについて、話題になりました。
署名活動の趣旨はこうです。「履歴書の顔写真からすり込まれる印象によって、その人の能力や人柄が適正に評価されない可能性がある。ましてや外見に症状がある人は、不利な扱いを受けてしまう恐れがある。そもそも履歴書は仕事の適正や能力を知るための手段に過ぎない。そうであるなら、顔写真は不要だ」
【関連リンク】「履歴書に写真欄はいらない」アルビノ当事者が顔差別撲滅に動く理由
出演者からは、様々な意見が出ました。
神原
見た目による就職差別をなくすことを目指した試みであり、おおむね賛成です。でも、自分の経験を振り返ると、100%賛成とも言えません。
履歴書の顔写真を見ておくことで、面接担当者も「次はこんな子が来るんだな」と、心の準備ができると思うんです。でも顔写真がないと、驚いた採用担当者に、思わず目をそらされたり、険しい顔をされたりして、面接の空気が凍る恐れがあると思います。大学生のときのアルバイトの面接がそうでした。
就活で18歳や22歳の子が、そうした凍った空気を自分の語りで覆すのって、相当難しいのでは? それで不採用になったら「見た目のせいかな」と思ってしまう。どうせ落ちるなら書類で落ちた方がまだダメージが少ないかなって。
だから、顔写真については、外見に症状がある当事者を含めた議論がもっと必要かなと思います。
吉村
私のパートナーであり、アルビノの当事者で社会学者の矢吹康夫が、この署名活動の発起人の一人です。見た目問題の当事者ではない人たちから、顔写真は「面倒くさい」「コストがかかる」といった声が寄せられているそうです。
顔写真を採用で有利になるための「戦略」として利用する人もいますが、不要と感じている人たちもいます。そうした当事者以外の方々の賛同が広がるかどうかに、私は注目しています。
山崎
私はこの試みに100%賛成です。履歴書から顔写真をなくしたほうがいい。私はアルバイトや就活で、履歴書に写真を貼るのがすごく嫌でした。それがなかったら、負担が軽かっただろうなと思います。
なんのために必要なんだろうと思っている人が多いと思うんですよね。今は履歴書から性別欄を無くそうという活動もあります。私は「性別非公表」にしているんですけど、それだけでも心の負担が軽くなるんです。「どうせ面接をしたら顔はわかる」という意見もあると思うけど、直接会って顔を見せるのと、写真を貼ることは負担が違うのではないでしょうか。
私は作家になったとき、ネット上で「ブス」と言われたことで、私は「ブスの作家」というカギ括弧付きの職業にしか就けないんだと思ったんです。本来、外見の優劣と作家という職業は、無関係なことです。顔が職業、仕事とは関係が無いという空気をもっと広がらせなきゃいけないと思います。
「顔写真を事前に見ておかないと、面接官がびっくりして会場の空気が凍る恐れがある」とのことでしたが、「色んな見た目の人が働く」という文化が醸成されていれば、神原さんや見た目問題の当事者が面接に来ても、会場が凍り付くことはないわけです。文化の方が頑張らなきゃいけないし、そういった文化を早くつくっていかないといけない。
視聴者からは「社会の偏見を変えるためにはどうすればいいでしょうか」との質問が寄せられました。
神原
当事者がそれぞれの立場で発信することが大事だと思います。私は取材を受けたり、エッセーを書いたりする以外にも、学生の卒論インタビューへの協力もしています。一人でも多くの人にアルビノについて理解してもらいたいと思っています。
吉村
差別を自分ごととして自覚することだと思います。自分も差別する可能性があることに意識的であることです。それに蓋(ふた)をしないように心がける必要があると思います。
岩井
私の長男は顔の右側の神経がなく、笑うと顔がゆがみます。私は彼の将来がとても不安でした。でも、その不安がどこからきているんだろうと突き詰めて考えてみると、「笑顔は左右対称でなければならない。そうでないと社会から受け入れてもらえない」という思い込みがあったことに気づきました。
今、長男が屈託なく笑い、周りの友達に受け入れられています。そうした様子を見るたびに、私の中にこそ偏見があったと自省します。
山崎
私も差別していることはあると思います。みんなが差別しているんだって自覚が大事だと思います。周りを見ても、「いい人」が差別している場合って多いんですよね。でも、時代はよくなっていて、SNSとかで小さな違和感を表明する人もいる。
見た目問題の当事者の中には、顔写真をメディアやSNSで出されている方がいます。そうした写真を見ることで、私たちも見慣れていく。これからの時代に希望を持っています。
最後に、見た目問題の当事者や、自分の外見に悩む人に向け、3人からのメッセージです。
神原
人前に出る当事者がすごいわけではありません。人前に出られる人はそうすればいいけど、できない人も「自分は……」なんて思わなくても大丈夫です。それぞれが自分のできることをすればいい。そうすれば、社会はきっとよい方向になっていきます。
吉村
発信する当事者が、ある種のモデルとなってしまうと、それが他の当事者の方々を抑圧する恐れもあるので、神原さんの指摘はその通りだと思います。
SNSが普及している今、当事者やその家族がつながる方法はたくさんあります。あなたは独りじゃないです。みなでつながって、この問題を一緒に考えていきましょう。
山崎
見た目が仕事や恋愛のハードルにならないような社会になるよう、私も作家として取り組んでいこうと思いました。
私が「ブス」と中傷された15年前にはこんな風に、見た目問題当事者の方々とお話ができると思ってもいませんでした。こんな風にみなさんと話せて、外見差別を受ける方々の気持ちもわかるようになったし、ブスの経験ができてよかったなという気がしました。