連載
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#42 「見た目問題」どう向き合う?
「履歴書に写真欄はいらない」アルビノ当事者が顔差別撲滅に動く理由
「何であるんだろう?」素朴な疑問に集まった共感

履歴書には応募者の顔写真が必要だ――。そんな常識に異を唱え、履歴書から顔写真をなくすことを求める署名活動に1万を超える賛同が集まっています。発起人の一人は、遺伝子疾患アルビノのため金髪に生まれた、立教大学助教の矢吹康夫さん(40)です。「外見の印象によって、就活で不当な評価を受ける人をゼロにしたい」。取り組みの根本にある思いを、矢吹さんに尋ねました。(朝日新聞・岩井建樹)
【外見に症状がある人たちの物語を書籍化!】
アルビノや顔の変形、アザ、マヒ……。外見に症状がある人たちの人生を追いかけた「この顔と生きるということ」。当事者がジロジロ見られ、学校や恋愛、就職で苦労する「見た目問題」を描き、向き合い方を考えます。
「無意識の偏見」が採用に与える悪影響
履歴書を巡っては、トランスジェンダーの当事者らが性別欄の削除を求め、JIS規格の履歴書の様式例が削除されました。市販の履歴書をつくる文具大手のコクヨも性別欄をなくした履歴書を販売する方針です。厚生労働省が、新たな様式例のあり方を検討しています。こうした動きに触発されました。
――顔写真の何が問題なのでしょうか。
そもそも履歴書は仕事の適性や能力を知るための手段の一つです。そうであるならば、性別もそうですが、顔写真は必要ありません。海外には顔写真なしのものが一般的な国もあり、国内でも既に不要としている会社があります。
問題は、顔写真から刷り込まれる印象によって、その人の能力や人柄が適正に評価されない恐れがあることです。「顔で差別はしない」と採用担当者が思っていたとしても、人にはアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)があります。
たとえば、「太っている人は自己管理ができない」といった外見を巡るイメージが、採否の判断に影響を与える恐れがあります。僕は、遺伝子疾患のアルビノで、髪色が金髪です。就職活動に黒髪で臨むことが常識の世の中で、アルビノの金髪は書類選考で不利に働く恐れがあります。

顔による「門前払い」防ぐための一歩に
当事者にとって顔写真は大きなプレッシャーとなっています。自分たちの容姿に対し、他人から否定的な反応があることを小さい時から学んでいるので。当事者は少しでも疾患が目立たない写真になるようにと、気を遣わねばなりません。20代のときに脱毛症となった女性は、仕事を探すときに、履歴書を必要としない職場を選んだそうです。
こうしたプレッシャーは、海外にルーツがある人たち、性的マイノリティ、容姿に自信がない人たちも感じているかもしれません。
――履歴書から顔写真がなくなったとしても対面の面接では結局、顔をさらすことになるので問題は解決しないのでは。
確かに、履歴書から顔写真がなくなっても問題が全て解決されるわけではありません。面接での差別をなくすには、また別の対応が必要です。例えば、採用担当者への教育などが必要となってくるでしょう。
ただ、外見を理由に書類選考で落ちることがなくなるのは、大きな一歩だと考えます。面接まで進めば、本人が能力をアピールする場が与えられるので、外見のハンディキャップを乗り越えられる可能性があります。顔による門前払いが防げます。
――顔写真から人柄を読み取ったり、顔写真のために身なりを整える姿勢がわかったりというメリットもあるのでは。
写真からにじみ出る人柄や意気込みと言いますが、履歴書の文章や、面接で理解すれば良い。私たちの取り組みに賛否はあると思います。それでも、写真添付のデメリットを無くすことが大事だと考えます。

「顔写真なんていらない」広がった共感
替え玉受験の恐れへの指摘だと思いますが、面接に来た人物と内定式に現れた人物の区別くらいつくのではないでしょうか。
それに本人確認のために必要な情報は、なにも顔写真だけではありません。大事なのは、採用担当者が、顔写真をはじめ、仕事の能力を判断する上で無関係な個人情報にアクセスできないようにすることです。採否の判断をする権限がない社員が、そういった個人情報を管理し、本人確認する手もあるでしょう。
――この活動の狙いを改めて教えて下さい。
新しくできる履歴書の様式例から顔写真欄をなくすことです。写真欄がなくなれば、就活生は、お金をかけてでも良い写真を撮らなければならないとのプレッシャーから逃れることができます。
1万を超える署名が集まったのも「顔写真なんていらないよね」と思っている人が多いからではないでしょうか。このキャンペーンを通し、就活時における顔差別への関心を高めてもらえればと思います。