連載
#225 #withyou ~きみとともに~
正体はわかっていたけれど…両親の暴力を救ってくれた〝彼〟
「正直、自分自身が作り出したのだということは理解していました」
連載
#225 #withyou ~きみとともに~
「正直、自分自身が作り出したのだということは理解していました」
金澤 ひかり 朝日新聞記者
共同編集記者両親から暴言や暴力を振るわれる環境の中、そばにいてくれたのは現実にはいない人だった――。いま大学生となった女性が当時経験した、不思議な出来事を、イラストレーターのしろやぎ秋吾さんがマンガにしました。女性は似た境遇にある人たちに、「あなたはとても頑張っていて、生きているだけで凄く偉い。1人で抱え込まなくていいんです」と語りかけます。
女性は21歳の大学生、Rさんです。
高校卒業までは、両親、姉、Rさんの4人で暮らしていたRさん。
Rさんの家では、両親がケンカをしていることが多かった上、Rさんは両親それぞれから暴言・暴力を受けていました。
「父からはアザにならない程度に、手で叩かれたり、足で蹴られたり、物を投げられたりしていました」
その際、父親が良く口にしていたのは、「こいつは口で言ってもわかんねえんだから、犬猫と一緒だ。痛い目見せないといけない」いうこと。
「本人は『遊び』や『しつけ』と言っていました」
父親からの暴力は、母親や姉に及ぶことも。
小学生の頃のRさんは、自分以外の家族に手を挙げる父親が怖くて、泣きじゃくりながら必死に止めに入ったこともありました。
Rさんが暴力を振るわれているときは、母親も止めに入ることはありましたが、父親に対して「殴るならみえないところでやれ」と言っている母親の発言を聞いたときは、深く絶望したといいます。
さらに、母親からは姉と比較され、「どうしてあんたは明るくないんだ」「なにも出来ない。なんでこんな風に育っちゃったのかな」などと見た目や性格を否定されてきたといいます。
「母の暴言に父が気付くこともありましたが、直接母をなだめるというよりはほぼ独り言。基本的には無反応でした」
そんな日々の中で、Rさんは家の中で居場所を見つけることができませんでした。
「常に怯えていました。何をきっかけに母が怒るかわからないし、いつ父に叩かれるかもわからない。父が近くを通る度に身構えるし、泣くと母に怒られるから、泣くこともできません。落ち着く場所はありませんでした」
Twitterでは、同じ境遇にある子たちとつながり、愚痴り合うことはあったものの、リアルな場で誰かに相談をするということはできませんでした。
「私が全て悪いからこうなっている、私が我慢できていないだけだと思っていたからです。相談したとしても、きっと私が悪く見られるだけなんだろうとずっと思っていた」
自傷行為に及んでしまうこともありました。
一方で、RさんにはTwitterにいる「誰か」でも、学校の友だちでもない、「空想上の友だち(イマジナリーフレンド)」がいました。
「学校からの帰り道や、夜中のベッドの中…私が1人でいるとき、ふと気付くとそばに彼がいました」
白い服、黒髪で背の高い優しそうな男性で、年齢はいまのRさんと同じくらい。「いつも本を読んでいて、性格的には落ち着いている人でした」
「正直、自分自身が作り出したのだということは理解していました」というRさん。
自分が求めているものが「空想上の友だち」として現れた彼は、Rさんの生活にいつの間にか違和感なく溶け込んで存在していました。
Rさんが「彼」と二人でいるときは、Rさんの愚痴や不安、その日の出来事をずっと聞いてもらっていました。
たとえば下校中。「今日も帰ったらまた何か言われるのかな。帰りたくないな」と言うRさんに、「彼」は、「どうだろう。でもずっとそばにいるから。君が僕を呼んでくれればすぐに隣に行くからね」などと応じてくれていたといいます。
家に帰ってからも、毎晩のようにベッドで声を殺しながら泣いていたRさんのそばで、いつも、なにも言わずに「彼」が寄り添い続けてくれていました。
高校生になり、Rさんが恋人に相談をするようになってから、「彼」は少しずつ姿を現さなくなりました。
「ほんとにほんとに大切な存在で、彼がいなければどうなっていたかわかりません」
誰にも頼ることができなかったRさんのそばにいて、心の支えとなっていた「彼」に、Rさんは「ずっとそばにいてくれて、本当にありがとう」と伝えたいといいます。
「多くは語らずともわかってくれる人だから、ただそれだけ伝えたいです」
Rさんは、家に居場所がなかったり、親からの暴言・暴力に悩む人たちに、「お願いだから誰かに相談してほしい」と訴えます。
「学校じゃなくてもいい。ネットでもいい。誰かに助けを求めていいんです。あなたはとても頑張っていて、生きているだけで凄く偉いのだから、もう1人で抱え込まなくていいんです」
「周りを頼るのは怖いかもしれません。自分が全て悪いと思っているかもしれません。誰も助けてくれないと思うかもしれません。でも、声をあげ続けていれば必ず誰かに届きます。だからもう、1人で頑張りすぎないでください」
Rさんはいま、大学で福祉を勉強しています。「同じ境遇にある人を支えたいと思っています。実家を離れたいま、私の周りには、私を理解してくれる人、相談に乗ってくれる人がたくさんいます。生きていれば、必ずあなたを認めてくれる人に出会えます。だから、諦めないでほしいです」
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