連載
#223 #withyou ~きみとともに~
いじめの渦に飲まれ…「うざいよね」と同調 終わりじゃなかった地獄
大切な人たちの前で、その子にやったことを言えるでしょうか
小さいけれど、そこにいる人にとっては絶対的に感じる教室の中で、ターゲットを変えて繰り返されるいじめ。小学生のころ、いじめられる側もいじめる側も経験した女性は、「(いじめた子の)名前をあたたかく呼ぶ大切な人たちの前で、その子にやったことを言えるでしょうか」と訴えかけます。自分にいじめの矛先が向くことが怖くて、「とっさに同調してしまった」気持ちなどを、イラストレーターのしろやぎ秋吾さんが漫画にしました。
現在20代になった「かわしまさん」(仮名)は、小学5年生の頃、いじめの渦に飲まれました。
5年生になった当初は、「気の合う女の子3人と一緒に楽しい日々を送っていた」というかわしまさん。ある日の日直だったかわしまさんは、先生に呼ばれ、席をはずしました。
しかし、用事を終えて教室に戻ると、グループの他の2人(Aさん、Bさん)が、かわしまさんの呼びかけに振り返らなくなっていました。
心当たりのなかったかわしまさんは、「おかしいな」と思いつつも、他のグループの友だちと一緒に過ごしていたといいます。
「はじめはどうしていいのかわからず、ひとりでいましたが、他のグループの子が声をかけてくれたので、別のグループに移動しました」
ただ、2週間ほどすると、なにもなかったかのように元のグループのAさんとBさんは、話しかけてきました。
ホッとしたのもつかの間。ある日、Bさんがいなくなった瞬間、Aさんが「あの子ってさ、最近調子乗ってない?」と、かわしまさんに声をかけてきたのです。
「自分がまた無視され、陰口をたたかれるのではと思うと、怖くて反論なんてできなかった」と、かわしまさんはとっさに「うざいよね」と同調してしまいました。
無視をされるのは、決まって、かわしまさんかBさん。Aさんと無視されていない方が2人になって、1人を無視する構図でした。
ターゲットはいつも2週間くらいの周期で変わり、標的になるとわざと聞こえるように悪口を言われたり、物を隠されたりしていました。
「無視をされ始めたときは、『ああまた私がターゲットになったな』と察していました」というかわしまさん。ターゲットにされる期間が終わってもグループに戻ることを拒否する姿勢を見せたこともありましたが、うやむやな状態で仲間に引き戻され、またいじめられるという繰り返し。
「都合のいいおもちゃのような感覚だったんだろうと思います」
その状況を「自分の力」で変えられなかったのは、またターゲットにされることが怖かったから。
「もし『どうしてそんなことをするのか』なんて聞いたら、いますぐにでもターゲットにされそうで、怖くて聞けませんでした」
さらに、周りの力に頼ることもままならない状況でした。
というのも、クラスは「学級崩壊状態」で、先生も干渉してこない雰囲気だったからです。
「先生は私たちの関係に、なにも干渉してこなかったので、気付いていたのかどうかも分からないです。私自身も、大人にはなにも期待していませんでした」
大人になってから、家族に当時のことを尋ねましたが、親は気付いていなかったと振り返ったそうです。
唯一、かわしまさんたちのグループのいびつな関係性に気付いていたのが、クラスの他のグループの友人たちでした。
彼女たちは、かわしまさんをいじめのあるグループから引き離そうと、何度も自分たちのグループに誘ってくれていましたが、結局元のグループに引き戻されることが何度も続き、だんだんと誘われなくなってしまいました。
「この地獄は5年生の終わりまで続きました」と、かわしまさん。クラス替えで3人がバラバラになったことで、この「地獄」は終わりました。
ただ、このときの空気感におびえるクセは、中学生になったかわしまさんをも苦しめました。
「人を下に落とさないと自分を保てなくなっていました」と、クラスメートの陰口を言う仲間同士でつるみ、かわしまさんも、陰口の輪の中に入っていました。
「陰口を言って楽しいというより、陰口は『盛り上がれる共通の話題』。その場にいない人の陰口を言っている間は、自分が不満の対象になっていないという安心感があったんだと思う」
「小学生の頃のように、悪口を言われるのが怖くて、常に人の顔色をうかがって過ごしていました。だから、少しでも自分への態度がいつもと違うと、とても焦っていました」
そうやって小学時代の苦い記憶に引っ張られながら過ごした中学の3年間でしたが、高校進学を機に、全く違うコミュニティーに身を置くことができるようになり、やっと人間関係を見直すことができるようになりました。
「もう誰かを下げなくても大丈夫だ」とホッとしたというかわしまさん。安心感を得た反面、罪悪感もおそってきました。
「小中学生時代を客観的に見ることができるようになり、申し訳ない気持ちが募っていきました」
いじめられる側にも、いじめる側にも立ち、その苦しみからまだ抜け出すことができないでいるかわしまさんは、いま誰かをいじめている人に対して伝えたい思いがあります。
「いじめをしている心当たりのある方へ。
目を閉じて、いじめた子を想像してください。その子にはお父さん、お母さんがいます。その名前をあたたかく呼ぶ大切な人たちがいます。
その人たちの前で、その子にやったことを言えるでしょうか。
10年後、20年後、今のあなたを振り返って、胸を張って話せるでしょうか。自分の子どもに話せるでしょうか。
言葉は刃物です。一度口から出た言葉は消すことはできません。後悔してももう遅いのです。立ち止まれるのはいましかありません」
かわしまさんからのメッセージは、いじめる側以外の、「いじめ」の周辺にいる人たちにも向けられます。
「被害者の方へ。信頼できる人に頼って欲しいです。そして正々堂々と戦って欲しいです。人を傷つけた私から何も偉そうなことは言えません。だけどどうか、加害者にならないでください」
「いじめが身近で起きている方にお願いです。
どうか、私のような人間が生まれないように、止めてください。いじめをする人はちゃんと思考できていない状況だと思います。
悪循環を止めるために、周りの大人に相談したり、被害者の人に声を掛けたり、加害者を強く叱ってください」
かわしまさんがいまも強く後悔しているのは、「加害者と戦えなかった」ということです。
「人を傷つけて生きてきてしまったことは、到底許されないと思います。一生忘れずに生きて行くつもりです。
「同じ過ちを繰り返す人がこれ以上生まれないようにしてほしい」
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