連載
Yahoo!ニュース「#コロナとどう暮らす」企画班さんからの取材リクエスト
オンライン授業の動きが加速したことで、不登校の子どもへの対応は変わりましたか?
#218 #withyou ~きみとともに~
オンラインで気づいた「40人授業の限界」 不登校でも「これなら…」
「決めと覚悟の問題だと思います」
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オンライン授業の動きが加速したことで、不登校の子どもへの対応は変わりましたか?
#218 #withyou ~きみとともに~
「決めと覚悟の問題だと思います」
コロナ禍でオンライン授業の動きが加速しましたが、不登校の子どもに対する学校の対応に変化はあったのでしょうか。 Yahoo!ニュース「#コロナとどう暮らす」企画班
6月、多くの学校が全国一斉休校から再開してから約4カ月が経ちました。一部の学校で導入されたオンライン授業は、休校前から不登校傾向にあった子どもたちにとって「学習機会の確保につながる」と歓迎の声も聞かれました。その後、学校現場でオンライン授業を含めた学習機会の確保について、どのように捉えられているのでしょうか。公立と私立、それぞれの中学校の事例から考えます。
休校期間中、オンライン授業が行われなかった大阪市立市岡中学校の西川孝治校長に聞くと、「休校中もそうでしたが、休校後も不登校傾向のある子どもの保護者からはオンライン授業を導入して欲しいという要望もありました」
西川校長によると、自治体による環境整備が間に合わず、すぐにオンライン授業での対応は難しい一方で、休校期間を経て、不登校傾向のあった子どもたちの学ぶ環境には変化があったといいます。
「大勢がいる教室で学ぶのはしんどい」。そんな思いを抱えている子どもたちに対して、6月以降、二つの取り組みを始めました。
一つ目は、ライブ配信機能を使って撮影された授業風景を、別室でタブレットで視聴するというものです。現在3人がこの方法を活用しています。
対象は、「学校に来ることはできるけど、教室まで行くことができない子どもたち」。西川孝治校長は、「正直、内容は不十分だと思います。でも、『クラスの一員』という意識を持つ安心感が得られるものだと思います」
期待するのは「直接意見が言いたいから教室行ってみる」との声が子どもたちから自発的に出てくることです。ただ「それを目標とはしていない」と西川校長。子どもたちの変化を見守りたいといいます。
二つ目は、教職員と連携しながら子どもたちの学習を手伝う大阪市の任用職員「学びサポーター」の元、3~4人の子どもたちが別室で授業を受けるというものです。10人ほどがこの方法で学んでいます。
別室授業を選ぶ生徒は休校前に比べて数人増え、中には、不登校気味だった生徒が、すでに少人数での授業を受けている別の子どもからの誘いを受け、「これなら来られる」と学校に足が向いたケースもあったそうです。
この方法は、休校以前から採り入れてはいましたが、大勢での学びにしんどさを感じる子どもたちに有効であることを改めて意識したのは、学校再開後2週間程度行われた分散登校後だったと言います。
同校の一クラスの平均人数は40人ほど。「先生も生徒たちも、20人での授業が快適だったんですよね」
「40人だと、授業で分からないことがあっても手を挙げて聞きにくいし、気分が悪いというときも言い出しづらいんです」
授業中の水分補給の際も、40人のうち何人かがバラバラと水分をとると、集中力が途切れるなど、授業の妨げにつながることもあったそう。
ただ、分散登校時は、それらの問題点がなくなったといい、通常通りの40人での授業が再開した直後は、「先生も生徒もへとへとでした」。
西川校長は「大都市における大人数での授業が困難であることは、これまでも気づいていたけど蓋(ふた)をしていたところがあった。それが休校期間を経て見事に露呈したと思う。学びのあり方や環境を考えていないといけない」と話します。
4月中旬からオンライン授業に切り替えた東京都のドルトン東京学園の荒木貴之校長にも聞きました。
2019年に開校した中高一貫校のドルトン東京学園では、4月13日からオンライン授業を開始しました。始めるにあたって気がかりだったのは各家庭のネット環境です。
「元々生徒たちは、宿題や課題学習に使うためのパソコンを、入学時から各自で準備しています。ただ、家庭でのネット環境までは把握していませんでした」と、まず、休校にあたっての校長メッセージをネットで配信し、それを見ることができるかどうかで、全面的なオンライン授業の導入に踏み切るか否かを判断することにしました。
結果、各家庭のネット環境に問題はなく、Zoomを使ったオンライン授業導入が決定しました。
「決めと覚悟の問題だと思います」と荒木校長。
「環境さえあれば、公立でもできます。現に、熊本市なども動き始めていますよね」
ただ、同校の先生たちもはじめからオンライン授業に慣れていたわけではありません。
「やるしかないよね」と教員の中でも覚悟を決めて始めた以上、授業をやっている時間帯に手の空いている先生が授業の様子を見にZoomに入り、音声トラブルなどやりとりに齟齬(そご)が発生しているときにはフォローし合っていたといいます。「まるでサッカーのこぼれ球に集まるかのように、先生たちはこぞって授業の様子を見合っていました」
一方、「これはリアルの授業のときにはしにくかったことです」と荒木校長は指摘します。
「他の教科の授業に入っていくって言うのは通常ならまずないことです。今回を機に先生たち同士がフラットに物を言えるようになったというか、変なしがらみがなくなった感じがします」
そのオンライン授業は、不登校傾向のある生徒たちにも好影響を与えたそう。
ドルトン東京学園には現在、中学1年生と2年生の計250人が在籍していますが、不登校傾向の生徒もいました。
ただ、オンライン授業の期間中、不登校傾向の生徒たちは、「オンラインでなら参加できる」と授業に参加していたといいます。
画面に顔が映ることをストレスに感じる生徒もいる中、画面表示をオンにし続けることを強制することはなかったといいます。
「学校に行きたいけど、家からなかなか出られない状態の生徒の学びの保障ができたと考えています」
すると、学校が再開したあと、不登校傾向にあった子どもたちは、通学を再開し始めたり、学校に行くことに前向きになったという意見が聞かれるようになったそう。
「まずは保健室に来たり、生徒同士で話し合いながら学習できる『ラーニングコモンズ』に来るようになっています。ホームルームだけ参加する生徒もいます」
今回オンライン授業の経験値ができたことは「新たな学びや新たな教育が展開できるという期待感があります」
「今後、不登校になった子がいたとしても、オンラインで学びを保障するということにも前向きになりました。アバターや分身ロボット『OriHime』で授業に参加するということも可能性としてはありますね」。それは、今後新型コロナウイルスの再拡大という事態が起きた時も同じです。
ただ一方で、「どうしても、実験観察であったり、画面上のやりとり以外のノンバーバルで伝わるものなど、通学することで得られるものがある」とも指摘します。
「学校は、集団に属しながら社会性を学んでいく場でもある」とした上で「フレキシブルに、学びの方法が選択できるといいと思っています。どんな環境でも学びを継続していくべきです」と話します。
2つの学校の話を聞いて感じたのは、いずれの学校も、子どもたちの学びの保障に対しての取り組みや意識が、休校を経てレベルアップしているということです。
市岡中学校の西川校長は、「大都市における大人数での授業が困難であることは、これまでも気づいていたけどふたをしていたところがあった」と振り返っていましたが、休校以前から指摘されていたことが、前例のない事態での対応でより明らかになったといってもいいのかもしれません。
変化のタイミングで教育の現場がどう変わるのか、子どもたちの声も聞きながら、今後も注視していきたいと思います。
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