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連載

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#28 山下メロの「ファンシー絵みやげ」紀行

妻籠宿に「ファンシー」な土産がない理由 見つけたマグカップの秘密

「なるほど」マグカップの謎が一気に氷解

妻籠宿で「唯一」発見した「ファンシー絵みやげ」のマグカップ
妻籠宿で「唯一」発見した「ファンシー絵みやげ」のマグカップ

目次

バブル~平成初期に、全国の観光地で売られていた懐かしい「ファンシー絵みやげ」を集める「平成文化研究家」山下メロさん。今はもうほとんど売られていないこの「文化遺産」を、保護する活動をしています。長野県の妻籠宿では、「裏ワザ」的に生き残ってきたファンシー絵みやげに遭遇。山下さんにその深いワケについて綴ってもらいました。
ファンシー絵みやげ紀行

ファンシー絵みやげとは

「ファンシー絵みやげ」とは、1980年代から1990年代かけて日本中の観光地で売られていた子ども向け雑貨みやげの総称です。地名やキャラクターのセリフをローマ字で記し、人間も動物も二頭身のデフォルメのイラストで描かれているのが特徴です。

バブル~平成初期に全国の土産店で販売されていた「ファンシー絵みやげ」たち
バブル~平成初期に全国の土産店で販売されていた「ファンシー絵みやげ」たち
バブル時代がピークで、新しい商品を「出せば売れる」と言われたほど、修学旅行の子どもたちを中心に買われていきました。バブル崩壊とともに段々と姿を消し、今では探してもなかなか見つからない絶滅危惧種となっています。

しかし、限定的な期間で作られていたからこそ、当時の時代の空気感を色濃く残した「文化遺産」でもあります。私はファンシー絵みやげの実態を調査し、その生存個体を「保護」するため、全国を回ってきました。  

「ファンシー絵みやげ」がない観光地には理由がある

80年代から90年代、途中からバブル景気の後押しもあり「売れる商品」となったファンシー絵みやげは全国の観光地へと波及しました。探していくと、そこまで著名ではない観光地でも地名入りの商品が作られていたことが分かります。本当に文字通り津々浦々まで存在したのです。

北海道のバター飴には、ファンシーなキツネのイラストがほどこされている
北海道のバター飴には、ファンシーなキツネのイラストがほどこされている

しかし、爆発的に売れるこの商品を、すべての観光地が歓迎していたわけではありませんでした。かわいらしい動物や人物のイラストをメインに、その土地ゆかりの偉人をモデルにすることもしばしば。当時流行したヤンキー文化やギャグ的表現も柔軟に取り入れるしたたかさに、伝統を重んじる地元の人たちの中にはよくないイメージを持っていた人もいたのは否めません。

このため、観光協会単位でファンシー絵みやげを取り扱えないようルールを取り決め、観光地の景観や威厳を守る方向に舵を切った場所もあります。

こうした背景から、ファンシー絵みやげが見つからない観光地も存在しています。しかしそれでも、思わぬ形でファンシー絵みやげに出会うことがあるのです。

長野県の観光地・妻籠宿を訪れると…

妻籠宿の街並み
妻籠宿の街並み

長野県・木曽路にある中山道・妻籠宿を調査した時のことです。

妻籠宿は江戸時代まで宿場町として栄えていましたが、他の宿場町と同じく交通網の変化によって衰退していきました。しかし、昭和43年になり「売らない」「貸さない」「こわさない」という三大原則をつくり町並みの保存活動が行われ、他の宿場町に先駆けて重要伝統的建造物群保存地区に指定されました。

土産店を調査する筆者
土産店を調査する筆者
早くから保存活動が行われたことから、伝統的な建築物が旅館や土産店、飲食店として多数軒を連ねる、人気の観光スポットになっていったのです。

ちなみに、妻籠宿のすぐ近くには、同じように宿場町が保存されている岐阜県の馬籠宿があります。馬籠宿を調査した際に、「KISOJI(木曽路)」という文字と、木曽地方の在来馬種である木曽馬をモチーフにしたイラストがプリントされたファンシー絵みやげを発見しました。そのため、同じ木曽路エリアである妻籠宿でも、同様にファンシー絵みやげが見つかるのではないかと期待していました。
馬籠宿で発見したファンシー絵みやげ
馬籠宿で発見したファンシー絵みやげ
しかし、妻籠宿はどうも様子が違います。たくさんの土産店が建ち並んでいるのですが、行けども行けどもファンシー絵みやげが見つからないのです。

以前とある寺院の参道を調査した際に、土産店といえど仏具しか売っていないということがありました。見つからない状況はその時に似ているのですが、こちらは少し違っています。民芸品なども色々と売られていて、一般的な観光地の土産店といった様子なのですが、ファンシー絵みやげが見つからないのです。

突然の、不思議な「出会い」

お茶屋さんにも調査を広げる
お茶屋さんにも調査を広げる
あまりに見つからないので、茶屋などの飲食店も重点的に調査することにしました。飲食店と土産店を兼業している業態も多いですし、完全に飲食店であっても、レジ横の小さいコーナーに土産品が売られているケースもあります。その場合も多くは食品や飲み物なのですが、まれに雑貨みやげが売られていることもあるのです。

いくつかの飲食店を調査する中で、とあるお店に入った時、これまで一切見つからなかったファンシー絵みやげに突然出会いました。
美濃焼など、色々な陶芸品の器が置いてある中に1種類だけ、白い磁器のマグカップがありました。そこには、さるぼぼのキャラクターが木曽馬をひいている「ファンシー」的なイラストと「妻籠宿」の文字がプリントされているのです。
これは、ファンシーイラストです……!
これは、ファンシーイラストです……!
突然の出会いに嬉しくなり、ついている値段も手ごろだったので、買おうと思ったのですが、店の方から意外な反応が返ってきました。

「何を飲みますか?」

一瞬意味が分かりませんでしたが、その理由はメニューの横に書いてありました。
このお店では、置いてあるカップを買うと、そこに無料でコーヒーを入れてくれるということでした。飲んだ後は店員さんがカップを洗ってくれて、カップを土産品として持ち帰ることができるのです。

しかし、マグカップだけを買うということはできず、なぜかコーヒーを飲む必要があるのです。ただし、ファンシー絵みやげマグカップのお値段は400円で、普通にコーヒーを飲む場合は350円。実質的にマグカップの値段は50円ということになりますので単純にお買い得です。
マグカップと飲み物で400円、これはお買い得
マグカップと飲み物で400円、これはお買い得

正直、驚きました。これまで一切見つからなかったのに、なぜここにマグカップがあるのか。しかも、ちゃんと「妻籠宿」という地名と、地域固有の動物「木曽馬」のイラストが入った「この場所でしか売ることのできない独自商品」です。

1つ見つかったことにより、そもそも存在しなかったという説が消えました。となると、観光協会の取り決めなどでどこかのタイミングで売ることができなくなったのではないかと考えました。しかし、この飲食店ではマグカップを堂々と置いてあります。なぜなのでしょうか。

その答えは、他のお店で教えてもらえました。

「なるほど」マグカップの謎が一気に氷解

 

山下メロ

(ファンシー絵みやげキーホルダーを見せながら)こういうお土産を探しているのですが……

 

店の方

あー、そういうのはないんですよ

 

山下メロ

昔は売っていたことがあります?

 

店の方

そういう金属のものはないと思いますね

 

山下メロ

え? なぜですか?

 

店の方

ここらへんで販売できるものは木や竹、あとは紙や布でできたものだけなんです

 

山下メロ

素材によって売れるものと売れないものがあるということですか?

 

店の方

そう。ガラス、金属、プラスチック、陶器なんかは販売できないんですよ

 

山下メロ

確かに言われてみれば、これまで売っているものが偏っていた気がします
これまで見てきた妻籠宿の土産店と、一般的な観光地の土産店を比べると、明らかに民芸品や工芸品が多かったのです。現在では定番の樹脂製マグネットやプラスチック素材のものをほとんど見ませんでした。言われるまで売られている商品の偏りに違和感を感じなかったのは、品揃えが妻籠宿の雰囲気にマッチしていたからなのかもしれません。こうした素材にまつわるルールがある観光地というのは初めて聞きました。

主に素材についての取り決めのため、絵柄がファンシーかどうかといったことは関係がないそうです。むしろ、ファンシー絵みやげの定番である金属製のキーホルダーや、陶磁器の灰皿や湯呑みなどを売ることができなかったので、ファンシー絵みやげそのものも見つからないのでしょう。

そう考えると、確かに陶磁器の灰皿や湯呑みはどこにも売っていませんでしたが、私は先ほどマグカップを見たところです。

 

山下メロ

え? でもさっきマグカップ売ってましたよ

 

店の方

ルールなので、それはないと思いますよ
「あ、なるほど」。私の中で、先ほどの飲食店の謎が一気に氷解しました。なぜマグカップとコーヒーを一緒に売っていたのか、それはマグカップ単体では売ることができなかったためです。 
飲み物とセットだったのは、そういう理由が……
飲み物とセットだったのは、そういう理由が……

取り決めは街並みの保存と地場産業の保護のため

その後、妻籠観光協会と公益財団法人「妻籠を愛する会」に確認すると、昭和43年から妻籠では街並みの保存について取り決める中で、土産店で取り扱う商品についても申し合わせ事項を設けたそうです。例外もありますが、具体的には、木製品、紙製品、布製品、竹製品、土鈴は販売できる一方、ブリキ(金属)、ガラス、陶磁器、プラスチックは取り扱いができないとしています。

これらは歴史的な景観に合わせた商品であるとともに、地場産業を守るといった意味もあり、たとえば認められている土鈴と同じ土素材という条件を満たしても、陶磁器のように地場産業でないためにNGとなっているものがあったりします。

10年ほど前までは観光協会で土産店の見回りをしていたほど、地場産業の保護に力を入れていました。今では見回りをしていないそうですが、それぞれの店で自主的に守っているのだそうです。

また、新しいタイプの商品の営業が来たら、販売の可否を観光協会に相談することになっているといいます。ファンシー絵みやげについては、やはり無視できない流行として議題には挙がったようですが、「漫画みたいなものはやめましょうということになった」とのこと。

それは他のキャラクターグッズも同じく、現在もご当地キティなどの取り扱いがありません。ただし、現在は昭和43年に決めた申し合わせ事項に比べると、緩和されている部分もあるようです。

そして本題。マグカップについて聞いてみました。

「申し合わせ事項は土産店に対するものであって、飲食店は対象ではない。その飲食店が使う備品を持ち帰らせることは問題ない」 とのことでした。

こんな出会いができるのは、妻籠宿だけ

あのマグカップ販売方式は、ルールの範疇を逸脱しておらず、ある意味裏ワザ的な手法を編み出されたわけですね。

思わぬ形でファンシー絵みやげを発見。最初は理解できない販売方式でしたが、事情を聞くことで理由が分かる……少しずつ謎が解けていく状況に、達成感がありました。

取り扱いを見送られたファンシー絵みやげのイラスト。それを土産店では禁制品である磁器のマグカップにプリントするという、NGとNGをかけ合わせた商品。それでも裏ワザ的な方法を考案して提供。そして買う側も、コーヒーを飲むという手順を踏んでファンシー絵みやげを入手する。

裏を返せば、そうまでしてでも売りたい商品。そうまでしてでも買いたい商品だったということの証明です。
 
そう考えると、とても貴重な気がして、再度その飲食店へ行きました。もちろんファンシー絵みやげマグカップでコーヒーのおかわりです。
おかわりにはお団子を添えて
おかわりにはお団子を添えて

ある意味、禁じられたマグカップ、みんなが欲しがる人気のマグカップと知ってしまったからには、さっきと違い、背徳の香りと誇らしさの味がします。

「これ洗ってください」

こんな風に保護できるファンシー絵みやげは、ここにしかありません。

気になった人は是非、妻籠宿でコーヒーを飲んでみてください。

   ◇

山下メロさんが「ファンシー絵みやげ」を保護する旅はまだまだ続きます。withnewsでは原則隔週月曜日、山下さんのルポを配信していきます。

ファンシー絵みやげ紀行
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