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連載

1974

#27 山下メロの「ファンシー絵みやげ」紀行

バトル鉛筆、エスパークス「遊べる文房具」で振り返る平成カルチャー

ノートからペンケースへ…まさかの「メディアミックス戦略」も

子どもたちに大人気だった「エスパークス」
子どもたちに大人気だった「エスパークス」

目次

バブル~平成初期に、全国の観光地で売られていた懐かしい「ファンシー絵みやげ」を集める「平成文化研究家」山下メロさん。今はもうほとんど売られていないこの「文化遺産」を、保護する活動をしています。「エスパークス」や「バトル鉛筆」など、子どもたちの間で流行した「遊べる文房具」は、観光地のファンシー絵みやげにも影響を与えていました。学校に持ち込める「遊べる文房具」の歴史から、山下さんにひもといてもらいました。
ファンシー絵みやげ紀行

ファンシー絵みやげとは

「ファンシー絵みやげ」とは、1980年代から1990年代かけて日本中の観光地で売られていた子ども向け雑貨みやげの総称です。地名やキャラクターのセリフをローマ字で記し、人間も動物も二頭身のデフォルメのイラストで描かれているのが特徴です。

バブル~平成初期に全国の土産店で販売されていた「ファンシー絵みやげ」たち
バブル~平成初期に全国の土産店で販売されていた「ファンシー絵みやげ」たち

バブル時代がピークで、新しい商品を「出せば売れる」と言われたほど、修学旅行の子どもたちを中心に買われていきました。バブル崩壊とともに段々と姿を消し、今では探してもなかなか見つからない絶滅危惧種となっています。

しかし、限定的な期間で作られていたからこそ、当時の時代の空気感を色濃く残した「文化遺産」でもあります。私はファンシー絵みやげの実態を調査し、その生存個体を「保護」するため、全国を飛び回っているのです。

「遊べる」機能を取り入れたファンシー絵みやげ

ファンシー絵みやげにおいて、一番種類が多いのはキーホルダーです。キーホルダーは鍵につけるだけでなく、ランドセルのフックにぶら下げることができ、多くの学校で持ち込むことを許されていました。観光地で買って帰る雑貨みやげの中で、子どもにとって非常に実用的なもの。それがキーホルダーというわけです。
ランドセルのフックにぶら下げていたキーホルダー
ランドセルのフックにぶら下げていたキーホルダー
このキーホルダーが、学校に持ち込むことを禁じられている玩具を、持ち込むための抜け道になっていることを前回お伝えしました。占い、パズル、迷路ゲームなど、遊べる要素を入れた遊べるキーホルダーが観光地で売られ、子どもたちを夢中にさせていました。
遊べるタイプのキーホルダーが誕生
遊べるタイプのキーホルダーが誕生
休み時間になれば、教室の後ろのロッカーのランドセルからキーホルダーを取り出して遊ぶわけです。もちろん先生に見つかれば怒られて取り上げられるでしょう。あくまでランドセルの飾りとして許容されているわけですから、大っぴらに遊べるわけではないのです。しかし、キーホルダーがあれば、誰でも簡単に休み時間の人気者になれました。もっとも、その人気も長くは続かず、すぐに飽きられてしまうわけですが。
 
しかし、子どもたちの欲望は、休み時間だけにとどまりません。

なんとかして、授業中だって遊びたい。

ファンシー絵みやげのメーカーは、そこにも目をつけました。

授業中に机に出して使えるものといえば、文房具です。

わざわざ文房具を観光地で買わなくても近所で買えるわけですが、ファンシー絵みやげとして地名やキャラクターイラストをプリントしたものがいくつか存在します。鉛筆、消しゴム、鉛筆削り、メモ帳、ノートなどです。

非日常空間である観光地に来てまで、勉強のことを考えたくないからか、そこまで多いジャンルではありません。しかし、そのように多くない中に、確実に目立つ存在があります。それが今回紹介したい「遊べる文房具」です。
 
まずは、遊べる文房具の歴史を見ていきましょう。

文房具が「遊び」に寄っていく

学校で、文房具を使って遊ぶといえば、かつてはスーパーカー消しゴムを、BOXYボールペンの背中で飛ばして遊んでいました。あくまで、文房具を工夫して遊んでいたのです。

他にも、机にコンパスで穴を掘り、練りケシや消しカスで作ったボールなどでゴルフのようなことをしたり、消しゴムを指ではじいてサッカーのPKごっこをしたり、色々な遊びが考案されました。
 
しかし時代が進むと、文房具自体に遊べる機能が付くようになりました。ボタンでフタが開いたり、鉛筆が起き上がったりする多機能筆箱や、サイコロの目がついた六角形の消しゴム、ルーレットがついたカンペン(缶のペンケース)、ミニカーのような消しカスローラーなど、続々と登場しました。
消しカスを集めるミニカーのような消しカスローラー
消しカスを集めるミニカーのような消しカスローラー
そして画期的だったのが、「エスパークス」です。今では「たれぱんだ」「リラックマ」「すみっコぐらし」などヒットキャラクターを連発しているサンエックスが、1980年代末に男児向けキャラクター文具として発売したシリーズです。

「もはや漫画」なエスパークス

エスパークスはファンタジーRPG的な世界観を持っており、ノートにはフルカラーの漫画やすごろくが印刷されています。しかも、漫画はページごとに違う内容なのです。普通のノートは単色印刷で全ページ同じですが、エスパークスはカラーの多色印刷。しかも全ページの内容が違うのです。それが、他のノートと同じ100円程度で買えるのですから当時は衝撃でした。
1989年発売の「エスパークス」
1989年発売の「エスパークス」
自分で書ける罫線のエリアはかなり狭い
自分で書ける罫線のエリアはかなり狭い
それを授業中にノートとして開いて漫画が読めるのです。もう、それは漫画です。当然ながら漫画も持ち込み禁止です。漫画を学校に持ち込んでいるのと変わらないため、背徳感もすごい。自分で書ける罫線のエリアはかなり狭く、あっという間に埋まる上にページ数も少ない。本来のノートとしての機能を極限まで削って、子どもの欲望に応えてしまっています。

しかも、たとえばノートの漫画の途中で「ここからはカンペン(缶のペンケース)を読んでね」となって、途中の部分がカンペン買わないと読めなかったりします。これはメディアミックス戦略です。ノートからカンペンにストーリーが繋がるメディアミックスは後にも先にもエスパークスだけでしょう。しかし、商品仕様に対する値段がそもそも安いので、「子どもだましで売り上げアップ」というより「子どもたちをワクワクさせるため」という動機なのではないかと思えるのです。
まさかのメディアミックス戦略
まさかのメディアミックス戦略

エスパークスは、ノートとカンペン以外の文房具も色々ありますが、ほとんどに遊べる仕掛けがありました。ちょうどその時代に小学生だった男子は、背徳感を感じつつも、夢中になったのです。しかし、もはや自分で工夫する要素が一切なく、完全に遊ばされている状態でした。

授業中に遊んだり、漫画読んだりしすぎて、教師にエスパークスという存在がバレてしまい禁止になる学校もありました。しかし、特に驚きませんでした。いくら文房具の形をとっているとは言え、やり過ぎではないかと、みんな内心思っていたのです。「これは長くは続かないだろう」と薄々思っていました。禁止されてガッカリするどころか、なんだかホッとした子どもも多かったのではないでしょうか。

「バトエン時代」が到来

そして、1990年代後半になるとバトル鉛筆が登場します。エスパークスはオリジナルのキャラクターとストーリーのRPG的世界観でしたが、今度はすでにRPGとして大人気だった『ドラゴンクエスト』。ドラクエのキャラクターやモンスターを使って対戦できる鉛筆が、通称・バトエンです。サイコロのように六角形の鉛筆を転がして出た目で戦うのですが、ダメージを与えて体力を削ったり、アイテムや魔法で回復したり、かなり複雑になっています。

子どもたちが熱狂したバトル鉛筆
子どもたちが熱狂したバトル鉛筆

人気キャラクターの使用、そして遊び方はガッチガチに決められていて自由度がない……1980年代から1990年代にかけての遊べる文房具は、そんな進化を遂げました。

観光地も取り入れた「遊べる文房具」

話を戻しますが、こうした「遊べる文房具」を作っていたのは文房具メーカーだけではありません。子どもを対象とした「ファンシー絵みやげ」をはじめとする、観光地向けの商品を作る土産メーカーもまた「遊べる文房具」を作っていました。
 
しかも、全国流通でないからこそトライできるのか、文房具店では見たことのない商品もあるのです。
パズルのついた定規
パズルのついた定規
たとえば、スライドパズルがついた定規です。もはや定規とは関係ない気がして、やや強引です。当時メーカーでデザイナーをされていた方から聞いた話では、輸入雑貨屋さんにすすめられて、日本で初めて土産品にしたということでした。
ひょんなことから入手した、プリント前の状態です。やはり目をつけた輸入雑貨屋さんが売り込みに来て、「授業中に遊べる定規を作ることができる」と思って採用したのでしょう。
ひょんなことから入手した、プリント前の状態です。やはり目をつけた輸入雑貨屋さんが売り込みに来て、「授業中に遊べる定規を作ることができる」と思って採用したのでしょう。
銀玉迷路の定規
銀玉迷路の定規
同じ定規でも、中に入っている銀玉を操ってゴールまで運ぶゲームになっているものもあります。定規を傾けながら遊びます。定規の厚みを利用して……というより、もう定規の上に銀玉迷路を貼り付けたような分厚さです。
 
小さいものもありますが、45cmという超ロングサイズの商品も出現。よくある竹製の30cm定規の長さを超えています。実用性ではなく、迷路をロングコースにして、すぐゴールできないようしたいがための長さなのではないかと疑わしくなります。
 
こんな文房具で遊んでいたら、おそらく授業の内容は頭に入らないでしょう。
倉敷の地名入りのボールペン
倉敷の地名入りのボールペン
岡山県の観光地・倉敷の地名入りのボールペンは、「キャップ」の先端部分に丸いモチーフがついており、裏側は銀玉のパズルになっています。そもそもキャップが異常に大きく、「ボールペンは細長すぎて遊べる要素が入れられない……じゃあ大きくしちゃえばいいじゃん」……のような大胆さを感じます。

遊ばせたい?遊ばせたくない?土産メーカーの思惑

「あそぼ~るぺん」なる商品も誕生
「あそぼ~るぺん」なる商品も誕生
先ほどの倉敷の銀玉パズルつきボールペンには名前がありまして、その名も「あそぼ~るぺん」。このダジャレは子どもにも馴染みやすいと思います。 説明書きに「イロイロ、いろいろ、色々」とあるのも良いでしょう。問題はその下です。

「勉強中にゲームをするのはやめよう!」

じゃあ、ボールペンにパズルを付けなければ良いのでは……という気もしてしまいますが、これこそが土産メーカーから子どもたちへのメッセージです。
「ゲーム定規」という概念も爆誕
「ゲーム定規」という概念も爆誕
定規のヘッダにもこう書かれています。

「決して授業中にあそばないでください」
 
これを書いておけば、学校やPTAからの糾弾を少しかわせるのでしょうか。授業中に遊ぶなと書かれていますので、それでも遊ぶなら「自己責任」なのでしょうか。
 
わざわざそう書かないといけないということは、裏を返せば授業中に遊びたくなるような商品を作っているということでもあります。
 
ここにメーカーの気持ちがしっかりと書かれているなと思いました。
 
あくまでメーカーは「授業中に遊ばないでください」という立場をとりつつ、「授業中に遊べちゃうよ」というメッセージも伝えているのです。
 
いつの時代も、子どもは学校でも遊びたい。鬼ごっこでもいいけど、おもちゃやゲームがしたい。なんなら授業中にもこっそり遊びたい。その気持ちは変わりません。

そんなニーズに応え、遊べる文房具は進化しすぎてしまったのです。

久しぶりに遊んでみると、当時の教室の騒がしさや、夏の陽ざしまでも思い出しました。学生時代、どんな文房具で遊んでいたでしょうか。

   ◇

山下メロさんが「ファンシー絵みやげ」を保護する旅はまだまだ続きます。withnewsでは原則隔週月曜日、山下さんのルポを配信していきます。

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