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#24 注目!TikTok
分散登校「お葬式みたいでした」人間関係に神経すり減らす子ども
「自分の気持ちに正直でいい」
新型コロナウイルスによる休校を経て、6月、多くの学校が再開しました。ただ、ソーシャルディスタンスをとるよう意識したり、マスクを着用したりして「学校の新しい生活様式」(文部科学省公表)を意識した生活が続いています。また、初対面がオンラインだったり、分散登校でクラス全員がそろわない日が続いたりしていたこともあり、クラスの「空気」がやわらぐのに時間がかかる状況です。この状況をどう乗り切ればいいのか。現状に直面している高校生や、学校現場に詳しいNPO法人「ストップいじめ!ナビ」の須永祐慈さんに聞きました。
「最初は誰もしゃべらないし、お葬式みたいでした」。
そう話すのは、この春に埼玉県内の高校に進学した男子生徒です。約30人のクラスは、6月の学校再開後2週間程度は出席番号の奇数と偶数に分かれ、それぞれ午前と午後で分散して登校しました。
「4月に入学式はありましたが、その後すぐに休校。オンライン授業もなかったので、学校再開初日は、みんなほぼ初対面でした」
あまり緊張はしないタイプという男子生徒は、再開初日も「緊張はなく、どちらかというと楽しみな気持ちの方が大きかった」と話します。
ただ、行った先の教室は静まり返っていました。
「静かすぎて、自分が耐えられなくなってやっちゃったんですよね」と、その後毎日、教室の全員に向けて挨拶を続け、その様子をTikTokにも投稿。
次第にクラスでも話せる人が増えてきたといいます。
「仲良くなった人からは、『最初は変な奴だと思ったけど、そのうちおもしろいやつだと思い始めた』と、あとから言われました」
現在は分散登校は終了し、1日を通して学校で授業を受けているそうです。「分散登校が終わっても、(分散登校のときの)偶数・奇数でグループになっちゃうんじゃないかと心配でしたが、そんなことはありませんでした。みんな楽しくやってると思います」
「自分みたいにクラス全員に対して挨拶をするのはあんまりオススメしません」という男子生徒。「自分のときは周りの反応がたまたま良かったけど、変だと思われると辛いから」とその理由を語りますが、「できる範囲でなら、色んな人に話しかけてみるのはいいと思う」と話します。
教育現場に詳しい「ストップいじめ!ナビ」の須永祐慈さんによると、まず前提として「いまの子どもたちは、コミュニケーションに関してすごく神経をつかっています」と話します。
そんな子どもたちが、学校でもソーシャルディスタンスルールに縛られる生活を続けると、「友達に声をかけるタイミングを失っちゃいますよね」。
「例えば休校前までめっちゃ仲が良い子がいたとしても、よそよそしい空気のまま1~2週間が経つと、不安だけが膨らみ、結果的に関係性がゼロに戻ってしまう可能性はあります」と指摘します。また、その不安を一人だけでなく、複数の生徒たちが同じように感じていると、「教室の空気が冷たくなってしまうことは十分にあり得る」。
では、その空気をどうしたらいいのか。
まず、須永さんは「話したい」という気持ちがある子に対しては、「自分がしゃべりたいと思っているなら、しゃべっていいんだよ」といいます。でも、「しゃべったら浮いちゃうのでは?と心配なら、無理しなくていい。自分の気持ちに正直でいい」ともいいます。「自分で勇気を出すのも良いけど、きっと我慢できなくなった他の子がしゃべり始める場合もあるので、それを待っていてもいい」
他方、そのようにクラスの空気を溶かそうとしてくれる子が出てきたときには、「あたたかく『そうだよね、私も同じこと考えてた』と共感を示すのも大切です」とします。
その上で、「もし、友人関係を遮断してまで『距離を保て』とか『絶対に話すな』とか言ってくるような先生がいたら、それは抵抗してもいいかもしれませんね」と話します。
その理由として、もしそのような「ソーシャルディスタンスの過剰な徹底」があった場合、「そこに同調圧力が加わり、(雰囲気を和らげようとしてくれた子に対して)制裁を加える空気が広がる可能性があるからです」と指摘します。「感染症対策中心主義ばかりを押し付ける空気があったら、それはおかしい」
また、もしなかなか空気が和らがない状態が続いたときには、「みんながリラックスして交流できる時間があるといいかもしれません」と提案します。学習時間の確保のため、文化祭などの行事が中止になっている学校も多い中、「先生に、勉強だけじゃない時間をとってもらうことができれば、少し変わるかもしれない」と、先生などの力を借りることも薦めています。
一方で、文部科学省が公表した衛生管理マニュアル「学校の新しい生活様式」には、「身体的距離を確保することが重要」といった記述や「基本的には常時マス クを着用することが望ましい」などといったことが記されています。
須永さんは、「もちろん感染症対策は大事になってきます」としつつ、「でも学校では気持ち良く過ごしたり楽しく学んだりできるかがとても大事であるとも思う」と指摘。「嫌な気持ちを抱えないために、具体的にアイデアを出し合いながら過ごせるといいですね」と話しています。
新しい環境に身を置くとき、「話したいけど浮いたらどうしよう」と思う気持ちはとてもよくわかりますが、私自身は不安を感じつつもしゃべり始めるタイプです。
ただ、須永さんは「無理しないで話し始める子を待ってもいい」という方向も示してくれました。
もちろん、「ちょっと『無理』をしてみたら、世界がひらけるかもしれない」という考え方もあります。一方で、その無理によって自分にかかる負荷を見過ごしてないでしょうか。現に、人との関係で無理をしてしまった日は、家に帰ってから何も手につかない日もあります。
須永さんの言葉からは、そのままの自分の感覚も、大切にしていいということに気づかされました。
そして、大切なのは、須永さんが言うように、空気を変えようとする「誰か」が現れたときに「あたたかく共感を示す」ことなのだと思います。
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