外出自粛により、家で過ごす時間が増えました。同居する人がいるなら、その相手との時間が増えたということでもあります。政府は感染拡大防止のための国民の行動に関して「家族単位を基本とした行動」を奨励していますが、ここで言う「家族」とはどこからどこまでを指す言葉でしょうか。
同棲しているカップルは? LGBTQのカップルは? 法的には想定されていない「家族」に今、何が起きているのか――「コロナ禍における人々の生活」を見つめる作家・小野美由紀さんが、性的マイノリティの人たちの生活に起きていることについて、話を聞きました。(作家・小野美由紀)
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ーー今回お話をお聞きするのは、ライターとしてLGBTQに関する情報を発信し、フリーランスのデザイナーとしても働いている松岡宗嗣さん(24)です。2年前から介護業界で働く男性パートナーと同棲しています。新型コロナウイルスによって松岡さんの生活に変化はありましたか?
自分自身の生活、特に働き方に関しては正直なところ、そこまで変化はないんです。
もともとは会社で週に数日働きつつ、フリーランスとしてデザインの仕事をしたり、ライターとしてLGBTQに関する記事を書いたり、企業や学校などでLGBTQに関する研修を行ったりしていました。在宅ワークの割合がこれまでも多かったんですね。
ただ、研修の仕事は今は完全になくなっていますね。学校がそもそも休みだし、企業でも研修どころじゃないというところが多いので。その部分の収入はいきなりゼロになるので、他で埋め合わせなきゃという感じです。
ーー松岡さんは、パートナーの男性と2年前から同居されていますね。パートナーの方の生活の変化は?
パートナーは介護福祉士なので、今も変わらず出社しています。高齢者の多い施設は感染者が1人でも出ると多くの人の命にかかわるので、私がウイルスを持っていたらどうしよう、という不安もあり、かなり予防には気を使っています。特にパートナーから何か言われたわけじゃないのですが、自主的に、今はほとんど外出しないようにしています。買い物や散歩するくらいです。
松岡さん曰く「初めてたこ焼き機を買って、家でたこ焼きをした」とのこと。できるだけ家の中での生活を楽しくするために工夫をしたと言う。 出典: 本人提供
ーーそれはいつ頃からでしょうか?
最初はニュースで見て気にするぐらいだったのが、志村けんさんが亡くなってしまった少し前くらいから「他人事じゃないんだ」と強く意識し始めました。今思うとだいぶ前のように感じられますが、まだ2カ月も経っていないんですよね……。
ーーパートナーの方に対しては、どのような想いですか?
まず健康が心配ですよね。相手が家に帰ってきて、ゴミ箱に捨てられたマスクを見ると、パートナーが感染リスクに晒されながら働いていることを実感して心配になったりします。
けど、介護福祉士という職業柄、出勤しないって選択肢はないので。行くなとは言えないし、不安は感じつつも変わらない日常を送るよう心がけています。
今日はパートナーは夜勤明けで。昨日の16時から勤務して、朝の10時に帰ってきました。自分は彼の帰宅したドアの音で起きて……。今パートナーは寝室で寝ているんですけど、リビングにいる自分がリモートのミーティングや友人との通話で起こしちゃわないように気を使っています。
自分はもともと家にいることが多かったので、そこまで生活が変わったという実感はないですが、今は彼が家に帰ると必ず二人ともいる状態。家族でもパートナーでも、一人でいたいときってありますよね。以前は自分が夜に会食などで出かけることも多かったのですが、それがゼロになったので、「ずーっと一緒でストレスが溜まっているんじゃないかな」って、申し訳ない気持ちになったりもします。
ーー「コロナ・ショック」で可視化された、同性カップルならではの課題はありますか?
コロナ禍でDVの問題が大きく報道されていましたが、同性カップルにも当てはまると思います。例えばゲイカップルの場合、これぐらいはただのケンカだろう、と周囲も本人も思いがちなこともあるし、被害を相談しづらい可能性もあるな、と。
相手や自分がコロナに感染したときのことを考えると、同性カップルの場合、異性愛カップルにはない様々なハードルが立ちはだかってきます。
例えば自分のパートナーは、ゲイであることは友人に対してや職場でほとんどカミングアウトしていないんです。もし万が一感染したときには「誰と接触していたの?」というところから、望まない形でのカミングアウトにつながる可能性もあります。
同居人である自分が感染した場合、彼は職場に感染の疑いがあると報告しなければならなくなりますが、彼はカミングアウトしていないので「え、なんでその人と会ってたの?」と疑問を持たれ、そこからゲイであることが明らかになる可能性もあります。
また、コロナに相手がかかったとき、緊急時に「自分は家族としてカウントされるのか」という不安があります。コロナ感染の疑いがある同性パートナーで、「家族ではないから病院の移送先を教えてもらえなかった」ということが実際に起きているそうです。
異性愛者であれば、「この人はおそらく妻であろう」とか「恋人であろう」ということで家族として対応してもらえると思います。けど、男性同士とか女性同士だと、友人やルームメイトのような関係がまず想定されがちなので。
万が一、病状が重篤化した時にも、きっと病院が連絡するのは私じゃなく、実家の家族になるのかな、という可能性を考えると、やっぱり不安になりますね……。いつかお会いしたい気持ちはありつつ、まだ自分は相手の家族とは面識がないので、パートナーの安否について連絡がとれるのか不安はあります。
同様に家族へのカミングアウトをしてない当事者の場合、ただでさえパートナーの緊急時に、その状況はかなりきついのではないでしょうか。
もともと同性のカップルの場合、法的な配偶者ではないので家族とは見なされず、例えばパートナーが亡くなったときに看取れない、共に築き上げた財産が相続できないなどのケースがあります。
それは以前からLGBTQ当事者間では重大な問題ではあったのですが、自分はまだ年齢が若いこともあり、そこまで喫緊の不安は感じていませんでした。コロナの広がりによって「待てよ、これは自分にもありえることだな」と気づかされました。
ーー自治体によっては「パートナーシップ制度」を設けていますが、コロナ感染などの緊急時の面会にはあまり関係がない?
もちろんパートナーシップ制度があれば家族として認めてくれる場合もありますが、あくまでも現場の裁量に委ねられてしまいます。それにパートナーシップ制度は自治体が二人の関係を認めるというもので、パートナーが亡くなった場合の遺産の受け取りなど法的には効果がありません。
同性パートナーが亡くなった場合、たとえ一緒に暮らしていても、遺言などがない場合、相続はできません。パートナー間で公正証書を作成するなどの方法もありますが、費用もかかります。負担が多いし、異性間と比べたときにフェアではないなと感じます。
ーー緊急事態宣言下では、各県がGW以降の行動指針を発表し、中には「家族での外出はOK」とされていた県もありますが、同性の同棲カップルは法的には「家族」と認められていないわけですよね。
もし外で男女が歩いていたら、周りはカップルだろうと思うけど、同性同士だったら、きっと友人同士だと思われるでしょう。もちろん男女の友人の場合もあると思いますが「なんでこんなときに友人と遊んでいるんだ」と思われてしまうかもしれませんね。
2019年9月に開催されたさっぽろレインボープライドにて、写真右はトランスジェンダー活動家の杉山文野さん。 出典: 本人提供
ーー新型コロナウイルスの感染拡大があってから、同性の2人組をあまり街中で見かけなくなりました。
パートナーの仕事の帰りに一緒にスーパーで買い物をして帰ってくることもあるんですが、周りはほとんどが男女か子ども連れか一人なので、いつも以上に“浮いている”なと思います。例えばジャージで買い物してるときとかに「あの人たち男同士だけど、男性2人で一緒に住んでいるの?」って周りからは見られるのかな、って思います。考え過ぎな部分もありますが……。
でも、普段から、恋人関係であるということになんの後ろめたさも感じず自然体で外でいられるってことはないなあ。友だちっぽく見せなきゃいけないってのは、ずっとどこかで思ってしまっている。
あと、これはすごく、ちょっとしたことなんですけど、以前トイレットペーパーが不足したとき、パートナーが家の常備分が切れたという話を同僚にしたんです。そしたらその同僚が「一緒に住んでる“彼女"が大変でしょ」って言って大量にくれた。
パートナーはその同僚には「女性と一緒に住んでる」って話してるらしいんですね。だから、「あ、女性だとトイレットペーパーを男性より多く使うから、大変でしょって気の使われ方をしたのかな」って思ったりしました。これはある種、嘘をついていて“よかった”例ですが、そのために辻褄を合わせたりが大変ですね。
――非常時だからこそ「周りからどう思われるのかな」「通常の家族としては見られてないのかな」と考えるきっかけが増えたのでしょうか。
行政の支援策や救済措置で世帯単位でカウントする施策に違和感を持つこともあります。よく言われていることですが、例えば給付金は世帯主が受け取るというのは全員に平等に行き渡るのか不透明ですし、「1世帯につきマスク2枚」についても、世帯カウントかと思ったら全戸配布なので、例えば5人でシェアハウスしているような人たちにも同様に2枚しか届かないんですよね。
行政の想定する「世帯」というもののイメージがかなり旧来的というか「働く夫と専業主婦、子供が2人」みたいな、今ではもうだいぶ少なくなっている“典型的な家族構成”をもとに考えられているようで、未だにそれを基準にしているのはかなり実情に合っていない気がします。
ーー政府は国民の生活の実態がわかっていない?
首相の記者会見でもたびたび「家族」が強調されていましたが、その「家族」の中には、LGBTQの人たちの暮らしやカップルの存在が最初から想定されていないんだな、と感じてしまいます。
今回の政府の方針の決め方によって、マイノリティに対する政府の眼差しが浮き彫りになってしまった感じがします。
これから先の支援策や経済的な措置についても、基準となる人たち以外を取りこぼす可能性が高いのではないかと危惧しています。政府には、家族や世帯といってもその形は色々であるという現実をきちんと見てほしいと思います。
ーー松岡さんはパートナーと「もしどちらが片方がコロナ感染したときにはどうするのか」について話し合いましたか?
軽くは話していますが、例えば緊急連絡先をどうするか、救急隊員や病院の方に関係性をどう伝えるか、意思が尊重されなかった場合にどうするか、具体的な対策や細かいところまではまだ話せていないです。
パートナーの場合は、さらに職場にどう説明するのかを考えないといけない。自分の存在を家族に明かすのかどうかも含めて、決めておかなければならないですね。
ーーリモートワークが増えましたが、同性カップルの場合、付随する悩みなどはあるのでしょうか?
ゲイの当事者で、同性パートナーと暮らしているが、職場にカミングアウトしておらず一人暮らしだと嘘をついていた。コロナでどちらも在宅勤務になり、ビデオ通話の画面の向こう側に、別の人の生活感が出ちゃうとか、人影でバレそうになって困った、という話は聞きました。「一人暮らしって言ってたのに、男と暮らしてるって、どういうこと?」っていう。
ーービデオ会議などの普及で、期せずしてプライベートが可視化されてしまった。
バレたらどうしよう、と心配を抱える同性カップルも増えている気がします。以前よりも性的マイノリティへの理解が増してきたとはいえ、まだまだ同性愛者に対する偏見は社会に存在するので……。パートナーも、職場でホモフォビア的なジョークを聞いたりする機会がまだ多くあり、カミングアウトは難しいと言っていました。
他にも、家族と過ごす時間が増えることで、性的マイノリティならではの悩みを抱える人が増えることを懸念しています。特に、家の中で家族と長時間、過ごさなければいけない若い世代のLGBTQは今、孤立しやすいのではないかと思います。家族が彼らの性的指向や性自認を理解していない場合、酷い言葉をかけられたり、肩身の狭い思いをしたりする人も多いんじゃないかと。
ーー家族が味方じゃないってこともあるんですね。
はい。もし家族が理解していなくても、以前は例えば外に出かけて同じ課題を抱えた仲間と出会ったり、集まりに参加して悩みを分かち合ったり、親がいないときには電話で相談することもできたりした。そんな人たちの場合、今は四六時中家に家族がいて、ある種監視の目が常にあるので、仲間と通話できない、LGBTQ関連のコンテンツを見れないなどの不安が強くなっているのではないかと思います。
――松岡さんは、一般社団法人fair代表理事としてLGBTQなど性的マイノリティへの社会的理解を促進する活動を行なっていますよね?
今回のコロナによる影響で、私の今後の活動の仕方も変わってくるなと思いました。非常時には、「より困難がきつい人」が可視化されてくる。震災のときなどもそうでしたが、みんなが大変なときには、マイノリティならではの悩みごとは普段より一層、置き去りにされるので。
ここではあまり話しませんでしたが、LGBTQの中でも、例えばトランスジェンダーで雇用が不安定な人が多かったり、バイセクシュアルのメンタルヘルス不調の割合が高かったり、コロナ禍でより大変な状況に置かれる人にフォーカスしなければいけないなと思います。
ただ、もともとLGBTQの人々はリアルでの出会いが難しかったことから、オンラインのつながりを作ることにより積極的だったと思っています。これを機に、より地域を越えて連帯しやすくなるのかな、って期待はあります。これからの時代の活動としてフィットするやり方を模索したい。
自分の生活を振り返ってみると、コロナである意味プラスになったこともあると思っていて。これまで家事や自炊などがついおろそかになりがちだったのが、家にいる時間が増えて、それらに割く時間ができたこと。この前も炊き込みご飯を作ったり、他にもミキサーを買ってスムージーを作ったりするようになりました。
ずっと家にいて日々のニュースに塞ぎ込んでしまうことも多く、そんな中で特に皿洗いをしているときに気が紛れるんですよね。そうして生活の質に目を向けたり、ゆったりした時間の使い方ができるようになったのはいい変化だなと思う。
もちろん、「なんとかなるでしょ」とは到底思えないし、メンタルヘルス不調で休職中にコロナの影響を受けてしまった友人や、休業により「ただでさえ少ない給料が半分になっちゃった、どう生活していこう」という友人の話を聞くと、「これからどうなるんだろう」とも思う。不安だ、という気持ちと、まあ生きてはいけるだろう、という気持ちが入り混じっていますね。