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連載

#13 withコロナの時代

コロナ時代でも、私たちは「混ざり合える」か 会員制カレー店の挑戦

広がる「オンライン=リアル」の世界

店舗が休業となり、「オンライン店」を開設した6curry。ZoomからDiscordにツールを変更するなど、よりよい体験を提供するため試行錯誤を続けている(画像はイメージです)=6curry提供
店舗が休業となり、「オンライン店」を開設した6curry。ZoomからDiscordにツールを変更するなど、よりよい体験を提供するため試行錯誤を続けている(画像はイメージです)=6curry提供

目次

withコロナの時代
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コロナの時代でも、私たちは「混ざり合える」か――。新型コロナウイルスの感染拡大で、飲食店の運営にも変化が迫られるなか、都内のカレー店「6curry」が新たなコミュニティ作りに取り組んでいます。ビデオチャットを通じたコミュニケーションは、ツールを変えながら試行錯誤。店舗という場所が提供してきた価値に改めて気づかされた一方、オンラインだからできる可能性も感じています。画面越しでもつながりを追求し、「リアル」の概念を広げる。その挑戦は始まったばかりです。

食を通じた場所作り目指す

「だれか一緒に、カレー革命起こしませんか?」。企業のビジョン作りや発信を手がける企画集団「NEWPEACE」の高木新平代表の一言がきっかけで生まれた6curry。カレーを軸に、色々な人たちが混ざり、新しいものを生み出す。「EXPERIENCE THE MIX.」をコンセプトにした「6curryKITCHEN」が2018年9月、東京・恵比寿にオープンしました。

カレーをただ作る・食べるだけにとどまらない関係が作れるよう、店は会員制のコミュニティキッチンという形をとっています。スタッフと会員が一緒にメニュー開発をしたり、会員が「一日店長」をしたり……。

「飲食店というより、食を通じた場所作りなんです。なので、住所は公開していません。会員になってくれた人たちは、親しみを込めてメンバーと呼んでいます」

6curryを運営する「NEWPEACE」代表の高木新平さん(中央)=6curry提供
6curryを運営する「NEWPEACE」代表の高木新平さん(中央)=6curry提供

スパイスや食材を混ぜ合わせてカレーを作るように、人やアイデアがキッチンに集まり化学反応が生まれる。もちろん、ただただカレーを食べて雑談するだけだっていい――。高木さんは「大人になると、会社か家族かになりがちです。だからこそ、フラットに個人になれる『サードコミュニティ』が必要だと思うし、キッチンがそうした場所になれば」と力をこめます。

会員数は400人を超え、昨年10月に立ち上がった渋谷店は今年2月からランチを会員外にも開放。地域と混ざり合う試みなど、新しい種まきをしていた矢先に、新型コロナウイルスの感染拡大が起きました。

6curryKITCHENの恵比寿店。会員とスタッフの「混ぜこぜ」ができるよう、U字型のキッチンカウンターになっている=6curry提供
6curryKITCHENの恵比寿店。会員とスタッフの「混ぜこぜ」ができるよう、U字型のキッチンカウンターになっている=6curry提供

休業の決断とZoom店の開設

「こんな状況だからこそ、安心できる居場所を提供し続けたい」。チームメンバー全員で、感染対策をしながらキッチン継続の道を模索しました。しかし3月下旬以降、都内の感染者が急増。行政が呼びかけた3密(密閉、密集、密接)回避の要請は、コンセプトの根幹を揺るがすものでした。

そして、「長期戦を覚悟する必要がある」などと発言した安倍晋三首相の会見などを経て、6curryは4月中の店舗休業を決断します。3月30日、運営のリポートなどをまとめていたnoteに発表しました。

ただ、そのタイトルは「withコロナ時代に向けて、6curryは次なる飲食店のカタチをはじめます」としました。休業の無念さはある一方、「ただただ、おやすみするわけではありません」と記し、オンライン上で「Zoom店」を開くこともあわせて表明しました。

「休業は緊急事態宣言前の決断でしたが、官から言われるままでは、後手後手の対応になってしまうのが想像つきました。社会が変わらざるを得ない前提で、どう向き合っていくか。その中で、オンラインのコミュニティづくりにチャレンジしようと決めました」(高木さん)

見えたZoom店の課題

6curryではnoteのほか、SNSでのつながりもありましたが、ビデオチャットを使ったコミュニケーションは初めて。会議や飲み会などで活用されていたZoomを用いて平日夜の1時間半、会員が参加できる「店」をオープンしました。

お題を決めて会話をしたり、みんなでできるゲームをしたり。自宅でも店舗の味が楽しめるように、スパイスキットの通販も開始しました。オンラインで作り方のワークショップも実施。キッチンに代わる「場所」を目指して、手探りの挑戦を続けました。

4月の平日夜に開かれたZoom店の様子=6curry提供
4月の平日夜に開かれたZoom店の様子=6curry提供

しかし、1カ月が経つ頃には、Zoom店の課題も見えてきたと言います。

渋谷店の新井一平店長が感じたのは、「関わり方の濃淡を気軽に選べない」ことでした。「Zoomでは、一人が話すと他の人たちは聞く以外の行動がしづらい。店舗であれば、至る所で会話が生まれますが、Zoomではファシリテーター対全員の構図になってしまいます。隣同士に座った人たちで会話を始めるような、偶然の出会いが起きにくくなりました」

その延長で、「何となく訪れる状態」も作りづらかったと言います。「料理や会話、音楽、その場の空気感など、色々な情報を店にいるだけで得ていたことが、オンラインと比べると分かったんです。その結果、『無目的にふわっといる』ということもできていました」

「Zoomの場合は、『参加する』が基本スタンスになってしまうので、目的がないと居心地が悪くなってしまいがちです」

知り合いがいる場合は使いやすい一方、新しい人たちにはハードルの高い場所になってしまったZoom店。「集客という意味でも、オンラインではとがっていないと埋もれてしまう。ただそれだと、イベントのように目的がないと成立しづらくて、6curryが実現したい『誰でも主役になれる場』からは遠ざかってしまう」と難しさを語ります。

Zoom店の課題については、noteでも発信している=6curry提供
Zoom店の課題については、noteでも発信している=6curry提供

ツールを変更、キッチンをより再現

それでも、高木さんと新井さんは前向きです。「課題があるということは、キッチンを通じて提供してきた価値にも向き合えているということですから」と新井さん。5月からは、Zoom店に変わって、ゲーム用の会話ツールとして使われることが多い「Discord」を使った「6curryRoom」を始めました。

Discordでは、映像・テキストのチャンネルをいくつも作れるので、「初めての人に店を知ってもらう部屋」「カレーについて語る部屋」など、店舗のキッチンにより近い形を再現しています。

「Roomは24時間『開店』しているので、テキストでメッセージを残したり、人が集まればビデオチャットで会話することができます。新しい試みとして、ミニワークショップも連日開催することにしました」と新井さん。

「ワークショップはスタッフだけでなく、メンバーの人たちが好きなことや得意なことを講師となって披露できます。主体的に参加しても、チャットを眺めるだけでもいいので、関わり方のグラデーションを少しはつけられるようになりました」

オンライン上でのコミュニティのあり方について模索する新井一平さん=6curry提供
オンライン上でのコミュニティのあり方について模索する新井一平さん=6curry提供

オンラインも「リアル」に

オンラインはもちろん、課題ばかりではありません。「よく言われますが、場所の制約が取り払われます。6curryでもこれまで店舗に来られなかった人とオンラインでつながることができています」と新井さん。「将来的には、同じ地域に住む人たちがオンラインでつながり、各地に6curryの拠点が生まれたらうれしいですね」

高木さんは、ビデオチャットの爆発的な普及で「ネットとリアルの境目が溶けてきた」と表現します。

「ネットネイティブの若い世代は元々、オンラインもリアルだと思っている人が多かったですが、それ以外の人たちは外出自粛になるまで、対面などのオフラインだけがリアルだと考えていたと思います」

「ビデオチャットの普及によって、映像でつながることは日常となりました。これからツールの改良がどんどん起こり、オンライン=リアルの領域は広がっていくでしょう」

5月中旬以降、東京でも緊急事態宣言の解除に向けた議論が活発になり、営業再開を考える飲食店も出てきました。6curryも再開に向けて準備を進めていますが、6curryRoomは継続する予定です。

「Roomは恵比寿、渋谷に続く三つ目の拠点です。オンラインとオフライン、どちらの入り口からでも、使う人にとって居心地のいい場所を作っていければ」と新井さん。五感すべての情報が詰まったオフラインと、場所や時間の制約を超えるオンライン。二つが混ざり合った「リアル」の世界をこれから、6curryは描こうとしています。

昨年9月に開店した渋谷店のオープニングパーティー。withコロナの時代も、「混ざり合う」ことに向き合い続ける=6curry提供
昨年9月に開店した渋谷店のオープニングパーティー。withコロナの時代も、「混ざり合う」ことに向き合い続ける=6curry提供

記者の気づき
■取材のきっかけ
新型コロナウイルスの終息が長期化する見通しとなり、多くの人が「コロナ社会」を前提とした活動を模索しています。正解がない中で、手探りで明日を探す人たちに「今、考えていること、行動していること」をうかがい、この時代をどう生きるかを考える企画を4月上旬に立ち上げました。6curryのnote「withコロナ時代に向けて、6curryは次なる飲食店のカタチをはじめます」を読んだのは、ちょうどその頃でした。

6curryはこの記事だけではなく、これまでの思考や挑戦の軌跡をnoteにまとめています。4月の運営を振り返った記事では、オンライン店のトライアルのため、会員費をゼロにした結果、大幅な赤字になったことも報告していました。「6curryでは、失敗や課題もプロセスとして捉えているので、運営のこともできるだけオープンにしています」と新井さん。力強い言葉を聞きながら、作りたい世界がしっかりあるからこそ、ここまで「さらけ出せる」のだなと感じました。

■拡張するリアル
取材中、「既存の仕組みが機能しにくくなったこのウイルス禍で、どのようなサービスや価値観が生まれると思いますか」という質問をしました。その時、高木さんから返ってきた答えがビデオチャットでした。

その中で、「オンラインもリアル」という言葉を聞いた時はハッとしました。私自身も打ち合わせや飲み会でビデオチャットを使う機会が増えましたが、あくまで「リアルの代替」という認識でした。しかし、高木さんは「視覚と聴覚でリアルタイムに相手を感じられれば、ビデオチャットはもうリアルなコミュニケーションですよ」と話しました。

代替では「不便でも仕方がない」という発想になることもありますが、オンラインもリアルだと捉え直せば、「どうすれば、相手と心地よくつながることができるだろう」と考え始めることができます。「オンラインのリアル化は始まったばかり。ツールなど様々なものが生まれるでしょう」と高木さん。オンラインにもリアルが広がった時に、どんな世界が待っているのか。6curryの取り組みも、その一つの形を示すのだろうと思いました。

 

新型コロナウイルスによって、私たちの生活や経済は大きく変わろうとしています。未曽有の事態は、コロナウイルスが消えた後も、変化を受け入れ続けなければいけないことを刻み込みました。守るべきもの、変えるべきものは何か。かつてない状況から「withコロナの時代」に求められる価値について考えます。

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