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連載

#22 山下メロの「ファンシー絵みやげ」紀行

沖縄の土産店、店員さんの人生重ねた「カイロウドウケツ」との出会い

ふと立ち寄った土産店で出会った、店員さんとの時間

沖縄で立ち寄った土産店
沖縄で立ち寄った土産店

目次

バブル~平成初期に、全国の観光地で売られていた懐かしい「ファンシー絵みやげ」を集める「平成文化研究家」山下メロさん。今はもうほとんど売られていないこの「文化遺産」を保護するため、沖縄を調査していたところ、別の不思議なお土産「カイロウドウケツ」に出会いました。こちらも取り扱いは少なくなりましたが、奇しくも、土産店の店員さんの過去に思いを馳せるきっかけとなりました。沖縄での意外な出会いをつづってもらいました。

※この調査は昨年11月に行われたものです
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ファンシー絵みやげ紀行

「ファンシー絵みやげ」とは?

「ファンシー絵みやげ」とは、1980年代から1990年代かけて日本中の観光地で売られていた子ども向け雑貨みやげの総称です。地名やキャラクターのセリフをローマ字で記し、人間も動物も二頭身のデフォルメのイラストで描かれているのが特徴です。
バブル~平成初期に全国の土産店で販売されていた「ファンシー絵みやげ」たち
バブル~平成初期に全国の土産店で販売されていた「ファンシー絵みやげ」たち
写真を見れば、実家や親戚の家にあったこのお土産にピンと来る人も多いのではないでしょうか。

バブル時代がピークで、「つくれば売れる」と言われたほど、修学旅行の子どもたちを中心に買われていきました。バブル崩壊とともに段々と姿を消し、今では探してもなかなか見つからない絶滅危惧種となっています。

しかし、限定的な期間で作られていたからこそ、当時の時代の空気感を色濃く残した「文化遺産」でもあります。私はファンシー絵みやげの実態を調査し、その生存個体を「保護」するため、全国を飛び回っているのです。

沖縄県、ロードサイドにある土産店

前回に引き続き、今回も沖縄での調査です。そこで、私はファンシー絵みやげとはまた違った、不思議なお土産品と出会いました。

観光地に向かうため、車で移動していたところ、道中で突然「おみやげ」の文字が私の目に飛び込んできました。観光地からは離れているものの、空港へ向かう旅行者が必ず通るような場所にあり、買い忘れたお土産を調達するのに良い立地なのかもしれません。

店の外には「この店、やすくカエルヨ!!」として蛙のイラストが描かれているなど大変シャレが効いています。外観も「GIFT SHOP」と英語でオシャレに描かれていたり、分かりやすく「おみやげ屋」と日本語で大きく書かれていたりと非常に個性的。もともとここに寄るつもりはありませんでしたが、惹かれてしまい、すぐに入店しました。

店内には琉球ガラスや食品の土産品がたくさん売られています。

観光地で売られるお土産物は、もともと民芸品などが主流でした。時代の流れとともにファンシー絵みやげをはじめとした量産品が主流になり、現在では大人数にシェアしやすく、「消えモノ」なので保管場所に気を遣わせない饅頭やクッキーなど、食品が主流になっていきました。

このお店は食品と琉球ガラスというまさに今日的なラインナップであり、私が探すような懐かしいものは売ってないのかと思いました。しかし、よくよく見てみると内装がどうも少し懐かしい個所があります。

貝細工や木工品など、かつての沖縄みやげを思わせる民芸品もちらほら。そしてある一角などは、まるでトレンディ―ドラマに出てくるようなアーバンな雰囲気でまとめられています。これは、何か見つかるのではないかと期待に胸を膨らませました。

しかし、ファンシー絵みやげは見当たりません。ファンシー絵みやげと同じく、バブル時代に売られていたと思われる、「OKINAWA」の名入れがあるレースのれんのみが見つかりました。

しかも、商品ではなく、ディスプレイとして飾られていたもの。絵柄は沖縄固有のものではなく、ビーチリゾート地であればどこでも汎用的に使えるものに「OKINAWA」と後からプリントしたものです。

確かに「OKINAWA」の文字が見える
確かに「OKINAWA」の文字が見える

それでも、一つ見つかったということは、当時はこういった商品を販売していたという証拠でもあります。より詳しい話を聞いてみようと店員さんに相談してみました。

 

山下メロ

バブル時代の子ども向けの雑貨みやげを探して沖縄に来たのですが、昔のものが残っていたりしませんか?

 

お店の方

昔のものってどんなもの?

 

山下メロ

こういう商品なのですが……(サンプルで持ってきたキーホルダーを見せる)

 

お店の方

そういうのはもう売れちゃって今はないねぇ。今売ってるもの買っていきなよー

 

山下メロ

あのレースのれんみたいなものでも残ってませんか?

 

お店の方

レースのれん?

 

山下メロ

ここにあるこれのことなんですが……

 

お店の方

こんなのあったの忘れてた……

 

山下メロ

どこかにこういう時代の売れ残りがしまってあったりしませんか?

 

お店の方

あー、あなた古いものが欲しいのよね、じゃあカイロウドウケツ知ってる?

 

山下メロ

カイロウドウケツ!?……あの四字熟語の偕老同穴ですか?

 

お店の方

それさー。ちょっと待ってて

そういうと店員さんは、在庫をしまってある場所を開いて探しはじめました。

「カイロウドウケツ」とは

 

お店の方

あったあった。これがカイロウドウケツさー

店員さんが取り出したのは、白いレース状の筒のようなもの。

正直ここで、海辺の観光地でよくある貝細工かなと思いました。もちろん貝細工も大変価値がある工芸品ですし、探してらっしゃる方も多いと思います。ただ、私が欲しいものは工芸品の価値が分からない子ども向けに、子どもでも買える安価な商品として売られていたファンシー絵みやげです。「工芸品ではなく量産品」しかも「子ども向け」ですので、真逆なものなのですが……。
 
すると、店員さんは私にこの「カイロウドウケツ」について教えてくれました。
英語で「ビーナスの花カゴ」と呼ばれるカイロウドウケツ
英語で「ビーナスの花カゴ」と呼ばれるカイロウドウケツ

 

お店の方

カイロウドウケツは、海綿動物の一種。網目状の筒でエサをとるんだけど、中にエビの夫婦がいて一生を過ごすんです

 

山下メロ

へー。この中にエビがいるんですね
幼生期にカイロウドウケツの中に、雌雄未分化の二匹のドウケツエビが入り、そのうちにそれぞれが雌と雄になるそうです。成長すると網目から出られなくなり、そのままカイロウドウケツの中で夫婦が一生暮らすのです。

 

お店の方

そうやって夫婦がずっと同じところで暮らすので、夫婦の縁起物として人気だったの
常に一緒に生きて老い、同じ墓穴に入るという夫婦の絆の強さを意味する四字熟語「偕老同穴」の意味とも重なります。どうも、中国の故事成語である偕老同穴を、まさにこのエビ(ドウケツエビ)が体現していることから、海綿自体がカイロウドウケツという名前になったようです。故事成語と深海の海綿の繋がりを知ることができて、大変勉強になりました。

 

お店の方

お土産も、最近は安い値段で大人数に配れるお菓子ばかりになっちゃって。少し値段の高い貝細工とかこういうものは買う人が減っちゃってね

ファンシー絵みやげのように子ども向けの値段のものでさえ、流行や景気の影響を受けて姿を消していったのですから、高額な商品ならなおさら売れなくなる可能性もあるでしょう。

 

お店の方

私もカイロウドウケツをね、福岡から嫁に来るとき持ってきたのよ
普段の「保護活動」で出会う店員さんにとって、私はただの客。なかなかプライベートな話をする機会はありません。まれにそういった話をする機会もありますが、あくまで「昔はこんなに仕事が忙しかった」とか、そんな話です。
 
しかし、このカイロウドウケツと、そこで一生を添い遂げるドウケツエビの話をしたことがきっかけで、お嫁に来た日のことを私に話してくれました。

さっきまで軽いノリで「なんか買っていきなよー」という感じで会話していた店員さんの儚げな表情。細かい繊維が集まる、いまにも壊れそうなカイロウドウケツが、それと重なりました。
 
不思議な感覚に襲われ、思わず私はカイロウドウケツを購入してしまいました。しかも、思っていたより安く購入できました。
 
不思議な気分のまま店を後にすると、またも店の看板が目に入りました。

確かに安く買えました。

天然のものなので一つ一つ形も大きさも違うカイロウドウケツは、量産品であるファンシー絵みやげとは真逆の存在です。しかし、カップルの恋愛祈願や縁結びの要素のあるものが多く、また、時代の流れによって店頭から姿を消して行ったことなど、近いところもあります。

ファンシー絵みやげが保護できなくとも、ファンシー絵みやげに繋がる土産店の商品と、その来歴やエピソードに出会えたことは何よりの成果です。

結納や結婚祝いなど、夫婦の縁起物が必要な時にカイロウドウケツはいかがでしょうか。

     ◇

山下メロさんが「ファンシー絵みやげ」を保護する旅はまだまだ続きます。withnewsでは不定期で、山下さんのルポを配信していきます。

ファンシー絵みやげ紀行

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