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#6 withコロナの時代

介護も躊躇…脳性まひの暮らし、コロナが暴いた「無理していた関係」

「こんな時だから、納得できないことも、なんだかおかしいぞって感じることも互いに出てくる」

福本千夏さん=イーストプレス提供
福本千夏さん=イーストプレス提供

目次

withコロナの時代

外出自粛や、休校、望んではいなかったけど始まった在宅勤務――。新型コロナウイルスによってたくさんのことが制限されています。いま、新型コロナに揺れる社会は、日常を制限されることも多くある障害者の目にはどう映るのでしょうか。障害者の日常をコラムにした「障害マストゴーオン」(イーストプレス社)の著者で、脳性まひを持つ福本千夏さんに書面で聞きました。

【関連記事】「私なんか常に自粛生活」脳性まひの暮らし揺さぶったコロナウイルス

介護、こんなときだから納得できないことも出てくる

――福本さんは、いまも一人暮らしをされていて、いわゆる「自立生活」を送られていますね。

 私が若い頃に出会った自立障害者はかっこよかったぁ。今のように制度としての介護派遣もなかった時代に、施設や親元から離れてひとり暮らしをしていた。
それは野垂れ死にの覚悟がいったと思うんです。でも、その気迫と喜びに満ちた生きる姿に突き動かされて、学生を筆頭に無償で手を貸してくれた人がいた。
脳性まひの私もね、37年前は今よりは動けていて、友人になった障害者のお宅に冷蔵庫の賞味期限の点検や夕飯づくりに行ってましたもん。介護をする・されるとかじゃない。なんか、そう!出会ってもた(出会ってしまった)みたいな感じです。

――介護をする・されるじゃない関係。

 今は無償ボランティアなんて考えられないでしょ? それどころか、コロナ感染拡大で、本来なら「助けてー」と言える介護制度を使うことも障害者自身も介護提供事業所も躊躇しています。しゃあないんですが。

でも、一人でトイレに座れない。お風呂に入れない方もいるんです。その手伝いを生業とする人とは体も心も濃厚に接触する。互いに命懸けの運命共同体ですわ。すっかり動きにくくなった私も手を貸してくれる人たちに感謝してます。

でも、こんな時だから、納得できないことも、なんだかおかしいぞって感じることも互いに出てくる。

福本千夏さん=イースト・プレス提供
福本千夏さん=イースト・プレス提供

人との距離2メートルあっても「きちんと伝える」

――この状況だからこそ、余計にアラが目につくというか

 アラとは違います。言い方を変えると互いに無理をしていた関係だったんです 。

だから、その思いも状況も、実はコロナの前からあったんじゃないの?っていうことになる。
今って自分の一瞬の判断が自分だけではなくて、たくさんの命に影響を与えると思うんです。だから素直に言う。正直に問うて、返事がなかったら、また考えて伝える。声をあげないと何を考えているのかわからんもん。


――それは自立した生活を送る上でも欠かせない

 「自立」って、人の手足をお借りして生きていく覚悟に加えて、自分を律して生きる心意気が要されると思う。あーあ、かっこつけてしもた。
けど、自分を律するってなにも我慢することじゃない。自分で背筋を伸ばして、自分で考えて自分で行動すること。

だから、今までなら、「これは私が言わなくても、誰かが言うだろう。決めてくれるだろう」て、黙っていたことも、きちんと伝える。もちろん言うからには責任も伴います。恐いです。
が、こうして生きていくことによって声をかけてくれる人も助けてくれる人にも出会えることを今、思いだしました。たとえ、人と人の間の距離が、2メートルあってもね。

私は弱い。強くはなれない。

――そんな思いも含めて、福本さんは「障害マストゴーオン」を書かれています。書いたきっかけは。

 いやー自分が書きたいから書いたんですけどー。笑
そもそも書く行為は強制されてできるもんじゃない。お答えするなら「書くことが楽しめて、いっしょに苦しんでくれる人がいたから」です。
私は弱い。だけど強くなりたくはない。どんなに願っても強くはなれないんです。それはコロナが世に出る前から。

――編集者さんとはどんなお話をされていますか。

 「ゴーオン」の担当編集者は、時として読者と歩む気持ちを忘れかける私に「福本さん、こびなくていい。ですが、素直に書いて・優しく書いて・楽しんで書いて」と言いました。

もともと私は専業主婦の温室育ち。夫を亡くし息子の人生を立て直すために50歳からゆるーく働きだした。他人の介護を受けながら、社会に出て感じたことはたくさんあった。
友人は、「おかんのつぶやきなんて誰が読む?」と言った息子と私の成長記録(!)に、ただただ爆笑したらしいですが。

障害マストゴーオン
障害マストゴーオン

「これって私だけ?」を共有したくて

――「障害マストゴーオン」では、福本さんの日常が面白おかしく綴られている内容も多く、なんというか「普通のコラム」として面白く読めるように感じました。

 「ゴーオン」は、こんな状況になってみて、「逆に健常者に向けてのメッセージみたい」とも言われました。

うっとおしい人間関係を少し省いての自宅勤務を願う。「助けて」としっかり言う子ども育てよう。一人で暮らす不安や喜び・人との距離を保ちながら支えられている姿・必死に互いを思い子離れ・親離れをしていく様・誰もが体も心も壊す可能性がある社会――。

「あんたって、コロナが世に出る前からずっと変わらない気持ちで生きてたんやね」って。


――新型コロナの流行によって、これまで福本さんが感じていた日常の違和感が、「障害者」と「そうじゃない人」にとって、共通のものと認識されたと。

 これを書いた時は、世の中がこんなふうになるなんて、1ミリとも思っていなかった。今も自分の言葉や行動に自信なんて持てませんよ。毎日心も体もビクビクゆらゆら。きっと、50歳にして初めて少しリアルな社会に触れた時から…。「これって私だけ?」っていう思いを誰かと共感したくて誰かに知ってほしくて「ゴーオン」を書いたんです。そして、様々な方の力で、ご本という形にして頂けた。
「ゴーオン」の最後のページに記した言葉…それはね

チーム「ゴーオン」の思いは一つ。「みんなで今日を生き抜き、みんなで幸せな明日を迎える。その手助けがしたい。心の溝を知りつつも…」
「障害マストゴーオン」(イースト・プレス)

【記者の気づき】


■障害福祉施設入所者の感染、福本さんの衝撃
福本さんへの取材は当初、3月上旬に東京で開催されるイベントに合わせて行う予定でした。
しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、基礎疾患もある福本さんに、お住まいの地域から東京までの移動をお願いするのは控えた方が良いということで、イベント自体が中止となりました。
次の機会をうかがっている中、福本さんがコラムなどの配信サイト「cakes」で掲載したのが、障害者は死んでもしゃあないん?ー「コロナより経済」に優生思想を見るという記事でした。千葉の障害者福祉施設の入所者の中に多くの感染者が出たことに対する衝撃を綴ったものでした。
「あなたは罪を犯したわけでも、病にかかったわけでもないのに、食事や就寝時間も自由にならない、きっとややこしい人間関係に耐えなければいけない施設に入りたいですか?でも、障害者なんでしょ。しゃーないやんって言う前に一度自分のこととして考えてください。障害者になる可能性は誰にでもある! あなたは施設に入りたいですか?で、そこであなたはコロナに感染したとしたら? 挙句に命を落としたら? なんでやねんって思いませんか?」(障害者は死んでもしゃあないん?ー「コロナより経済」に優生思想を見る より)

2018年の障害者白書によると、身体障害における施設入所者の割合1.7%、精神障害における入院患者の割合は8.0%、知的障害者の施設入所者の割合は11.1%となっています。


■制限される苦しみ、理解できたいまだからこそ
障害者の中には、「行きたいところに行けない」「学びたいところで学べない」など、自分の意思が反映されないまま行動を制限されてきた人たちも多くいます。
彼ら彼女らの目には、多くの人たちの行動が制限されているいまの社会は、自分たちがこれまで生きていた社会の範囲が広がったように映るのではないかと感じています。
前編の記事(「私なんか常に自粛生活」脳性まひの暮らし揺さぶったコロナウイルス)で福本さんが語ってくれたのは、「同じ状況に置かれて共感する人が増えた」ということ。

制限される苦しみや悔しさ・無念さに、多くの人が共感できるいまこそ、自分基準の「普通」ではない人たちの思いにやっと近づけるのではないでしょうか。
今後、事態が好転したときに、私たちは自分たちが感じた「苦しみ」「悔しさ」「無念さ」がなくなったことに喜ぶだけでいいのでしょうか。一緒に考えてもらえるとうれしいです。

 

 

新型コロナウイルスによって、私たちの生活や経済は大きく変わろうとしています。未曽有の事態は、コロナウイルスが消えた後も、変化を受け入れ続けなければいけないことを刻み込みました。守るべきもの、変えるべきものは何か。かつてない状況から「withコロナの時代」に求められる価値について考えます。

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