MENU CLOSE

IT・科学

オンライン部活、ここまで来た!練習動画も部員まかせ、野球部の決断

困難な時こそ「自分からチャレンジ」

オンライ部活に挑戦する土佐塾中の野球部。部員が撮影した動画の一部
オンライ部活に挑戦する土佐塾中の野球部。部員が撮影した動画の一部

目次

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、多くの学校が臨時休校になっています。そんな中、動画を活用した部活に取り組む中学校があります。監督は甲子園出場経験のある高校球児ですが、マーケティング本を読み込み、改善点に取り組む中で「お手本の動画も部員に探してもらう」という斬新な試みを実施しました。不自由さをバネに「令和の部活」を模索する取り組みの狙いを聞きました。(朝日新聞高知総局記者・加藤秀彬)

【PR】指点字と手話で研究者をサポート 学術通訳の「やりがい」とは?
デジタルな自主練習 土佐塾中学野球部のオンライン部活

iPadで伝えた休校措置

2月末、全国の小中高校などに臨時休校の要請が出されました。私立の土佐塾中も3月2日から休校になりました。

休校が決まるまでに顔を合わせる機会がなかったため、野球部監督の結城慎二さん(44)は、部員18人に休校中の練習メニューをiPadを使って伝えました。

土佐塾中はICT教育を先進的に取り入れており、生徒全員がiPadを持っています。野球部では以前から打撃成績などのデータの共有をアプリでしていましたが、休校を機に、練習で本格的に使うことにしました。

土佐塾中野球部の結城慎二監督は、パソコンとiPadの2台を駆使して部員の練習を把握している
土佐塾中野球部の結城慎二監督は、パソコンとiPadの2台を駆使して部員の練習を把握している

エクセルで管理、動画を「提出」

休校中、どのように「部活」をしているのでしょうか。

まず、結城さんは部員と共有するエクセルファイルに素振りやストレッチ、狭い場所でもできる7メートルのダッシュなど日ごとに決められた練習メニューを提示しました。

ボールの代わりにゴムチューブを持って腕を振る「キャッチボール」のように、普段やっていない練習は、結城さんがユーチューブにお手本の動画をアップロードします。部員は結城さんの動画を参考に実践します。練習で気付いたことはエクセルファイルに書き込んで部員に共有します。

部員の練習の様子は動画で撮影してもらい、1分程度に編集した上で提出してもらっています。

部員自ら解説を加え、編集した動画の一部
部員自ら解説を加え、編集した動画の一部

自分の動き、客観的に

遊撃手の西内裕貴さん(3年)は自宅の庭のれんがを積み重ね、そこにiPadを立てかけて動画を撮影しました。撮影した動画を見て、ボールを捕球して素早く送球に向けて握り替えられているか確認します。


練習で意識したポイントは、動画内に解説として書き込みます。

スクワットの動きでは「腰を落とすとき、ひざはつま先より前に出さない」などと編集用アプリで加えました。

普段の練習では動画を見ることがなかったという西内さん。「自分が思っていた動きとずれていました」と客観的に自分の動きを分析できたことに手応えを感じています。

一方的に見るだけでなく、動画を編集することで、何度も自分の映像を確認する。そんな効果が表れているようです。

改善前のスイングを撮影した動画の一部
改善前のスイングを撮影した動画の一部
改善したスイングを撮影した動画の一部
改善したスイングを撮影した動画の一部

動画選び、あえて部員任せに

特徴的なのは、ユーチューブにアップロードされている動画を研究する課題です。

打撃フォームや走塁など、部員がそれぞれ強化したい課題の参考になる動画を、自分で探します。野球指導専門のユーチューバーや陸上競技のやり投げなど、部員が勉強する動画は様々です。

指導法を部員に探してもらう、しかも、ネット上から。なかなか、斬新な試みですが、結城さんは、休校中だからこそ自主性を大事にしたいという思いがあると言います。

「監督や部長の指導だけが正解ではありません。休校中は全てが個人に任されるので、自分から必要な課題の克服にチャレンジして欲しいと思っています」

ネット上には間違っているかもしれない情報があるかもしれません。この点については「中学生なので、いろんな技術にチャレンジした方が能力の幅が広がります。もし明らかに悪い動きやけがにつながる動作があれば、送られてくる動画にコメントします。動画依存は悪いと言われることもありますけど、使い方が大事だと思っています」と説明します。

その練習思想は、ユーチューブは教育や部活動の現場にはそぐわないという旧来のイメージから「180度」違う発想の展開です。

マーケティング本で研究

結城さんは、高知商時代に夏の甲子園に出場した「バリバリの元高校球児」ですが、先例にとらわれず常に変化を求めています。

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを再建させたことで知られる森岡毅さんの書籍でマーケティングを勉強し、普段から、現状を分析して戦略を考える姿勢を心がけてきたそうです。

土佐塾中野球部の取り組みは、部活動以外でも活用できると結城さんは言います。

「動画提出などは、子供たちを飽きさせない仕組みづくりなんですね。中学生に全てを預けるのは無責任。全面的に指示するわけではないけど、頑張れる環境作りが大切です。これが『昭和的』じゃなくて『令和的』部活動だと思っています」

県中体連軟式野球専門部長として昨年度、中学球児の「脱丸刈り宣言」を推進し、右肩下がりだった県内の中学野球部員数を11年ぶりに増加させた結城さん。今回の取り組みを始めた理由を「休校とか部活禁止みたいに、ダメと言われたらできる方法を考えたくなるんですよね」と笑います。

「脱丸刈り宣言」で短髪の部員が増えた土佐塾中野球部
「脱丸刈り宣言」で短髪の部員が増えた土佐塾中野球部

今できることで工夫

記者は大学まで、陸上部で短距離選手でした。中高時代は今のように生徒がスマホを持っている時代ではなく、練習で動画を撮影して動きをチェックしたことはありませんでした。

大学時代にようやく、マネジャーに1本1本走る動画を撮影してもらい、スマホで何度も動きを確認するようになりました。結果、大幅に記録が伸びたこともあり、結城さんの話を聞きながら「中高時代にやっていたらな」と何度も後悔したことを思い出しました。

今も社会人チームで競技をしていますが、新型ウイルスの影響で競技場は閉鎖され、ジムにも行けない日が続きます。一方、最近では陸上100メートルの桐生祥秀選手らトップ選手たちが「いまスポーツにできることリレー」と題して自宅でできるトレーニングをSNSで紹介しています。

結城監督がアップロードした練習の見本動画の一部。40メートルの距離をイメージしてキャッチボールをする
結城監督がアップロードした練習の見本動画の一部。40メートルの距離をイメージしてキャッチボールをする

インターネットを使えば、スポーツの勉強がすぐにできる時代。それを監督が推奨し、中学時代からできる土佐塾中野球部員をうらやましく感じました。

「自粛」「禁止」など、コロナ禍ではできないことが増えてネガティブな気持ちになることが日々起きています。3年生で最後の学年になる西内さんも「軟式野球ができる日も残り少ない。四国大会に行く目標をかなえたい」と不安な心境を教えてくれました。

今、与えられた環境でできる工夫をこらす。この期間で得た知識や努力は、グラウンドに戻った時に生かされるはずです。

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます