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「けもフレ」好きすぎてチベットへ「チベスナ」探し命に向き合う男性
不思議なキツネが教えてくれたこと
女の子の姿になった動物のキャラクター「フレンズ」が活躍する、『けものフレンズ』。スマートフォンアプリや、アニメが幅広い人気を集めています。20代の会社員男性は、作品に登場する「チベットスナギツネ」の大ファンです。ほとばしる情熱で関連動画を作り、本物を見るため、生息地である中国に渡ったことも。アニメによって「命の意味」への考えを深めた男性の足取りをたどります。(withnews編集部・神戸郁人)
「チベスナは、自分にとって本当に特別な存在なんです」。チベットスナギツネの略称を、愛情たっぷりに呼ぶのは、ぶちゃおさんです。けもフレがきっかけで、病みつきになったといいます。
チベットスナギツネは、主にチベットの高山地帯に広く分布し、インドやネパールなどにも生息するキツネの仲間です。人間を思わせる独特の顔つきから、SNS上に写真が出回るなどして、話題を集めることも。しかし、その生態には不明な点が少なくありません。
けもフレには、2015年に配信されたスマートフォンアプリに登場します。ぶちゃおさんは17年放映のアニメ第一作を視聴後、ネットで関連情報に触れるうち、その存在を偶然知りました。
「フレンズの情報をまとめたサイトを眺めていたら、一人だけ珍しい外見のキャラクターがいると気付いたんです。興味が湧き、元の動物について調べる中で、チベスナの写真が目に入って。その何とも言えない表情に、秒速でほれてしまいましたね」
切れ長な目元が涼しいようでいて、どこか気だるげ。凛(りん)とした立ち姿なのに、なぜか愛嬌(あいきょう)がある――。ツイッターでイラストを検索すると、描き手それぞれの印象に基づく、様々な風貌(ふうぼう)の作品に行き当たりました。
「可愛いとか格好いいとか、単純な言葉では評価できない姿」「こんなに多様な捉え方ができる生き物がいるなんて」
すっかり夢中になった、ぶちゃおさん。自身も「ファンイラスト」を手掛け、それを元に関連動画を制作しました。動画投稿サイトで公開すると、150万PV(今年3月時点)を記録する人気作に。自らと同じ思いを共有する人々の多さに、驚いたといいます。
「とてもショックでしたが、大好きなチベスナの話とあって、目が離せませんでした。事実と向き合う中で、『死は全ての生き物に訪れる運命』という思いを強めていきました」
動物への関心を起点に、「輪廻(りんね)転生」を重視する、チベット仏教文化への理解を深めたことも、後押しになったといいます。
日常生活から隠されがちな、生と死の関係性。ぶちゃおさんは、チベットスナギツネが身を置く環境に思いをはせることで、厳しい現実を受け入れたのでした。
チベットスナギツネを通して、生き物への考えを深めたぶちゃおさん。昨年夏には、中国で開かれた、生息地域の一つ「三江源(さんこうげん)」での視察ボランティアに同行しました。
山水自然保護センターが企画し、旅程は1週間。同NGOが生物多様性維持のため呼びかけた、クラウドファンディングの出資者が招待されました。参加したのは、1万元(約16万円)を寄付したぶちゃおさんのみ。「日本から個人が来るとは」と関係者も驚いたそうです。
NGOの事務所がある北京大などを経て、チベット自治州・玉樹(ぎょくじゅ)市へ。一緒だった研究者に、種の生態について尋ねたり、主なえさであるナキウサギを観察したり。大平原の真ん中で感じた生き物の気配は、ぶちゃおさんの気分を高揚させました。
そして玉樹県での滞在最終日に、待ちわびた瞬間が訪れます。移動中の車から、一匹のチベットスナギツネの姿を確認したのです。互いの距離は、およそ2キロ。豆粒ほどの大きさで、草むらにたたずんでいました。
必死にビデオカメラを回したものの、離れていたせいか、映っていたのはぼんやりとした輪郭だけ。「それでも、わざわざ目の前に出てきてくれた。これ以上ない喜びです」。興奮冷めやらない様子で、そう振り返ります。
最近、人気俳優の仏頂面が「チベスナ顔」と表現され、話題を呼びました。チベットスナギツネの人気は、国内でも高まりつつあるようです。その理由とは、一体何なのでしょうか?
「やはり憎めない姿だと思います。過酷な環境下で生きているのに、なぜか見る人の緊張をほぐしてしまう。野生生物への取っつきづらさを、和らげてくれる存在でもある、と言えそうです」
ぶちゃおさんは、チベットスナギツネがモチーフのグッズを集めてきました。Tシャツやシール、フィギュアなど、その数は100種類超に上ります。いつか、オリジナルデザインの関連商品を販売するのが、夢なのだそうです。
こうした行動は、動物への尊敬の念にこそ裏打ちされている――。ぶちゃおさんは強調します。
「チベスナは、人生の困難を乗り越えるための意欲を与えてくれました。だから僕も、動物と人間の橋渡しになるようなコンテンツを作り出していきたい。今は、そう考えています」
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