連載
#109 夜廻り猫
「ただ、一つだけ残念なのは…」90歳の女性が願ったこと 夜廻り猫

夫を見送り、90歳まで長生きできたと振り返る女性。でも、「一つだけ残念なこと」があるとしたら――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られる漫画家の深谷かほるさんが、SNSで発表してきた「夜廻り猫」。今回は、ある夢を見る女性のエピソードです。
夜の街を回っていた猫の遠藤平蔵。涙の匂いに気づき、「心で泣いておられるな?」と女性に声をかけました。
90歳の女性は「泣くようなことはないよ 長生きできて、わがままな夫を見送って今は気楽」といいます。
それでも、「一つだけ残念なのが 恋をしたことがない」ということ。
「一度でいいから恋してみたい メガネをかけた横浜流星と」とほほを赤らめます。
「寿命があと1日なら一緒にお祭りにいきたい 1週間なら海外旅行」と夢を膨らませます。
女性が「あと1年なら――」と考えたところで、遠藤が「メガネをかけた横浜流星と結婚!?」とかぶせると、女性からは「そうじゃないよ、分かってないねぇ」と言われてしまうのでした。
作者の深谷かほるさんは、今回のマンガを描きながら、自分の経験を思い返していたそうです。
「20歳のころ、たまたま年齢を聞かれて『はたちです』と答えたら、年上の方達がそろって笑って『今が一番良い時ね』『一番幸せだね』と言ったことがあったんです」
けれど40年後のいま、「私自身は『20歳の頃が一番いい』ということもないです。60過ぎても楽しいです」と笑います。
ただ、上の世代の人たちにとっては、「大人は大人らしく」「何歳ならこのくらい成熟しているべき」「結婚しておくべき」といった世の中の圧力が強かったのでは――とも感じるそうです。
「あの時の昭和の大人たちに、『これからは何が大変ですか?』『大人は楽しくないですか?』と聞いておいたら、いろいろ勉強になったんじゃないかな……と、たまに思い出します」
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