10代の悩みについて電話やチャットで相談に応じている「チャイルドライン」には、休校期間中の子どもたちからの悩みが相次いでいます。実は、東日本大震災の時にはほとんどなかったという相談も増えているそうです。「大人への不信感を植えつけてしまったのかもしれない」。相談の現場では何が起きているのでしょうか?
チャイルドラインは10代の悩みを聞く窓口として、電話やチャットでの相談に応じています。2018年度には延べ19万人の相談を受けました。今回の休校は、子どもたちの気持ちにどのような変化をもたらしているのでしょうか。専務理事の高橋弘恵さんに話を聞きました。
――休校期間に入ってから、子どもたちからの相談に変化はありましたか。
普段から、3、4月は進級や進学などで不安が多く、相談件数も増える時期です。
休校期間に入り、「急に休みになっちゃった」「卒業式がなくなっちゃった」などの話をする子どもたちが多くいます。中には「担任の先生にしかこれまで相談できなかったのに、急に休みになって会えなくなってしまった」というものもありました。
自宅での生活に関する悩みもあります。「家にいることが怖い」とか、「だらだら過ごしていると親に怒られる」とか、虐待とは言い切れませんが「お腹が空いた」などのものもあります。
――一見ささいなことのように見えるかもしれませんが、子どもたちにとってはとても重要な悩みですですね。件数は増えましたか?
まだ全体のとりまとめ前ですが、全国に68団体あるうちの8団体から休校関連の相談は40件程度。これが全国になると、かなりの数になると思います。
ですが、東日本大震災のときは、こんなに電話がかかってこなかったんです。
――それはどういうことでしょうか。
震災のときは、日本が大変な状況になっていることがいやがおうにも理解できたからこそ、子どもたちも社会の一員として一緒に復興に取り組んでいたんだと思います。
でも、今回の一斉休校に関しては、その理由が子どもたちに伝わりきっていないんじゃないでしょうか。近くで新型コロナウイルスの感染者が出ていない地域の子どもも一律に休校になり、意見も聞かれず突然休みに入ったことで、納得感がありません。大人への不信感を植え付けてしまったかもしれません。
――自分たちが社会の一員だと感じられるかどうかが重要ということでしょうか。
そうですね。納得できる説明を受けていればまた違ったかも知れません。
政府も身近な大人も、子どもに向けて説明を十分にした上で『協力してくれてありがとう』と伝えることができればいいと思います。
――いま危惧していることはなんでしょうか。
これまでこのような事態を経験したことがなく、今回の休校がどのように子どもに影響するか予想がつかないことです。
一部の子どもたちにとっては、卒業式や終業式などの区切りがつかないまま新学期になります。さらに、進学進級を前にしたこの時期、自分の所属がはっきりしない中での生活になっています。それが長期化することによって感じる不安もあると思います。
新学期がいつも通りのスケジュールでスタートするのかどうかわからないことも不安材料になっていると思います。
――相談員さんたちはどうでしょうか。
子どもたちからの相談は、ひとつの部屋の中にボランティアが複数人いる中で受けます。保育士や看護師など、医療福祉の現場にいるボランティア相談員の方の中には、「リスクを避けたい」と、チャイルドラインでの活動を自粛する方もいます。
――チャイルドラインでは3月になってから、「いま皆さんはいろんな気持きもちを抱かかえていると思います」「そんな皆さんの大切たいせつな気持ちをぜひ、チャイルドラインに聴きかせてくださいね」などとする、子どもたちへのメッセージをホームページで発信しました。
休校期間に入ってから、子どもたちからの相談が増えたこともあり、団体内で話し合った結果です。「我慢しないで、気持ちを言っていいんだよ」と、悩みを話してもいいんだと子どもたちが思えるようなメッセージを出しています。
子どもたちからの相談に対しては、普段通りの対応をしています。子どもの言葉を肯定しながら聞いたり、「しょうがないよ」などと、諦めさせるような声掛けをしたりはしません。
高橋さんによると、相談の電話をかけてくる子の中には、初めてチャイルドラインに連絡をするケースも少なくないそうです。
普段話を聞いてもらっていた友達や先生と会えなくなった子どもたちにとって、チャイルドラインのような存在は、貴重な受け皿になっています。同時に、突然の休校という変化が子どもに与える影響の大きさも痛感しました。
大人から見たときに、子どもたちの悩みは小さなものに見えるかもしれませんが、子どもたちとっては「それが全て」です。
高橋さんは「身近な大人たちは、子どもたちに『協力してくれてありがとう』の声かけをしてほしい」と訴えます。
自分で対処できる選択肢が少ない子どもへのケアをちゃんと考えなければならないと、あらためて感じました。