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クイーンファンに「にわか」なんてない 新旧の「Q友」が出会った日
「クイーン+アダム・ランバート」の来日コンサートの前半2公演が25日と26日、さいたまスーパーアリーナで開かれ、のべ6万人を集めました。映画『ボヘミアン・ラプソディ』の成功とファン拡大によるブームの中で開かれたコンサート。アリーナ周辺では、映画がきっかけではまったファンを古くからのファンが温かく迎えるクイーンらしい盛り上がりが見られました。「Q友」と言われるファンたちの言葉から、クイーンの魅力について考えます。
オリジナルメンバーとは「別物」として楽しんだのが、「Q友」の一人、盛岡市の会社員、佐藤陽子さん(49)です。
「フレディの代わりでもないし、代わりになるつもりもないアダムをそのまま受け入れたクイーンのライブは、映画に描かれていたり、ネットのライブ動画にあったりするオリジナルメンバーのクイーンとは別物。ブライアン・メイもロジャー・テイラーも進化しているんじゃないかと感じました」
1970年代や80年代からクイーンを追い続けるような熱狂的なファンではなかったという佐藤さん。ドラマの主題歌やCMで曲は知っていた程度でした。クイーンにはまったきっかけは映画でした。
「歩んできた道のりや曲の背景、そして何よりもバラエティーに富んだ曲をもっと知りたいと考えるようになりました」
映画は半年間で約50回、仕事帰りや週末に映画館に通って見たそうです。さいたまスーパーアリーナの2公演のほか、大阪、名古屋にも行く予定です。
「4公演すべてに行こうとこだわったのは、ステージを見ていると自分の中にフレディがよみがえってくるのではないかと思ったからです」
コンサートでも演奏された『Keep Yourself Alive』(炎のロックンロール)の“自分らしく生き続けろ”というメッセージを重ね合わせ、「(クイーンが)長く続けてくれたことに感謝」という言葉を連発していました。
1975年初来日の武道館コンサートから欠かさず来日コンサートに行っている人もいます。
東京都内に住む編集者の白木ようこさんは、「映画も100回までは数えていました」というほどのファンです。「Q友」がSNSでつながれる時代になり、各地で行われた応援上映といったイベントへ一緒に参加するようになって回数が増えたそうです。
「1975年のコンサートでは、私の目の前で過呼吸などで倒れ込んでいく女性ファンが多くいました。子どものころ父親に連れられていった記憶は鮮明に残っています」
1975年のコンサートは、ファンが前に詰めかけ、音楽雑誌『MUSIC LIFE』(休刊中)のカメラマンが押しつぶされそうになる状況に。それに気付いたフレディが一時ライブを中断したことは、ファンの間で語りぐさになっています。
今回のコンサートでは、ステージ上のブライアンやロジャーの細かい動きが目視できる位置の席になった白木さん。
「ブライアン、歳を取ったな。子どものころ見たコンサートは、ブライアンが両足を開いて踏ん張りながら胸を張ってギターをガーンと弾く姿が、まさに星の王子様でした。今回は腰が前のめりっぽくて、ステージ上をあまり動き回りませんでした。ロジャーもスティック落としていたし……」
白木さんは、2005年にフレディの代わりにポール・ロジャースを迎えて行われた「クイーン+ポール・ロジャース」のコンサートも見ています。今回のアダムとのコンサートの違いは、こう見えたそうです。
「ポールとのコンサートは、『ポール・ロジャース with クイーン』という感じでした。つまりポールがクイーンの歌を歌っている感じです。しかし、アダムは違います。ブライアンやロジャーと尊敬し合っていますし、何より歌がうまい。3人が譲り合っているような感じで、ハーモニーもきれいです。アダムの腰つきはフレディが乗り移っているようでした」
だからこそ「アダムを応援したい」という「Q友」の声があちこちで聞かれました。
フレディやジョン・ディーコンがいた当時のクイーンの来日コンサートのほか、ブライアンやロジャーの単独公演まで含めると、これまでに18回も足を運んだというのが、東京都の公務員、吉田仁志さん(57)です。ロジャーファンで、ドラムを始めたほどです。今回も、3公演を見に行くそうです。
「アダムとのコンサートも、回数を重ねるごとに完成度が上がってきました」
吉田さんら古くからのファンは、コンサートで演奏される全曲を英語で一緒に歌えるほどクイーン愛に満ちています。コンサートで、「『Teo Torriatte』(手をとりあって)のときにブライアンが日本語の歌詞で歌おうと呼びかけたときぐらいは一緒に歌おうよ」という思いもあるそうです。誰でも知っている『RADIO GA GA』も同じです。
そんな古参のファンだからこそ、ライト層のファンを温かく出迎えます。
「新しいファンとクイーンとアダムの絆は、今日から始まったと思いました。今回のツアーが新たなクイーンの出発なんです。だからこそ、いろんな見方を受け入れてやろうよ、と呼びかけたいです」
初来日から半世紀近く経った今回のコンサート。ファンが総立ちで歌ったり、足踏みしたり、手拍子をしたりしながら楽しむ姿は変わらないものの、少し落ち着いた雰囲気がありました。
でも、一人一人の胸の中の熱量は変わらないのかもしれません。映画をきっかけに拡大したライト層といわれる若いファンについて、古くからのファンも、壁を作るのではなく歓迎する態度で接しているところも、クイーンらしい現象です。
1975年の初来日公演にも行っている白木さんは「『にわか』なんていないんだと思います」と語ります。
「話をしていると、本当にフレディが好きで好きでたまらなくて、どんよくだもの。涙を流す子もいるほどです」
公演前、12時から行われる野外でのグッズ販売にも長蛇の列ができました。SNSを通じてつながる「Q友」の集まりもあちこちに生まれていました。「クイーン」というジャンルで結びついた年齢を超えたコミュニティーです。
古参のファンである吉田さんは、新しいファンが生まれているのには曲の魅力があると見ています。
「1970年代後半、クイーンがどんどん大きくなっていった時、『産業ロック』と批判されました。でも、実際は売れる曲を出したから売れたまで。彼らは万人に売れるための曲を作ったのではなく、自分たちがやりたいことをしただけだった。マーケティングから曲を作るようなことはしなかったからこそ、今でも色あせないのだと思います」
後半の公演は28日に大阪、30日に名古屋で開かれます。今回の来日コンサートの一番高いチケットはゴールド席やオペラ席で5万円、一番安いA席やサイド席でも1万2千円ですが、来場したファン一人一人には充実感が満ちていました。
フレディはかつてこう語っていました。
「僕らの曲に隠れたメッセージなんてない――いくつかのブライアンの曲を除けばね」(『フレディ・マーキュリー 自らが語るその人生』から引用)
一方、ブライアンは今回の来日後のインタビューで「平和」への思いを強調しました。
「平和はとても大切なことで、音楽は子どもたちをつなぐすばらしいツールになるということ」
クイーンは見る角度によって違います。それは「正解はない」ということ。今回のさいたまスーパーアリーナでの2公演を見て、多様性や認め合う姿を、クイーンからも「Q友」からもあらためて感じることができました。
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