連載
#7 ○○の世論
昭和の新成人のヒーローは……具志堅さん! 40年前の世論調査
1月13日は令和初の成人の日。「今どきの若者は……」と語りがちな今の50、60代もかつては若者でした。今から40年前の世論調査では、若者に「あなたにとってのヒーロー」や、「マンガは好き?」「ヒトラーは好き?」といった質問を投げかけています。昭和の若者はどんなことを考えていたのでしょうか。40年前に実施された世論踏査から振り返ります。(朝日新聞記者・植木映子)
この世論調査は、昭和30年代生まれ(当時15~24歳、以下「昭和の若者」)の1500人を対象に実施。1980年(昭和55年)元日の朝日新聞に掲載されました。有効回答率84%。調査対象となった若者は、今や50代後半から60代前半の「ベテラン世代」になっています。
「ヒーローといえるような人がありますか」。この質問には、「ない」75%、「ある」24%の回答でした。「ある」と答えた人に、自由回答で名前を挙げてもらうと、次のような結果になりました。
当時の空気感が伝わってくるような顔ぶれです。プロ野球の王貞治さんは1977年、通算本塁打で世界記録を達成。同じ年、矢沢永吉さんは、日本のロック・ソロアーティストとしては初の日本武道館での単独公演を行っています。
今はバラエティー番組での陽気なキャラで人気の具志堅用高さんは、プロボクシングの世界王者。1979年には、世界王座6連続KO防衛を成し遂げ、若者が憧れるヒーローだったのです。
2018年に63歳の若さで亡くなった歌手の西城秀樹さんは、1979年に代表曲の一つ「YOUNG MAN (Y.M.C.A.)」をリリースしています。
当時の若者意識を探ろうと、「○○は好きですか、きらいですか」という質問もしています。
この頃は冷戦でドイツが西ドイツと東ドイツにわかれていた時代。当時は戦後30年以上たっていたものの、ヒトラーはなお存在感があったようです。当時の新聞などを調べてみると、70年代の西ドイツでは、ヒトラーを題材とした本や映画が続々と発売され、若者たちの間で「ヒトラー・ブーム」が起こっていました。それなら日本の若者はヒトラーのことを、どう思っているの? 質問を作った人たちは、そんなことを考えていたのでしょうか。結果は「好き」10%。驚きの数字だったのか、想定内だったのか。
同じく好感度が低いのは暴走族です。バイクの普及とともに暴走族の名称も一般化し、警察庁は1975年から暴走族の人数の統計を取り始めました。
自民党も、この項目の中では3番目に人気がありません。70年代の主な首相は田中角栄、三木武夫、福田赳夫、大平正芳。この4氏は82年に首相に就く中曽根康弘氏とともに「三角大福中」と呼ばれ、首相が頻繁に交代し、自民党内の派閥抗争が活発だった時代でもあります。
昭和の若者の、時間の使い方についても調べました。平均データは以下の通りです。
最近の若者についても、メディアに接する時間を調べたデータがあります(「メディア定点調査2019」博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所)。朝日新聞社の当時の世論調査とは調査手法が違うため比較はできませんが、20代は男女ともに新聞は10分以下。携帯電話・スマートフォンの時間は年々増加しており、20代男女ともに3時間前後となっています。
今の若者は「スマホばかり見て」と非難されがちですが、1980年の元旦紙面では、世論調査結果を踏まえて、「テレビっ子」「活字を敬遠する傾向が強い」と、「昭和の若者」を評しています。また、当時の若者は「マンガが好き」82%で、すでにマンガ文化が浸透していることもうかがわせます。
年長者が「○○ばかり見て…」と若者を評するのは、昭和でも令和でもあまり変わらない風潮なのかもしれません。
〈調査方法〉(1980年1月1日の朝日新聞より)全国172の調査地点の住民基本台帳から、昭和30年代に生まれた人(15~24歳=注:当時)を無作為に1500人抽出。1979年12月1、2の両日、学生調査員が直接面接して回答を聞いた。有効回答率は84%。回答者の内訳は、男性49%、女性51%。年齢別では15~19歳54%、20~24歳46%。また、中・高校生42%、大学生・その他学生15%、社会人43%。
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