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連載

#185 #withyou ~きみとともに~

「出さなくてもいい手紙」書いてみたら、「相手」忘れて夢中の30分

八巻さんの著書「気もちのリテラシー」に付属する「感情タロット」
八巻さんの著書「気もちのリテラシー」に付属する「感情タロット」

目次

年末年始、見るテレビ番組もなくて、わりと時間があまってしまいがちです。町田市にある「ティーンズポスト」の八巻香織さんは、そんなお正月に「出さない手紙を書いてみませんか」と提案します。誰かに相談するのとはちょっと違う。自分自身と向き合える時間が作れるそうです。書いても出さなくていいという「手紙で書き初め」。実際、どんなものなのか。八巻さんの話を聞きながら私も書いてみることにしました。

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1週間かけて返信の理由

ティーンズポストでは1994年から10代の子どもたちの悩みに向き合ってきました。

相談はメールでも手紙でも受け付けますが、メインは「書く」ことです。

最近では、友人関係に関する悩みや、家族の暴力や虐待が絡む相談も寄せられるといいます。

相談が届くと、八巻さんや、看護師、養護教諭、精神保健福祉士らがレターカウンセラーとして、1週間ほどをかけてその相談文と向き合います。
1週間もかけるのは「感情を整理するのは書き手だけではなく、受け手にこそ必要」だからです。

「相談文を読んだとき、私たちにも色んな感情がわき起こります」。それをそのまま書き出すことで、レターカウンセラー自身も自分の体験を振り返ったり、思い込みに気づいたりできるのだそうです。

「そうしないと良かれと思いつつ、助言したり教え諭したり、相談者の代わりに解決したくなったりしてしまうのです」

悩みを抱える人たちが集える場所として「スタジオ悠」も併設している
悩みを抱える人たちが集える場所として「スタジオ悠」も併設している

ミュージシャンやキャラに宛ててみては?

ティーンズポストから返す手紙では、相談者の気持ちの整理を手伝うような返信を出します。

相談者の思いをまとめ、さらに「そう思ったのは、いつからでしたか。何かきっかけがありましたか」とか、「その時、言葉に出せなかった思いがありましたか」とか内面に問いかけるため、何往復かのやりとりとなることもあるそうです。

とはいえ、手紙を書くのはあまり慣れていないという人も多いかもしれません。そんな人には「自分の好きなミュージシャンやアニメのキャラクターにあてて自分の近況を書いたらどうかな。便箋でなくても、ノートの切れ端でもいい」と提案します。

手紙を書くうちに、普段見ていない自分の気持ちが自然に出てくることもあります。

「悲しさ、不安、緊張……どんな感情もOKです。間違いはありません」と八巻さん。「普段は表せないそのままの気持ちを文字にしてそっと眺めてみてほしい」と言います。

八巻香織さん
八巻香織さん

「書いて楽になった」なら郵送しなくてもいい

スマホの普及で、10代の悩み相談のツールはLINEなどのオンラインのものが多く、手紙での相談はあまり聞くことはありません。

八巻さんは「手紙は、自分のことを文字で綴ることによって自分を理解する安全な心の手あてです」と話します。

手紙での相談は「自立的問題解決の『サポート』」の要素が強いといいます。
「トークカウンセリングの場合は、相手の反応を見て言うことを変えてしまうということがありますが、レターカウンセリングはまずは自分で書いて自分で読む、自分自身との対話です」

だから、もしも「手紙を書いてみて落ち着いた、ラクになった」ということであれば、必ずしもティーンズポストに郵送する必要はありません。ただ、郵送すれば、「必ず返事を届けます」。

「自分の味方、自分の中に」

「気持ちと仲良くなる心の旅を手伝いたい」という八巻さん。ティーンズポストに出そうと書いた手紙を出さずに持ったままだったという人に出会ったことがあるそうです。「それでも全然いいんです」と話します。

「自分の味方が、自分の中にいると気づいてくれたらそれでいい」

「気もち」をテーマに、子どもたちを対象とした出張授業をすることも多い八巻さん。気もちについて語る仕掛けがあるゲームをたくさん準備している
「気もち」をテーマに、子どもたちを対象とした出張授業をすることも多い八巻さん。気もちについて語る仕掛けがあるゲームをたくさん準備している

私も書いてみた

小学生の頃は文通をすることが趣味だった私ですが、大人になり、めっきり筆無精に。まず最初に考えたのは、「出さない手紙を誰に書くか」でした。

これが結構難題でした。八巻さんは「ミュージシャンやキャラクター」を提案してくれましたが、好きなミュージシャンに宛てるのは恥ずかしいし、好きなキャラクターもいないなあ……。

しばらく考えて浮かんだのは、幼い頃に一度見かけただけの、面識のないおじいさんでした。

祖母と買い物に行った帰り、上り坂の途中で腰を休めていたおじいさんのことを、なぜかたまに思い出すのですが、その男性に向けて書いてみることにしました。

使ったのはgoogleドキュメントです。文字を書くことが得意ではないため、タイピングの手段をとりました。

最初は「何を書こうかな」と思いながら、ゆっくりと言葉を綴っていたのですが、書き進めるうちに自分の事を書くのに一生懸命になってしまい、途中でおじいさんの存在は忘れていました。

手紙に書いた悩みは、とある人との関係性についてです。

トラブルの経緯を順を追って書くと、いままで意識したことのなかった感情や言葉が出てき始めました。

悲しかったんだと思います。戸惑っています。怒りという言葉ではくくれない、複雑な感情のような気がします。

わかってほしいけど、わかってもらえないから、話したくない。
だからこのままでいるしかないのかなと思います。
書き始めは筆が進みませんでしたが…(写真はイメージです)
書き始めは筆が進みませんでしたが…(写真はイメージです) 出典:pixta

30分ほどかけて思いの丈を書くと、スッキリしたようなしないような…。誰かにアドバイスしてほしくなりました。

八巻さんの言う「自分の味方が、自分の中にいると気づいてくれたらそれでいい」という心境になるには、私はもう少し人の手を借りる必要があるように感じました。

私が10代だったら、あの手紙、ティーンズポストに送ったんだけどな。

      ◇

ティーンズポスト(こちら)では10代からの手紙・メール相談を無料で受け付けています。

また、八巻さんは6月に著書『気もちのリテラシー 「わたし」と世界をつなぐ12の感情』 (太郎次郎社エディタス)を出版しています。

「さびしい」「緊張」「好き」など12の感情をそれぞれのキャラクターが読み解いてくれます。八巻さんは「自分の気持ちを理解し、自分と仲良くなって、新しい世界を求める時に読んでみてほしい」と話します。

 

『気もちのリテラシー 「わたし」と世界をつなぐ12の感情』 (太郎次郎社エディタス)
『気もちのリテラシー 「わたし」と世界をつなぐ12の感情』 (太郎次郎社エディタス)
 

withnewsでは、生きづらさを抱える10代への企画「#withyou ~きみとともに~」を続けています。
 


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