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#3 注目!TikTok
中国の異次元インフルエンサー、アリババ会長よりも強い「販売力」
最近、中国版ツイッターの微博で、警察がインフルエンサーのパロディー動画で交通安全の宣伝をして、話題になりました。動画では中国の多くのインフルエンサーが力を入れる「買い物要素」が強調されました。アリババ会長のジャック・マーも完敗というその販売力。「ネタ要素」の強い日本のユーチューバーとの違いから、中国のインフルエンサーの強さについて考えます。
11月22日に中国版ツイッターの微博では、「#交警「李佳琦」式宣伝交通安全」(#交通警察が「李佳琦」スタイルで交通安全を説明しています)がトレンド入りしました。ビュー数は2.8億に達し、コメントの投稿数は3.3万を超えています。
政府の交通警察のオフィシャルな広報動画ですが、動画説明は一風変わっています。
「彼が物を売っていると思う? NoNoNo、これは交通安全を伝えるものです!安全には価格がない!」
警察用の赤いバトン、飲酒運転アルコール検知器、ヘルメット、手錠などの道具がテーブルに置かれている状態で、動画が始まります。
警察が赤いバトンを取り上げると、「皮膚は油っぽい肌、乾燥肌、ミックス肌にかかわらず、誰もその誘導が欠かせない」、と化粧品の紹介のようなセリフ。
アルコール検知器の場合、「四角い形、スクラブの質感、及び光沢のある黒…」、こちらも高級化粧品の箱を紹介する口調でした。
元ネタは、中国のインフルエンサーの一人である「李佳琦」(リー・ジアチー)です。
動画では「李佳琦」がよく使う「OMG」(OhMyGod)のフレーズや「買って、買って、買って」の口癖をまねし、警官がヘルメットを「かぶって、かぶって、かぶって」とアピールしました。
普段堅そうな警察が、インフルエンサーになりきった動画は、大きな反響を呼びました。
1.2万以上のシェア、7000以上のコメント投稿、23万以上の「いいね」が集まりました。
「何回も見ました。面白かった。最近警察のPR動画も見やすくていいですね。」
「李佳琦:私は知的財産権を申請しないと」
「ハハハハハハハハハハハハ、洗脳されてしまいそう」
「OMG。彼を見て、見て、見て!法律を守って運転してね」
「交通警察:買って買って買って買って買って買って買って買って」
「ただの交通安全の説明なら、おそらく見なかったが、新しい方法を使うと、みんな最後まで見ちゃうね」
「李佳琦(Austin)」は微博でフォロワー数850万人を超える人気インフルエンサーです。
Tiktokでのフォロワー数は3400万人を超えています。
もともと化粧品ブランドの美容部員で、アリババグループが運営しているネット通販のプラットフォームのタオバオの「ライブ」販売で大人気になり、KOLの地位を築きました。とくに口紅の販促が得意。口癖は、「OMG、amazing、女の子たち!、約束して、買って」です。
2018年の独身の日に、化粧品売りでアリババの会長ジャック・マーと直接対決すると、李が5分で15000本の口紅を売って、ジャック・マーが完敗しました。2019年3月8日の女性の日に、口紅は23000本を売った記録もあります。現在は口紅のほか、化粧品やほかの商品を多く取り扱っています。
今回は警察にも真似されたことで、「李佳琦」の人気ぶりが証明されました。
中国では、インターネットを通して高い人気を得た人のことをKOLや「網紅」(ワンホン)と呼びます。2016年に起きた動画サイトの爆発的な発展により、多くの一般人が「網紅」になり、その年は中国の「網紅元年」とされています。フォロワー数10万人を超える網紅は100万人以上と言われています。
動画以前にもKOLが存在しました。彼らは文章を書いたり、意見をシェアすることにより、オピニオン・リーダーとして活動しました。
近年、目立っているのは企業とのコラボです。グルメ、コスメ、スタイリング、旅行…ジャンルも多種多様です。「KOL」人気と、広告に起用したい企業側のニーズがマッチし、「KOL」マーケティング産業が育て上がりました。今では、日本企業が中国の市場に進出する際にも、KOLが起用されます。
「李佳琦(Austin)」以外にも、中国で最もフォロワー数が多いKOL「papi醬」がいます。「papi醬」は女性で、微博でのフォロワー数3000万人以上、TikTokやBilibiliなどのSNSサイトでも数千万人のフォロワーを持っています。彼女の広告価値は数億円に上ると言われています。
中国語の「網紅」(KOL)にあたるのが、日本の「ユーチューバー」や「インスタグラマー」と言ったインフルエンサーです。動画という共通項があるため、「網紅」と「ユーチューバー」と一緒に比較することが多いです。
ユーチューバーの収入は「アドセンス広告」方式で、つまり「1再生○○円」で、ユーザーの動画再生回数により収入が決まります。
多くの再生回数を叩き出すため、日本の「ユーチューバー」の場合、「ネタ動画」がメインで、娯楽性が強いという特徴があります。
一方、中国の動画「網紅」の場合、まずコンテンツをコツコツ作り、人気が出たら、企業広告のオファーを受けます。その際に、動画内で商品を紹介したりして、スポンサーの広告収入を得ます。また、ライブ配信で商品を売り、売り上げが収入と直接リンクするケースもあります。
中国ではKOLの商品紹介が増えているのに対し、日本では、「ステマ」への抵抗が強く、「ステマ」だと知られると再生回数は伸び悩みます。
中国の人々も、「商品紹介」が好きではありません。またプラットフォームも「ステマ」への取締りを強化しています。例えばTiktokはAIを駆使し、ステマ摘発に努力しているそうです。
しかし、それでもなぜ中国は「商品紹介」が主流になっているでしょうか。
KOLのことが詳しい中国市場戦略研究所(CM-RC)のmimosaさん(31)によると、中国では消費の習慣と形式がすでに変わりました。「網購」(ネットショッピング)が消費の主流になり、伝統のメディアの媒介力が弱くなり、ブランドや商品がKOLを経由しないと消費者に届きにくくなりました。中国マーケットの現状は、KOLによる商品紹介はすでに「必須」になっていると言います。
もちろん中国のKOLが、嫌われない工夫もよくしています。フォロワー離れが起きないように、商品をフォロワーにプレゼントしたり、「お年玉」(紅包)を抽選で配ったりしています。
「上に政策あり、下に対策あり」ということわざのように、KOLの商品紹介は今後も続くと考えられ、KOLマーケティング産業の進化からは目が離れません。
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