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連載

#179 #withyou ~きみとともに~

「本当に学校は必要ないの?」不登校経験者に向き合う校長の問い

西成高校の山田勝治校長
西成高校の山田勝治校長

目次

 「学校へ行くのがしんどかったら、無理して行かなくていいよ」。長い夏休みが明ける頃、メディアではそんなメッセージが多く発信されました。その言葉は、学校現場ではどのように受け止められたのでしょう。もうすぐ冬休み。多くの生徒が小中学校で不登校を経験しているという大阪府立西成高校の山田勝治校長(62)は、「社会のシステムを大人が変えなくちゃいけない」と語ります。

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障害のある子も、外国ルーツの子も

--西成高校ではどのような子どもたちが学んでいるのでしょう。

 これまでの学校の授業になじめなかった子、小中学校で学習から遠ざかっていた子、障害のある子や外国にルーツのある子など、様々な立場の生徒たちがいます。みんなこの学校を選んで来てくれて、励まし合って学んでいます。

 西成高校は大阪府内に8校ある「エンパワメントスクール」のうちの1校に指定されています。ここでは小学校の授業から学び直すのが特徴。勉強がわからなくて学校から足が遠のいていた子も、わかるから楽しくなる。多くの子がここに来るまでに不登校を経験していますが、遅刻も激減し、学校に来てくれるようになった子もいます。

 もちろん、不登校の生徒もいます。学校にも家にもいづらいという子たちの居場所になればと思い、12年から学校内でカフェを始めました。「となりカフェ」といって校舎の2階にあります。ここは基本的に教師は立ち入り禁止。学校外の組織が運営しているので、生徒たちは先生に言えないことや家庭で悩んでいることなどを、比較的年齢の近いスタッフに話せているようです。カフェでご飯を炊く日もあって、「おにぎりカフェ」として自分たちでおにぎりを握ってもらう日もあります。
「となりカフェ」。生徒はここで飲み物をリクエストしたりお菓子を手にとり、部屋の中で思い思いの時間を過ごす
「となりカフェ」。生徒はここで飲み物をリクエストしたりお菓子を手にとり、部屋の中で思い思いの時間を過ごす

社会の二面性に敏感な子どもたち

--ここ数年、特に夏休みなど長い休みが明ける頃に「学校に行くのがしんどいなら無理に行かなくて良い」というメッセージが、メディアなどで発信されるようになりました。

 学校に行かなくて良い。そのメッセージは、命を守るためには大事だと僕も思います。学校は命をかけてまで行く場所ではない。同調圧力の中で学校に行かなければならないというプレッシャーにつぶされてしまう必要は全くありません。学校に行くのがつらくて自分を傷つけたり、生きることに幕を引こうとしたりする子には、そうまでして学校に行かなくていいよ、って僕も言いたい。

 でも学校で子どもと向き合ってきた僕としては、「本当に学校は必要ないの?」という思いもあります。いじめにあっている。授業がわからない。学校の人間関係が苦しい。だから学校に行きたくない。そんな学校が原因のしんどさは、僕ら教師が学校を変えて救わなくちゃいけない。でもそうじゃないけど、なんだかわからないけど学校がしんどいって言う子のしんどい理由は、学校なのかな。そんな子たちが「学校に行かなくていいよ」と言われると混乱するんじゃないかな。
 
しんどい理由は学校?=写真はイメージです
しんどい理由は学校?=写真はイメージです 出典:pixta
 高度経済成長期は、学校で勉強して良い成績を収めることで階層間の移動を可能にしてきました。学校で勉強して良い大学に入って、良い所に就職する。それが成長モデルとして確立されて、今の社会を作ってきました。そして今も、なんだかんだエリートたちが社会を動かしている。

 子どもは社会の二面性に敏感です。そんな今の社会の価値観を大人が変えようとしないまま、「学校に行かなくていいよ」と言われたら、子どもたちはどちらが本当なんだろうって戸惑わないだろうか。だって今の社会は「学校に行かなくて良いよ」って言う大人が作った社会じゃないんだから。

社会の人生設計がしんどいんじゃないだろうか

--今の社会を生きる子どもの生きづらさに、大人はどう向き合ったら良いのでしょう。
 
 僕もまだ答えを探しているところです。でも一つ思うのは、なんだかわからないけど学校がしんどいという子は、「学校」がしんどいというよりも、成長モデルに圧迫され、社会のゆがみの中で上手にできないことがしんどいんじゃないかな。学校ではなく、今の社会での人生設計がしんどいんじゃないだろうか。

 だったら、変わるべきは社会ですよね。「学校に行かなくて良い」と言うなら、行かなくても子どもが人生の展望を描ける社会を作らなくてはいけない。社会のシステムが変わるように、僕ら大人がそれぞれの場所で動かなくちゃいけない。

 
「となりカフェ」の様子=facebook「高校生居場所カフェプロジェクト」より
「となりカフェ」の様子=facebook「高校生居場所カフェプロジェクト」より

僕たちが育てようとしている力は

--行きたくなる学校を作ったり、生きる上で必要な力を身につける学校以外の場所を作ったり、そんな情報を発信したり。子どもに責任を負わせるのではなく、私たち大人が考えなければならない。

 学力って何だろう。僕は常にそれを考えています。点数で表せる学力もありますが、点数が全てではない。学習に向かう力、学びたいと思う気持ち。更に言うと、困ったことに出合ったとき、すぐに人に尋ねるのではなくまず自分で調べようとする力。それが社会に出る上で重要な力で、僕たちが大事に育てようとしている力です。
 子どもが将来を描けなくてしんどいと思う社会は、大人が作ってきた社会です。僕一人の力じゃ世の中は変わらない。でも、僕は僕の学校の教育方針なら変えられる。どの大人にも、自分が変えられるものがあるはずです。大人、一緒に動きましょう。
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いろんな相談先があります

・24時間こどもSOSダイヤル 0120-0-78310(なやみ言おう)
・こどものSOS相談窓口(文部科学省サイト
・いのち支える窓口一覧(自殺総合対策推進センターサイト
 

withnewsでは、生きづらさを抱える10代への企画「#withyou ~きみとともに~」を続けています。
 


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