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連載

#1 クジラと私

捕鯨船の密着取材に「無理です」 クジラを巡る衝突、現場から考えた

記者が乗船したノルウェーの捕鯨船が捕ったミンククジラ=2019年8月1日、ノルウェー領スバールバル諸島沖
記者が乗船したノルウェーの捕鯨船が捕ったミンククジラ=2019年8月1日、ノルウェー領スバールバル諸島沖

目次

私は、平成元年生まれの埼玉育ち。大人になるまでクジラを食べたことはありません。最近まで「クジラが食べられなくても困らない」と思っていましたが、一方で、「食文化は多様なほうがいい」とも思ってきました。日本は、捕鯨では国際社会から批判を受けることが多い立場です。鯨を食べない人間も、無関係ではありません。問題の根っこにあるものは何か? 現場から考えてみようと捕鯨船に密着取材をしようとしたところ……「無理です」。クジラにまつわる疑問を現場から考えます。(朝日新聞記者・初見翔)

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クジラを追って

どうして批判?

取材のきっかけは昨年末、日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退する、というニュースでした。IWCはクジラの資源の保護と、捕鯨産業の発展を目的とする国際機関です。ここで、捕鯨に関する日本の主張が受け入れられず、逆に非難の対象になってきたことが背景にあるようでした。

どうしてそんなに批判されなければならないのでしょうか。

絶滅から守るため?確かにシロナガスクジラなど絶滅の危機にあるとされる種もいるそうです。でも日本が捕獲しているのは、資源量が豊富だと確認されている種の、しかも生息している数の1%未満だといいます。

クジラがかわいいから? 知能が高いから? その感覚もわからなくはありません。でも他にもたくさんかわいい動物、知能の高い動物はいます。しかもかわいくなければ、知能が低ければ殺してもいいのでしょうか。

31年ぶりに再開した商業捕鯨の初日に水揚げされたミンククジラ=2019年7月1日、北海道釧路市
31年ぶりに再開した商業捕鯨の初日に水揚げされたミンククジラ=2019年7月1日、北海道釧路市 出典: 朝日新聞社

ノルウェーの捕鯨船へ

ネットで調べてみても、新聞の過去記事データベースをひもといてみても、納得できる答えは見つかりませんでした。

そこで、「捕鯨を取材したい」と提案し企画が動きだしました。まずは現場を見なくては始まらない、と、国内で乗せてくれる捕鯨船を探しましたが見つからない。31年ぶりの商業捕鯨再開で注目を浴び、世界中のメディアから同様の申し込みがあって対応できないということでした。

それでは、と海外で探してみたところ、ノルウェーの捕鯨会社「ミクロブスト・バルプロダクタ・エーエス」が乗せてくれることになったのです。この会社は日本にも鯨肉を輸出している関係で、輸入拠点として日本法人をもっています。その志水浩彦社長(43)が、ちょうどノルウェーに行って船に乗るところで、同乗させてもらえることになりました。

ノルウェー捕鯨会社の日本法人「ミクロブストジャパン」の志水浩彦社長=2019年7月28日、ノルウェー領スバールバル諸島沖
ノルウェー捕鯨会社の日本法人「ミクロブストジャパン」の志水浩彦社長=2019年7月28日、ノルウェー領スバールバル諸島沖

論点こんなに多いとは……

取材を進めて感じたのは、捕鯨をめぐる論点の多さです。

どの種類のクジラについて話しているのか、いつの時代の話なのか、食べるためなのか、油を取るためなのか、商業捕鯨なのか、調査捕鯨なのか、先住民生存捕鯨なのか、漁網などにひっかかってしまう混獲なのか、IWC加盟国なのか、非加盟国なのか、沿岸なのか、公海なのか……。

ざっと思いつくだけでも捕鯨はこれだけの種類分けができます。そしてそれぞれに科学、経済、文化、環境、政治などさまざまな面から議論がありえます。

日本のメディアなのに、日本の捕鯨船に乗れないという状況からは、海外からの関心の高さがうかがい知れます。それと同時に、論点の多さも背景にあるのだと感じました。

一口に捕鯨と言っても、その疑問を解きほぐすには、丁寧な議論が必要です。その現実を、取材前から実感することになりました。

 
【連載:クジラと私】クジラを食べられなくなったら困りますか?平成生まれの私はこれまで、「困らない」と思ってきました。でも、今その考えは変わりつつあります。この夏、ノルウェーの捕鯨船に乗った記者が、捕鯨をめぐるあれこれを発信していきます。(次回は12月9日配信予定です)

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