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連載

#4 SDGs最初の一歩

クジラでSDGs 捕鯨会社の奇策「野蛮という差別なくすために発信」

ノルウェーの捕鯨会社「ミクロブスト・バルプロダクタ・エーエス」が捕獲したミンククジラ=2019年7月、初見翔撮影
ノルウェーの捕鯨会社「ミクロブスト・バルプロダクタ・エーエス」が捕獲したミンククジラ=2019年7月、初見翔撮影

目次

日本の捕鯨はときに国際的な厳しい批判にさらされてきました。その背景には理解不足もあるのでは。そんな思いから、日本のある捕鯨会社が国連のSDGs(持続可能な開発目標)を前面に押し出した取り組みを始めました。捕鯨がSDGsってどういうこと? 社長に話を聞きました。(名古屋報道センター記者・初見翔)

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【連載:クジラと私】クジラを食べられなくなったら困りますか?平成生まれの私はこれまで、「困らない」と思ってきました。でも、今その考えは変わりつつあります。この夏、ノルウェーの捕鯨船に乗った記者が、捕鯨をめぐるあれこれを発信していきます。
クジラを追って

留学時代に言われた「野蛮だ」

「くじらSDGs」を宣言したのはミクロブストジャパン(東京都)という会社です。ノルウェーの捕鯨会社の子会社で、ノルウェーで捕った鯨肉を輸入して国内で販売しているほか、国産の鯨肉の販売も手がけています。私は昨年夏に、ノルウェーでこの会社の捕鯨船に乗って取材をしました。

【関連記事】捕鯨船の密着取材に「無理です」 クジラを巡る衝突、現場から考えた

ミクロブストジャパン社長の志水浩彦さんは43歳。アメリカに留学した大学生のとき、仲の良かったクラスメートが捕鯨の話になったとたん目の色を変えて「野蛮だ」と攻撃してきた経験をきっかけに捕鯨に関心を持つようになったといいます。

大学を卒業後、日本の調査捕鯨会社に入社。広報や鯨肉の販売を担当しましたが、保守的な仕事環境に限界を感じて退社。ちょうどそこにノルウェーの捕鯨会社から声がかかり、輸入肉の販売を始めました。

ノルウェーで捕鯨船に乗る志水浩彦さん(右)=2019年7月、初見翔撮影
ノルウェーで捕鯨船に乗る志水浩彦さん(右)=2019年7月、初見翔撮影

「あまりにも情報発信をしてこなかった」

以降は毎年、漁期の夏になるとノルウェーに渡って捕鯨船に乗っています。毎回ひどい船酔いに苦しむそう。でも、日本人の味覚に合わせた鯨肉の処理方法を伝える役割があるほか、「野生の生き物を人間が利用するとはどういうことかを毎回見つめ直し、その気持ちを持って販売の現場に立ちたい」という思いも自身を駆り立てているそうです。

海外企業の子会社と立場は変わりましたが「日本の鯨食文化を守り、発展させたい」という思いは変わらないという一方で、日本の捕鯨業界は「これまであまりにも情報発信をしてこなかった」という反省から情報発信の大切さも実感しているといいます。

そんな志水さんに1月、SDGs宣言の狙いを聞きました。

〈SDGs〉地球環境や経済活動、人々の暮らしが持続可能になるよう、世界が2030年までに取り組む行動計画。2015年の国連総会で決められた。貧困の解消や教育の改善、気候変動の対策など17のゴールがあり、その下により具体的な169の目標を掲げている。

「四つに貢献できる」

――捕鯨の何がSDGsなのでしょうか。

「17のゴールのうち、『働きがいも経済成長も』『人や国の不平等をなくそう』『つくる責任つかう責任』『海の豊かさを守ろう』の四つに貢献できると考えています」

「『海の豊かさを守ろう』はわかりやすいと思います。科学的な根拠に基づいた捕獲枠を設け、その範囲でクジラを捕獲します。すでに日本は厳しくやっていますが、それを今後も守り続けるようにフォローしていきます」

「『つくる責任つかう責任』も想像しやすいですね。例えば廃棄物を減らす。日本は1頭のクジラから内蔵や皮まで無駄なく利用することで知られていますが、それをさらに進めます」

「これは『働きがいも経済成長も』にも関係しますが、昔は骨やひげを使った工芸品もありましたが、今はつくれる人がほとんどいなくなっています。こうした技術を残し、さらに新しい技術も取り込んだ土産物を開発することで、捕鯨産業のある地域の観光や雇用創出に貢献できます」

「少し違ったニュアンスなのが『人や国の不平等をなくそう』です。捕鯨に関しては、『日本人はクジラを乱獲して絶滅に追いやっている』といった間違った知識に基づく批判もあります。ときに『日本人は野蛮だ』ともいわれますが、これは差別です。正しい情報発信をすることでこうした差別や偏見をなくし、ひいては海外でクジラを食べている他の少数民族などへの理解も深められればと思っています」

DNA解析用にノルウェー政府に提出するクジラの肉片を保存する容器=2019年7月、初見翔撮影
DNA解析用にノルウェー政府に提出するクジラの肉片を保存する容器=2019年7月、初見翔撮影

「捨てていた部分、有効活用も」

――ノルウェーの捕鯨会社ならではの観点は。

「ノルウェーでは人間が食べない切れ端や油をサプリメントやペットフードに加工して売っています。鯨肉は高たんぱくで低脂肪。ペットの健康にもいいと人気があります」

「これと同じことを日本でもできないかと検討しています。いままで捨てていた部分を有効活用できますし、業者にとっても新たな収入になります」


――持続可能という意味では経済性も気になります。商業捕鯨が再会されても日本政府は年間51億円の税金を投入していますが。

「税金がなくても自分たちでまわしていけるようにしないといけないのは確かです。いままでは調査のために大型の船や人員が必要でお金がかかっていました。それをすぐに減らせと言われても簡単ではないでしょう。簡単ではありませんが、持続可能な捕獲枠のなかで経営ができる態勢に変えていく必要はあると思います」

志水浩彦さん=2020年1月、初見翔撮影
志水浩彦さん=2020年1月、初見翔撮影

「クジラっておしゃれでかっこいいんだ」

――そもそもなぜSDGs宣言をしようと思ったのですか。

「やはり情報発信がとても大切だという思いからです。そのときに、相手が理解しやすいように伝える必要があります。ただ単に日本の捕鯨は正しいと繰り返しても理解はされにくいのが現状です」

「そこで世界的に合意されたSDGsに沿って説明してみては、と考えました。厳密な捕獲枠に基づいて捕っているという点はSDGsそのもの。さらに文化的な側面や価値観の多様性についても説明できてしまいます」

「日本の食べ方や工芸品についても発信することで、世界の他の地域でもマネしてみようとなるかもしれない。なにより日本の若者にクジラっておしゃれでかっこいいんだ、と感じてもらいたいんです」

【連載:クジラと私】クジラを食べられなくなったら困りますか?平成生まれの私はこれまで、「困らない」と思ってきました。でも、今その考えは変わりつつあります。この夏、ノルウェーの捕鯨船に乗った記者が、捕鯨をめぐるあれこれを発信していきます。

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