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ダイエットとリバウンド 40kg減量して学んだ戦い方「週150分の壁」

左:やせる前の記者、右:やせた後の記者
左:やせる前の記者、右:やせた後の記者

目次

ベンチャー企業で激務を経験し、2015年には体重が115kgまで増加してしまった記者。転職などで環境が変化した5年後の2019年現在、合計40kgのダイエットに成功しました。
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2019年現在。体重が75kgほどになった私の写真。
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さまざまなダイエットの方法を試し、失敗を重ねてきましたが、特に注意するべきは減量後の「リバウンド」。無理なく適正体重を維持するには、どうすればいいのでしょうか。そのカギになるのが「運動」です。ダイエットの医学的な「コツ」について、ガイドラインや専門家の取材、自分が学んだ「戦い方」と照らしながら紹介します。(朝日新聞デジタル編集部・朽木誠一郎)

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「減量の運動」、医学的な目安は?

2015年。体重が115kgだったときの写真。
2015年。体重が115kgだったときの写真。
ダイエット経験者であれば、何度も思い知らされたことがあるのが「運動を継続する」ことの難しさではないでしょうか。

私自身、ダイエット成功以前の2016年頃に一念発起して、自己流で運動に取り組んだことがあります。仕事が終わった後、毎日深夜に5kmのジョギング。極端な食事制限とあわせて1カ月で8〜9kgほど体重が減りました。しかし、どちらも続けられず、3カ月でむしろ+5kgもリバウンドしてしまいました。

一方、医学的にもダイエットに運動が効果的なことは証明されています。肥満症の治療について、肥満症診療ガイドラインは「食事療法を必須とし、運動療法を併用すると効果が高まる」と記載。また、同ガイドラインには運動療法は減量および肥満の「予防」にも有効とあります。

【関連リンク】115kgから40kgダイエット成功、コツは食事?運動? 医学的に考察

では、ダイエットに効く運動とはどんなものなのでしょうか。医学的に推奨される肥満症の運動療法について、順天堂大学医学部代謝内分泌内科学講座教授の綿田裕孝さんは「人によってさまざまであり、難しい」と断りを入れた上で「一定の目安はある」とします。綿田さんが強調するのが、食べる量とそのエネルギーを使う量のバランスです。

「まず、全体的なことから説明すると、体重管理は食事によるエネルギー摂取と身体活動によるエネルギー消費のバランスにより規定されます。肥満を解消するには、このバランスを消費の方に傾けるのが基本です。

方法としては、まず食事の改善により摂取エネルギーを減らすことが考えられますが、運動・生活活動(日常生活における労働、家事、通勤・通学など)・基礎代謝によりエネルギー消費を増やすことも効果があります

特に意識したいのが、運動は減量だけでなく「肥満予防や減量後の体重維持効果も期待できる」ということ。ダイエットにおいては食事を改善するインパクトが大きいのはもちろんですが、運動にも肥満になりにくくする効果や、リバウンドを防ぐ効果があるということです。

社会人になると繁忙期や、飲み会・会食などで食生活の乱れを避けられないことがあるので、運動習慣をつけておくに越したことはありません。
2017年。リバウンドして体重はまた100kgに。
2017年。リバウンドして体重はまた100kgに。
具体的な基準として、ガイドラインには“週150分の壁”が記載されています。例えば週末に1時間(60分)×2回の運動をしても、この壁は破れないのです。

「減量時の運動の具体的な目安としては、肥満症診療ガイドラインに海外のデータが紹介されています。そこでは、週150分以下の運動では体重減少はわずかですが、週150〜224分では(年)2〜3kgの体重減少がみられ、週225〜420分では5〜7kg、さらに運動量が多ければ多くなるほど体重減少効果は大きいとされています。

具体的には中等度の運動を週5日、1日30分から開始し、可能であればそれ以上に増やしていけば、計算上は週150分を越えられます。ここで言う“中等度”とは『話しながら続けられる〜話し続けにくくなる』程度を指します」

肥満症の運動療法において、メニューの主体になるのはエネルギー消費量を高めやすい有酸素運動。「特に自転車や水中運動は自重による負担を軽減できるため、比較的やりやすく、推奨されます。あとは歩くことですね。仕事をしていて忙しい人なら、通勤のひと駅分を歩いてみるとか」(綿田さん)。

また、レジスタンス運動、いわゆる“筋トレ”は筋肉量を増やすことによって基礎代謝を増やすため、トータルのエネルギー消費量を増やすと考えられるそうです。エネルギー消費の主体になるのは基礎代謝であり、「これを増やすのは減量および体重増加予防において重要」と綿田さんは指摘します。

一方で、そもそも運動に対する人間の体の反応はさまざまであり、行動にもその人の特性が強く出ます。そのため、「運動療法については注意点も多い」と綿田さん。

キーワードは「個人差」という言葉です。「例えば『毎日30分の運動をした群』と『しなかった群』に分けてその効果を測定する研究をするとしますよね」と切り出します。

「でも、参加者が本当に毎日30分の運動をしたのか、しなかったのか、つきっきりで全参加者について確認することはできないわけです。ここが、例えば〇〇という薬を投与したかしないか、といったことが明確な医学研究と違うところです。『中等度』の『話し続けられる』といった基準も主観的ですし。

また、そもそも糖尿病のような合併症を伴うものではなく、肥満症のみにフォーカスした研究の数は多くはありません。特に運動というテーマは研究の対象者の数が数十人〜数百人と少ない場合もあり、概して医学的な根拠が強いものが多いわけではないのです」

だから「どのくらいやればやせるか」など、実際の効果についてはあくまで目安になります。しかし、消費エネルギーを摂取エネルギーよりも増やせばやせることはメカニズム上に明確であり、運動については「やればやせる」と言うことはできる、とします。

注意したいのは、個人差が大きいことの他に、ケガなどのリスクもあるということ。運動の初心者ほど準備運動や整理運動を徹底するだけでなく、脱水症や熱中症を予防する水分補給や、自分のサイズに合ったシューズを選ぶことも意識しなくてはなりません。

肥満の程度によっては、運動療法の開始前に医師によるメディカルチェックも必要。特に基礎疾患や合併症がある人は「医師に相談をしてほしい」と綿田さんは言います。また、最大の注意点はやはり、継続しにくいことです。

「運動療法は有効かつ重要ですが、実際に運動ができる場所を併設していない施設では、指導に限界もあります。患者さんの自主性によるところが大きく、結果が出にくいというジレンマもあります」

運動を継続できる人、できない人の違い

横浜市スポーツ医科学センターのある日産スタジアム。
横浜市スポーツ医科学センターのある日産スタジアム。 出典: PIXTA

そんな中、「運動ができる場所」を併設した自治体の医療施設もあります。横浜市スポーツ医科学センターの『減量・脂肪燃焼教室』です。同センターは国内最大級の競技場である日産スタジアム内にあり、公益財団法人横浜市体育協会が施設の管理や事業の運営をしています。

言うなれば、ここは公的機関が運営する「ダイエット教室」。内科医・管理栄養士・運動指導員・スポーツ科学の専門家らがチームになり、利用者のプログラムを設定しています。費用は2019年10月以降は3カ月のコースでおよそ3〜4万円台、6カ月のコースで6万円〜8万円台と、一般的なジム以上、パーソナルトレーニング未満といった価格帯です。

事業に携わる医師、スポーツ科学の専門家、横浜市体育協会の職員に話を聞いてみました。企画運営課長の小倉孝一さんは同センターを「運動と医学が相互に連携することのできる施設」と紹介します。同センターでは、スポーツによるケガや病気の治療はもちろん、地域住民の健康づくりや健康指導なども重要な役割となっているそうです。

同教室では、初日に医学的検査や身体・体力測定、管理栄養士による栄養講習を実施。期間中はトレッドミルやエアロバイクのあるトレーニングルーム、エアロビクスダンス教室、プールを自由に利用でき、運動指導員への相談を随時、することができます。期間終了時に再度、医学的検査と身体測定をして終了です。

同教室のスタートは2009年。現在は毎月募集をしており、月に最大15人程度が応募しています。運営開始からの累計参加者は約700人。体重減少の平均値(2017年度)は3カ月コースで-3.5kg±2.1kg。6カ月で-4.7kg±3.7kg。12カ月で18kg以上の減量に成功した参加者もいます。参加者は約9割が女性で、平均年齢は53.5±13.0歳。同年の継続率は75.7%でした。

診療部長の長嶋淳三さんは取材に「従来はできなかったことができている」と回答しました。一般的な医療施設では「食事を節制してください、適度に運動してください、と一方的に言うことしかできない」というジレンマを抱える中、「当センターでは、その先まで患者さんと関わることができるから」です。

横浜市スポーツ医科学センター外観。
横浜市スポーツ医科学センター外観。 出典: PIXTA
同センタースポーツ科学員の今川泰憲さんは「(運動療法を自主性に任せる)一般的な医療機関よりも高い成果が出ている」とした上で「個人差は大きい」と認めます。運動側の職員による呼びかけや声かけはありますが、それでも“待ち”の姿勢であることは事実。一部のパーソナルトレーニングのようにメッセージで頻繁に食事や運動の様子をやりとりするわけではなく、「運動をしに施設に来てもらう」ことには一定のハードルがあるためです。

同センターの取り組みの価値は、もう一つあります。それがデータです。利用者の記録は蓄積され、スポーツ科学の専門家、医師らによって論文化もされています。

データが少ない(数百人単位である)ことや個人差が大きいことについて質問すると「このような研究を試みている人・施設自体が少ない中、データを積み上げていくことは今後の研究の発展のためにも必要」(今川さん)ということでした。

では、このような研究を重ねる人の目からすると、どんな人の運動が続きやすいのでしょうか。「みなさん忙しい中、時間を作るわけですから、途中で来られなくなる方もどうしてもいらっしゃいます」と、健康運動指導士の落合春陽さん。逆に、例えば「定年退職後」のように時間を作りやすい人は、運動も続けやすいそうです。その上で、こう続けます。

「これはあくまでも私の印象ですが、忙しくても続く方の特徴は、こちらのアドバイスや、自分にどんな課題があるのかを素直に受け止めて、取り組んでくれる方ですね。そうすると来る頻度が上がり、結果も出ます。逆に、客観的には運動が不足しているのに『十分だ』と思ってしまう、というように認識とのズレがある場合は結果が出にくいです」

今川さんは、効果が出ている人の特徴として「体重や歩数の記録をしっかりつけられていること」を挙げました。二人の意見からは、自分の状態を客観的に分析・把握できることが、ダイエットに有利であることが示唆されます。

運動を習慣にするためのポイント

続けられる人とそうでない人が分かれやすい「運動」。もう少し掘り下げてみましょう。人が健康によい行動をする可能性を高める要因として何があるかを示す考え方を「健康行動理論」と言います。それによれば、運動を続ける要因には以下の7つがあります。

1. 運動をすることが自分にとって本当に『よい』ことだと思うこと
2. 運動をうまくおこなえるという『自信』があること
3. このままでは『まずい』と思うこと
4. 運動をする上で『妨げ』が少ないこと
5. 『ストレス』とうまく付き合っていること
6. 運動をする上で周りから『サポート』が得られること
7. 健康になれるかどうかは社会的要因や運もあるが、自分の『努力』によっても左右されると思うこと

以上と照らし合わせながら、私の場合について振り返ってみます。まず、ダイエットの障害となっていたのは「妨げが多く」「ストレスも大きい」ことでした。

【関連リンク】体重115kgの私がダイエットに苦しみ、後に40kgの減量に成功した理由

相対的貧困やハードワークによるストレスなどの社会的要因は肥満のリスクです。また、金銭的・時間的余裕がない状態では、「サポートを得る」ことも難しいのが実情でしょう。健康行動理論においては「これらの要因のうちその人においてまだ十分に満たされていないものがあれば、その要因を満たすこと」が推奨されます。

私は後に、何度かの転職により環境が変化し、金銭的・時間的な余裕が少しずつ生まれていったことで、不足していた要因を「満たす」ことができたのでしょう。これはあくまで結果論であり、肥満と社会の問題が密接に結びついていることがわかります。

さらに、どの要因が十分で、どこが不十分かは人により本当にさまざまです。だからこそ運動療法の研究も難しいのでしょう。

共通点もあります。例えば、こうして肥満を解消する情報にたどり着いた人であれば、「このままではまずい」ということは、心のどこかでわかっているのではないでしょうか。運動がよいということも、この記事で繰り返し、紹介しました。

一方で、社会的要因以外にも難しいのが「運動に自信を持つこと」と「自分の努力を信じること」です。ただし、繰り返しになりますが「やればやせる」が原則ですから、前述したような自転車や水中運動、歩くことなどを徐々に始めてみるのはいかがでしょうか。

不健康は落ちやすく、上りにくい落とし穴。経験者として引き続きその穴を埋め、誰かが落ちてしまったときの上がり方を伝えていきます。

【連載】医療記者の40kgダイエット

ベンチャー企業で激務を経験し、2015年には体重が115kgまで増加してしまった記者。転職などで環境が変化した5年後の2019年、合計40kgのダイエットに成功。以降は体重75kg前後をキープしています。この経験から、医療記者として「人はなぜ太るのか」「どうすればやせるのか」を取材する連載です。

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115kgから40kgダイエット成功、コツは食事?運動? 医学的に考察

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