連載
#170 #withyou ~きみとともに~
キミにとってそこは地獄 「逃げればいい」ができない全員へ贈る歌
2018年8月下旬、いじめを苦にした男子高校生が、自ら命を絶った。「何かできることはないか」。生前、この高校生からメールをもらっていたミュージシャンの悠々ホルンさん(32)は、そんな思いから曲を書き、今月、ネット上で楽曲ビデオを公開した。ビデオに出演したのは、小、中学校時代にいじめに遭った20代の女性。2人は「子どもたちが思いとどまるきっかけになれば」と願っている。(朝日新聞記者・岡崎明子)
悠々さんは10年近く、いじめや不登校に悩む子どもたちの声を聞き、彼らと向き合ってきた。
昨年8月、男子高校生からつらい思いを打ち明けるメールを受け取った。その数日後、亡くなったことを母親から知らされて以来、「何か自分にできることはなかったのか」と悶々(もんもん)とする日々が続いていた。
悠々さん自身、小、中学校時代に自ら命を絶とうとした経験がある。「死にたいと思う気持ちには波がある。そのときに思いとどまれるきっかけを作りたい」と、曲を作ることにした。
曲名は、「助けて欲しいなんて誰にも言えなかった」。周囲から「何かあったら相談して」と言われても言えない子が多いと痛感し、子どもの立場からこう思いをつづった。
「逃げればいい相談すればいいと言われてもそれができないできないんだ」
「頭ごなしに怒らないで安心感を与えて欲しい命休める居場所が必要なんだ」
楽曲ビデオをつくる際に連絡したのが、5年前にあるイベントで出会った杉山あおいさん(25)だ。
杉山さんは遠足のバスで吐いたのをきっかけに小学3年生ごろからいじめられるようになった。アトピー性皮膚炎もあったため、「そばに来たらうつる」などと言われ、給食も一人、離れて食べていた。執拗(しつよう)ないじめは中学校でも続き、とうとう、2年生で学校に行けなくなった。
「だんだん、上履きを隠されるとかひどくなった。でもうちは母子家庭なので、親に心配をかけたくないと何も言えなかった」
何度も「死にたい」と思った。そんなときに救ってくれたのが、離婚した父親が残していった「コント55号」のビデオだった。ビデオを見ているときだけは、つらい出来事も忘れ、笑うことができた。
「いつか、自分もそういう立場になりたい」と芸人養成所に通った。そんな体験を悠々さんに伝えていた。
ビデオで葛藤する女子中学生役を演じた杉山さん。「私にとってのコント55号が思いとどまらせてくれたように、このビデオがなってほしい」
悠々さんは、「相談できないのなら、何も言わずに部屋に閉じこもっても、『つらい』と泣き叫んでもいい。将来、『生きていてよかった』と思える日が来る可能性を守ってほしい」
「子どもが学校を休んだとき、親や教師は、それがその子のSOSだと気づいてほしい。甘えているのではなく、苦しんでいるんだと受け止めてほしい」と話す。
ビデオはユーチューブ(https://youtu.be/sw4KARkW6iQ)で見られる。
『助けて欲しいなんて誰にも言えなかった』
詞・曲/悠々ホルン
助けて欲しいなんて
誰にも言えなかった
平気そうな顔作っているけど
本当は辛かった
真っ暗な部屋の中
不安に押し潰される夜
キミにとってそこは地獄
人に怯(おび)え人に打ちのめされ
明日なんて来なければいい
逃げ場のない戦場で生きるのは疲れたんだ
限界まで我慢を続けてきた
根拠の無い励ましには
僕の何が分かると牙をむく
逃げればいい相談すればいいと言われても
それができないできないんだ
虚(うつ)ろな目でどこかを見つめていた
助けて欲しいなんて
誰にも言えなかった
部屋で暴れたのがせめての
キミのSOSだった
結局は怒鳴られて
諦めの気持ちになって
明日子どもは頭が痛いと言うかもしれない
ベッドから起き上がれないかもしれない
行き渋る様子を見せるかもしれない
その理由を聞いても答えられないかもしれない
きっと慌ててしまうだろうけど
頭ごなしに怒らないで
安心感を与えて欲しい
命休める居場所が必要なんだ
今は寄り添ってあげて欲しい
助けて欲しいなんて
最後まで言えぬまま
旅立った我が子を想って
行かなくていいよって
言えなかった自分を
責めて苦しんでいる人がいる
その人から預かった
声を届ける為(ため)に
この歌をあなたに歌いたい
軽い気持ちでいたら
本気で命を落とす
子どもがいると言っていたんだ
おどかしたいわけじゃない
当たり前の日常に
見えなくなってしまうものを
今はっきり見てほしい
今なら間に合うから
どうか伝われ朝が来る前に
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