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連載

#30 「見た目問題」どう向き合う?

変形した顔、人前にさらす意味とは?「見た目問題」当事者が語る本音

外見に症状のある2人の当事者が、お笑い芸人の村本大輔さんを交えたトークイベントで、本音を語りました。

トークイベントに登壇した、トリーチャーコリンズ症候群の石田祐貴さん(左)と、動静脈奇形の河除静香さん。河除さんはイベント冒頭、自身の差別経験をテーマに、一人芝居も披露した=阿部健祐撮影
トークイベントに登壇した、トリーチャーコリンズ症候群の石田祐貴さん(左)と、動静脈奇形の河除静香さん。河除さんはイベント冒頭、自身の差別経験をテーマに、一人芝居も披露した=阿部健祐撮影

目次

顔の変形やアザなど、外見の症状のため、日常生活で苦労する「見た目問題」。当事者と接する時に、気をつけることはあるのか? 差別された過去について話すとき、つらくないか? メディアに登場するのは「スーパーマン」ばかりでは? 数々のメディアの取材を受け、書籍にも登場する2人の当事者が、お笑い芸人の村本大輔さんを交えたトークイベントで、本音を語りました。(朝日新聞記者・岩井建樹)

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イベントの登壇者たち

トークイベントは、当事者の人生を追いかけた著書「この顔と生きるということ」(朝日新聞出版)の刊行を記念して開かれました。

3人によるやり取りの後、会場からの質問や意見を募ったところ、率直な疑問や感想が寄せられました。

『この顔と生きるということ』(岩井建樹著、朝日新聞出版)

 

村本大輔さん
1980年、福井県生まれ。2008年に中川パラダイスとお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」を結成、13年に「THE MANZAI」で優勝。全国各地で精力的にライブを開く。19年春まで、AbemaTV「Abema Prime」でMCを務めた。

 

河除静香さん(動静脈奇形)
44歳。富山県在住。血管の塊が口や鼻にある。これまで血管の塊を切除する手術を40回以上、繰り返してきた。見た目問題をテーマに、一人芝居を各地で演じている。

 

石田祐貴さん(トリーチャーコリンズ症候群)
26歳。筑波大大学院生。小さなあご、垂れ下がった目が特徴。中学時代、引きこもりを経験。小学校などで自らの体験を発信している。

知ってもらった先に「普通の人」と思って欲しい

口火を切ったのは、見た目問題の解決を目指すNPO法人「マイフェイス・マイスタイル」の外川浩子代表です。

NPO法人「マイフェイス・マイスタイル」の外川浩子代表
NPO法人「マイフェイス・マイスタイル」の外川浩子代表

 

外川さん

(メディアでは)かっこいい、スーパーマン的なところがフォーカスされているけど、2人にだって弱いところや情けないところもあります。決して特別な人じゃない。

 

外川さん

でも、そういう人間的な弱さに私たちは共感するし、一緒だね、となります。今後は、そういうところも知ってもらうのが、見た目問題という言葉をつくった、マイフェイス・マイスタイルの責任だと思っています。

 

石田さん

僕の記事を読んだ人が「こんな顔でも頑張っているんだ」と思って、それを励みに頑張ってもらうのは、うれしいことです。でも、外川さんの話に近いんですが、僕を知ってもらった先に、特別視ではなく「普通の人なんだ」と思ってもらえたらと思っています。
自身の体験について話す、河除さん(左)と石田さん
自身の体験について話す、河除さん(左)と石田さん

過去を語ることで、一歩進める

太田母斑(おおたぼはん)というあざが顔にある女性は「世の中に知ってもらいたいけど、怖い部分もある。取材を受けると、自分のつらいことを思い出すのでは。どういう心持ちなんでしょうか」と問いかけました。

 

河除さん

講演会や取材で話をするとき、つらい思い出がフラッシュバックして、気持ちがぐっと入ります。すると、涙が出てしまいます。

でも、それが嫌だというわけじゃない。つらい気持ちがあったからこそ、今の幸せがあるので。何より「(自分の体験や思いについて)伝えたい」との思いが強いです。

 

石田さん

取材を受けることが怖いとか、話して落ち込むとかはあまりないです。僕も、嫌なことも、全て今につながっている経験の一つと考えているから、そう思えるのかもしれません。

それに過去をさかのぼって話すことで、自分の頭が整理されます。あのとき、ほかに方法はなかったのかなとか。人に話すって考えることなので、それによって一歩進めたなと感じることができる。

 

村本さん

今の話を聞いて、アメリカのコメディアンが「お笑いは私にとっての薬だ」と言っていたのを思い出しました。差別された体験をお笑いにすることで、自分の心が癒やされると。

 

村本さん

「トリーチャーコリンズ症候群の石田さん」などと、病名が先に来ているけど、たまたま病気があるだけで、本当は性格や服装、才能など、いろんなもので人はできていますよね。

石田くんを好きになってつながれば、病名以外の要素がどんどん入ってくる。人と人とのつながりが大事。

 

石田さん

人によっては、病名から入ったほうが、語りやすい人もいると思います。でも、僕は見た目問題の当事者という意識があまりない。「石田祐貴」という一人の人間です。
(左から)村本さん、河除さん、石田さん
(左から)村本さん、河除さん、石田さん

当事者への対応、センスより気持ちが大事

「当事者を傷つけない、センスのよい対応はどうすればできますか」との質問も出ました。

 

河除さん

センスなんて私にもないし、なくてもいいと思います。隣におじさんが来て、急に「病気なの?かわいそうだね」と言ってくれたことがある。

よく「同情されるのは嫌」という話もあるけど、私は嫌じゃなかった。その人なりに、私のことを考えていることが伝わったから。その人はセンスがなかったかもしれないけど、その気持ちはうれしかった。

 

石田さん

僕と関わりたいと思って、何かしらの行動をとってくれれば、受け入れます。深く考えずに、自分なりに誠意をもって接してもらえればいい。

それでも「うん?」という反応が返ってきたら、それはセンスのあるなしではなくて、人と人との相性の問題なのかなと思います。

子どもたちのため、体験を伝える

宮城県からイベントに駆けつけた、顔に赤アザがある男性からは、「2人は僕にとって、スーパーマン。でも、当事者の方の中には、存在を隠したいから見た目問題をニュースで取り上げてほしくないと、思う人も少なからずいるのでは」との問題提起がありました。

 

河除さん

ネット上で「なぜそっとしておいてくれないんだ」という趣旨の書き込みをみたとき、「そういう人もいるだろうな」と思いました。それは人間としての考え方の違いです。

知られなくない人がいるなかで、それでも私が活動するのは、一番は子どもたちのためです。当事者の子どもたちに、私のようなつらい体験をしてほしくない。

 

石田さん

僕も同じで、将来、少しでも当事者が生きやすい社会になってくれると信じて取材を受けています。ただ、一つ心配ごとがあって、「トリーチャーコリンズ症候群」と検索すると、僕の名前が出てきます。

僕は、決してトリーチャーコリンズ症候群の代表ではありません。いろんな人がいることを知ってもらえるといいなと思います。
会場には、見た目問題の当事者を含む、約100人の観客が詰めかけた
会場には、見た目問題の当事者を含む、約100人の観客が詰めかけた

見た目問題、刹那的に消化しないで

 

村本さん

記事を読んで、そしてこの会場で2人を見て、(見た目問題を)刹那的に消化して欲しくない。「こういう人たちがいるんだね」だけで、終わって欲しくない。取材を受け、この本に登場したみなさんは人生が続くわけですから。

 

村本さん

僕は嫌みな人間なので、社会の責任だと思うんです。当事者が社会にどう適応するかという話ではありません。

刹那的に考えるだけじゃなくて、違和感としてずっと残して欲しい。ごはんを食べるときにでも考えて欲しい。「刹那的にしない」。それが僕の考えたこと。

村本さんの言葉に対し、マイフェイス・マイスタイルの外川代表が、最後にこう訴えました。

 

外川さん

確かに、社会のせいで当事者がしんどい思いをしているのは事実だし、社会に変わってほしいと思っている。でも、「社会は敵だ」と言いたいわけではないんです。

 

外川さん

社会の中に、当事者も生きている。決して、社会と当事者は対立しているわけではない。同じ仲間なんだから、これからは共に悩み、失敗しながら前に進んでいけばいいと考えています。
書籍「この顔と生きるということ」を手にほほ笑む、登壇者の3人
書籍「この顔と生きるということ」を手にほほ笑む、登壇者の3人

もっと知りたい人へ

今回の記事を読み、見た目問題に興味を持ったという方がいるかもしれません。

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