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連載

#29 「見た目問題」どう向き合う?

人に指差された顔…それでも街を歩きたい 偏見残る社会に望むこと

「見た目問題」がテーマのトークライブに参加した、(左から)お笑い芸人の村本大輔さん、動静脈奇形の河除静香さん、トリーチャーコリンズ症候群の石田祐貴さん=阿部健祐撮影
「見た目問題」がテーマのトークライブに参加した、(左から)お笑い芸人の村本大輔さん、動静脈奇形の河除静香さん、トリーチャーコリンズ症候群の石田祐貴さん=阿部健祐撮影

目次

アルビノや顔の変形、あざ、まひ……。外見に症状がある人たちが学校でいじめられ、就職や結婚で苦労する見た目問題。当事者は、人生の様々な段階で困難に直面します。「何でこんな顔に生んだと親に迫った」「好きな人に告白をしてはいけないと思ってきた」。そんな経験を持つ2人の当事者は、偏見が残る社会に何を望むのか? この問題に関心が高い、お笑い芸人の村本大輔さんと、トークイベントで語らいました。(朝日新聞記者・岩井建樹)

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【イベントレポート後編】変形した顔、人前にさらす意味とは?「見た目問題」当事者が語る本音

イベントの登壇者たち

このイベントは、外見に症状がある人たちの人生を追いかけた「この顔と生きるということ」(朝日新聞出版)の出版を記念し、8月16日に東京・渋谷で開かれました。

『この顔と生きるということ』(岩井建樹著、朝日新聞出版)

 

村本大輔さん
1980年、福井県生まれ。2008年に中川パラダイスとお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」を結成、13年に「THE MANZAI」で優勝。全国各地で精力的にライブを開く。19年春まで、AbemaTV「Abema Prime」でMCを務めた。

 

河除静香さん(動静脈奇形)
44歳。富山県在住。血管の塊が口や鼻にある。これまで血管の塊を切除する手術を40回以上、繰り返してきた。見た目問題をテーマに、一人芝居を各地で演じている。

 

石田祐貴さん(トリーチャーコリンズ症候群)
26歳。筑波大大学院生。小さなあご、垂れ下がった目が特徴。中学時代、引きこもりを経験。小学校などで自らの体験を発信している。

 

岩井建樹
39歳。朝日新聞記者。「この顔と生きるということ」著者。長男(9)が右顔の表情筋不形成で生まれ、笑うと表情が左右非対称になる。

マスクをつける人も、つけない人も

イベントは、実体験をもとにした、河除さんの一人芝居から始まりました。「お前には基本的人権はない」。中学時代、同級生から投げつけられた言葉を、セリフに盛り込みます。

自身の体験に基づく一人芝居を演じる、動静脈奇形の河除さん
自身の体験に基づく一人芝居を演じる、動静脈奇形の河除さん

そのまま、トークセッションへ。最初のテーマは「どんなときに見た目問題を感じるか」です。

 

石田さん

知らない人と接するときに感じます。驚かれたり、指を差されたり。中には、いかにも僕とは関わりたくないという態度をする人もいます。

 

河除さん

普段はマスクをしていて、外すのが怖いです。「どんな反応をされるのだろう」「嫌われるのではないか」という不安がどんどん大きくなっています。

 

村本さん

20代前半のとき、大阪の商店街で、たまたまトリーチャーコリンズ症候群の子どもを見かけて。当時、彼を見て一瞬、「見間違いか?」と思って、ぱっと見て、すぐに視線をそらしたんです。

番組で石田君に会ったときに、その話をしたら「たぶん、それ僕です。近くに住んでいました」と言われた。石田君は街を歩くときもマスクをしませんが、その理由は?

 

石田さん

最大の目的は、ただ僕が(マスクせずに)街を歩きたいからです。結果的に、僕を見た人が、僕の顔を見ることで何か感じてもらえたらいいかなとは思っています。
トリーチャーコリンズ症候群の石田さん(右)の発言に耳を傾ける、村本さんと河除さん
トリーチャーコリンズ症候群の石田さん(右)の発言に耳を傾ける、村本さんと河除さん

「知っている症状」になって欲しい

「なぜインタビューに出るのか?」。村本さんは質問を続けました。

 

河除さん

「自分は顔を隠さなければならない」と思って生きていました。でも、今は見た目問題を知ってもらいたいと思って取材を受けたり、一人芝居をしたりしている。

そうすることで、自分の顔に「意義」を見いだせるかなと考えています。

 

村本さん

沖縄でライブをしたとき、車いすの人とか脳性まひの人とか、いろんなお客さんが来場してくれた。彼らが歓声を上げて楽しんでいる姿を見て、「これが正しい社会の場所なんだ」と思った。

 

村本さん

では、どうして映画館やライブで、こうしたお客さんを見かけることが少ないのか。変な目で見られるから、街に出ることに億劫(おっくう)になってしまっているのではないでしょうか。外見に症状がある人たちもそうかもしれない。

どうすれば、どんな人であれ、当たり前のようにイベントに足を運べるようになると思う?

 

石田さん

理想は、僕をジロジロ見る人がいない社会。ただ視線については、当事者が社会の少数者である限り、永遠になくならないと思います。

でも多くの人がトリーチャーコリンズ症候群を知ってくれていれば、思わず「あっ」と見てしまった後に、「あー、知っている症状だ」となると思う。そうなれば、その後の対応も違ってくるのではないでしょうか。

 

石田さん

最近、友人から「同性の人と恋愛している」と言われて、一瞬思考が停止したけど、「なるほど」とすんなり受け止めることができました。見た目問題の当事者についても、そういう感覚で受け入れてくれる人が増えてほしいです。
「症状のある顔を、すんなり受け入れる社会になって欲しい」と話す石田さん
「症状のある顔を、すんなり受け入れる社会になって欲しい」と話す石田さん

母の「その顔に生まれてくれて良かった」という言葉

「人間なら相手を恨むことがあるのでは?」。村本さんは、引き続き問いかけました。

 

河除さん

子ども時代、いじめられて「相手が私と同じ顔になればいいのに……」と思ったことはあります。成人式で、私をいじめていた男子が「あのときは、ごめんな」と謝ってくれました。それで恨みもスーッと消えていきました。

 

石田さん

僕は人を恨んだことはありません。嫌なことはたくさんあって、親に「どうしてこんな顔で生んだんだ」と思いをぶつけたことがあります。母親は「あなたがその顔に生まれてきて良かったし、幸せだと思っている」と言ってくれた。

この言葉がなかったら、誰かを恨む方向に行ったのかもしれない。

 

村本さん

(作家の)乙武洋匡さんも、両脚と両腕がない状態で生まれ、親に「かわいい」と言われて育ち、自信が持てた。僕は、そこかなと思います。岩井さんは、息子さんとどう接しているのですか?

 

岩井

かつては息子の左右非対称の笑顔をみると、胸がざわついていました。でも、今はまったく、なんとも思いません。

 

岩井

息子が小学生になり、「学校で顔についていじめられていないか」と聞くようにしていました。でも、よくよく考えると、この聞き方は「おまえの顔はいじめられやすい」と言っているに等しいことに気づいた。そして、僕自身が、息子の顔に執着している意識の表れです。

だから最近は「学校はどうだ?」とだけ聞いている。そのときに、顔の悩みについて話が息子から出れば、そのときに寄り添おうと思っています。

友人の涙で気付いた「私も恋愛していいんだ」

話題は、見た目問題の当事者の多くが困難にぶつかる、恋愛・結婚に移ります。

 

河除さん

好きな人がいても、「私なんかが告白しちゃダメ」と思っていた。そんな私を変えてくれたのが友人でした。短大の卒業旅行で恋愛の話になったとき、「私なんて恋愛できないよね」と言うと、友人が「なんでそんなこと言うの!」と怒って、大泣きしてくれたんです。私も泣いて……。

それからは「私も恋愛してもいいんだ」と思えるようになって、そこからはイケイケドンドン。3人に告白もしたし、5人とお見合いもしました。

 

河除さん

夫と付き合う前に、4年間、職場の同僚としての付き合いがあった。だから、人柄を知ってくれていた。

付き合って1カ月くらいたったころ、夫が「なんで顔のことを話してくれんのや!」と怒ったんです。そんなことを聞いてくれる人は初めてでした。「これから付き合っていく上で、顔のことをなぁなぁにしたくない」と。夫は熱い男です。

 

村本さん

僕は疑心暗鬼な性格で、傷つくのが怖いから、自分から積極的にアプローチするのは苦手。2人のポジティブさや強さに憧れるときがある。

 

石田さん

ポジティブというより、覚悟に近いです。そうしないと生きていけない状況に追いつめられた。どうして自分はこんな見た目なのか悩み抜いた末に、「考えても仕方がない」と割り切れるようになりました。

見た目は変えられない。でも、服装や髪形、話し方、そして人への接し方は努力すれば変えられます。そうすることで、今はなんとかやっています。
「かつては『好きな人に告白してはいけない』と思い込んでいた」と語る河除さん
「かつては『好きな人に告白してはいけない』と思い込んでいた」と語る河除さん

「あなたの見た目では雇えない」就職の壁

就職活動の難しさも、話題に上がりました。

 

河除さん

学生時代、あるバイトで、友人は受け付け業務を任せられたのに、私はさせてもらえませんでした。選ばれないことが、恥ずかしかった。

就職活動では、結婚式場で働きたかったけど、ある会社に「申し訳ないが、あなたの見た目では結婚式場では雇えない」とはっきり言われました。ショックだったけど、今になって思うと、理由を告げてくれたのは、その担当者の誠実さだったと思っています。

 

岩井

うまく笑顔の表情がつくれない息子の将来について、「接客業や営業は向いてない。だから専門職や技術職を目指してほしい」と思っていたことがあります。

でも今は、そうは思っていません。少々ゆがんでいても、表情に心がこもっていることのほうが重要だと思っています。息子がやりたいことに挑戦してもらいたいです。

 

村本さん

日本は「この人はこういう見た目だから、こうだ」って、縛られている感じがするんですよね。 

 

石田さん

縛りはあると思います。「こういう見た目だから、この仕事は難しいよね」と決めつけられたことを、いかにはね返せるか。

本当にやりたい仕事があるなら、見た目以外のスキルを磨いて挑戦をすれば道は開かれると思います。
次々と質問を投げかけた村本さん
次々と質問を投げかけた村本さん

頑張らなくても生きやすい社会に

社会が変わることを、当事者の2人は期待しているのでしょうか。

 

河除さん

変わると思う。そう思って、私は活動しています。私の世代というよりも、子どもたちが大人になったときに変わってくれればと願っている。

 

石田さん

一人一人の意識が変われば、それによって社会が変わると思う。会場にいるみなさんが、家に帰って家族に伝えるだけでも理解者が増える。いろんな外見の人がいることを知ってもらいたいです。

 

村本さん

2人の見た目が気になるのは、最初の5~10分くらいですよね。会話していれば、すぐに慣れて、気にならなくなる。

 

岩井

外見に症状を抱える人たちは今、社会に適応しようと頑張っている状況です。でも当事者が特別に頑張らなくても、生きやすい社会であるといい。

息子に関しては言えば、「少々、笑顔の表情がゆがんでいてもいいじゃないか」と、皆が思ってくれる社会になってほしいです。
笑顔を見せる河除さん(左)と石田さん
笑顔を見せる河除さん(左)と石田さん

もっと知りたい人へ

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