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連載

#160 #withyou ~きみとともに~

市長が言い切る「学校に行かなくてもいい」 大津のいじめ対策の今

公立学校の責任者である「市長」という立場で「学校に行きたくないと思えば、全然行かなくてもいいと思う」と言い切る人がいます。自身も小学校と高校でいじめに遭い、今はいじめ防止の政策を進める側となった大津市の越直美市長です。

「教育委員会以外で相談できる場所をつくる」大津市の次の手は……
「教育委員会以外で相談できる場所をつくる」大津市の次の手は……

目次

公立学校の責任者である「市長」という立場で「学校に行きたくないと思えば、全然行かなくてもいいと思う」と言い切る人がいます。自身も小学校と高校でいじめに遭い、今はいじめ防止の政策を進める側となった大津市の越直美市長(44)です。8年前の「大津いじめ自殺問題」では「いじめ防止対策推進法」が生まれるきっかけとなった大津市。生きづらさを抱える子どもの「居場所づくり」について聞きました。(朝日新聞大津総局記者、山中由睦、新谷千布美)

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いじめに遭った体験を語る越直美市長=2019年8月19日、新谷千布美撮影
いじめに遭った体験を語る越直美市長=2019年8月19日、新谷千布美撮影

いじめられていること、知らなかった友達

――市長自身も、子ども時代にいじめを受けた経験があるそうですね

小学3年と高校生の時です。親に相談することもできず、休めない。学校に行くことが苦痛でした。

自分の居場所は小学校の時は家に帰ってから。学年が違う友達がいて、私がいじめられていることを知らないので一緒に遊べました。高校の時はクラスで話す人がいなくて悪口を言われても、授業が終わって所属していた水泳部に行くと違うクラスの友達がいました。放課後になるのが待ち遠しかった。

自分がクラスでいじめられている時、それ以外のコミュニティーがあるということも居場所の一つなんだと思っています。


――「居場所」で、いじめられていることを打ち明けられましたか

言えなかったです。いじめられている人間であるということが、恥ずかしいと思っていたので相談はしませんでした。ただ相談できなくても、いじめを受けていることを知らない友達がそばにいたのは良かったと思います。

自らのいじめ体験を語る大津市の越直美市長=新谷千布美撮影
自らのいじめ体験を語る大津市の越直美市長=新谷千布美撮影

いじめられた子が学校から疎外されるのはおかしい

――市立中学2年の男子生徒が自殺してから8年。子どもの居場所をつくるため、市はどんな取り組みをしてきましたか


子どもの居場所づくりはとても大事。学校以外にフリースクールをつくるとか、(夏休み明けに)学校に行きたくないと思えば、全然行かなくてもいいと思う。

いじめられた子どもの声を聞くと、「学校に行きたいけれど行けない」という子どももいます。いじめた人は学校に行っているのに。

加害者は学校に行けて、いじめられた子どもが学校から疎外されてしまうのは絶対におかしい。行きたいと思った時に行ける場所や教室を、学校内につくる必要があると考えています。

自殺した男子生徒の命日に開かれた記者会見で、父親(右)や越市長(中)が思いを語った=2018年10月11日、大津市役所、比嘉展玖撮影
自殺した男子生徒の命日に開かれた記者会見で、父親(右)や越市長(中)が思いを語った=2018年10月11日、大津市役所、比嘉展玖撮影 出典:朝日新聞
【大津いじめ自殺問題とは】
大津市立中学2年の男子生徒(当時)が2011年10月に自殺。市教育委員会はいじめと自殺との因果関係は不明として調査を終えたが、生徒の両親が年2月に市や元同級生3人らに損害賠償を求めて提訴(3人のうち2人が賠償命令を受けたが控訴し、大阪高裁で係争中)。一方で市の第三者調査委員会が13年1月に「(元同級生2人の)いじめが自殺の直接的要因」とする報告書をまとめたことを受け、市は15年3月、責任を認めて両親と和解した。この問題をきっかけに「いじめ防止対策推進法」がつくられ、13年9月に施行された。
朝日新聞

SNSいじめ、帰宅後も助けるには

――大津市では市立の全小中学校に、いじめ担当の教員を配置していますね

担任を持たない「いじめ対策担当教員」を置き、いじめの情報が行き渡るようにしています。2010年度に市内のいじめの認知件数は53件でしたが、昨年度は3648件。いじめの対策担当教員が情報を収集し、それまで見逃していたいじめを見つけられるようになったのは大きな成果です。

保健室も大事な居場所です。保健の先生に「おなかが痛い」って言って会いに行くだけでもいい。学校の中の居場所。大津市は学校に1人ずつだった保健の先生を複数配置し、研修を受けてもらい、「こころとからだの先生」に認定する取り組みを進めています。

――学校の外では、いじめ対策推進室を設置し、相談調査専門員が相談を受ける窓口を設けました

教育委員会以外で相談できる場所をつくるためです。相談調査専門員に臨床心理士や弁護士がおり、自宅や公園など学校以外の場所で子どもから話を聞きます。

ただ相談室に本人が連絡することは、すごく勇気がいることです。子どもたちのコミュニケーションの手段は電話よりSNSに移っています。知らない人にいきなり電話するのはハードルが高いので、17年に無料通信アプリ「LINE」の相談窓口を設けました。

「おおつっこ相談LINE」の一例=大津市提供
「おおつっこ相談LINE」の一例=大津市提供 出典:朝日新聞

昔と違うのは、今は家に帰ってからもいじめが続くということです。大津市では小学生の5割、中学生の8割がスマートフォンや携帯電話を持っています。学校でのリアルないじめがSNS上でも続いてしまう。家に帰ってから助ける手段として、LINEの相談窓口はSNS上の「居場所」なのかなと思います。

AIで経験値の差を埋める

――いじめ対策で足りないと感じていることは

いじめが見つかる件数は増えたけれど、先生がいじめと思っていなかったり、発見してもその後の対応がよくなかったりしたこともあります。

大津市では、いじめの疑いがあれば24時間以内に学校が教育委員会に報告書を提出します。これまでに約1万件の報告書があります。どういう対応だと解決し、逆に重大事態になってしまうのかをAI(人工知能)で分析しています。これから先生が大量退職する時代を迎えます。若い人がたくさん入っても「経験がないからいじめの対応ができない」ということがあってはなりません。

大津市のいじめ対策を、朝日新聞記者に語る越直美市長=新谷千布美撮影
大津市のいじめ対策を、朝日新聞記者に語る越直美市長=新谷千布美撮影

いろんな相談先があります


・24時間こどもSOSダイヤル 0120-0-78310(なやみ言おう)
・こどものSOS相談窓口(文部科学省サイト
・いのち支える窓口一覧(自殺総合対策推進センターサイト

【大津の方はこちら】主な相談窓口

大津市

おおつっこほっとダイヤル 0120-025-528

 弁護士や臨床心理士らの相談調査専門員が、いじめなどに関する相談に応じる。平日の午前9時~午後5時(火曜日は午後8時まで)。

おおつ子どもナイトダイヤル 077-523-1501

 夜間も相談員が対応する。午後5時~翌午前9時。第3日曜日は24時間対応している。

《県》

こころんだいやる 077-524-2030

 おおむね30歳くらいまでが対象。午前9時~午後9時。

《県教委》

いじめで悩む子ども相談員 077-567-5404

 電話だけでなく、直接会う相談にも応じる。平日の午前9時半~午後6時。

《県警》

少年課大津少年サポートセンター 077-521-5735

 少年補導に携わる職員が、いじめや非行などの相談に乗る。平日の午前8時半~午後5時15分。

《滋賀弁護士会》

こどもの悩みごと110番 0120-783-998

 弁護士が20歳未満の子どもやその保護者を対象に応じる。水曜日の午後3~5時。

(大津市調べ)

 

withnewsでは、生きづらさを抱える10代への企画「#withyou ~きみとともに~」を続けています。

今年のテーマは「#居場所」。 

 目に見える「場所」でなくても、本や音楽…好きなことや、救いになった言葉でもいいです。生きづらい時間や不安な日々をしのげる「居場所」をみなさんと共有できたらと思います。 以下のツイートボタンで、「#居場所」について聞かせてください。


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