連載
#127 #withyou ~きみとともに~
「 #不登校は不幸じゃない 」から1年、参加者の今「ちょっとずつ…」
少しずつ自分の道を見つけた人。新しい環境で、今年も開かれるイベントに参加する人。それぞれの1年間を追いました。
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#127 #withyou ~きみとともに~
少しずつ自分の道を見つけた人。新しい環境で、今年も開かれるイベントに参加する人。それぞれの1年間を追いました。
「学校がつらくて死にたいくらいなら、行かなくてもいいと思うんです」
昨年8月19日、全国100カ所の会場で同時開催されたイベント「#不登校は不幸じゃない」の町田会場。集まった30人を超える来場者の前で、自身の思いを話したのは当時中学3年生のアイカさんです。不登校の経験者らが語り合うパネルディスカッションに参加していました。
アイカさんが学校に行きづらくなったのは、中1の6月頃でした。行けない理由を両親にうまく説明できず、常に感じていたのは不登校の罪悪感。学校に行っていない自分は、「家でも『笑っちゃダメ』『楽しんじゃダメ』って思っていました」。もともと人懐っこい明るい性格だったというアイカさんですが、後ろめたさから自分の感情がうまく出せなくなったといいます。当時の写真には、表情がありません。
夏休み、2学期が近付くにつれ、「学校に行かなければならない」というプレッシャーを感じ、心のよりどころがなくなっていきました。特に追い詰められたのは、夏休み明けの朝です。
「家のドアを開けたときに、『このまま死んだら、学校に行かなくていいんだ』って思ったんです」
なんとかマンションの最上階で踏みとどまることができましたが、「『学校に行けないのは悪いこと』という考えから、自分を追い詰めてしまった」と振り返ります。
1年間の中3の夏、イベントに参加した時のアイカさんは、環境を変えるために転校した先でもいじめに遭い、更に転校するという状況でした。ずっと自分を苦しめてきたのは、「学校に行かなければならない」という強迫観念だと気付いたといいます。「勉強は塾でもできる。学校は行っても行かなくてもいい」という姿勢になると、「行ってもいい」と思える中学に出合えたといいます。
イベントの後、「通ってはいるけど、学校自体は好きじゃない。進路も高校にこだわっていない」と話していた彼女。1年経った今、どう過ごしているのでしょうか。
「悩んでいる不登校の当事者がたくさんいるってネットで知っていても、実際に会うことはありません。でも、イベントに参加して私だけじゃないんだっていうのを実感しました」
以前と同じ細い声ではありますが、覇気のある口調で、1年前を振り返ります。アイカさんは中学を卒業し、今は通信制高校に通っています。実はこの学校、「#不登校は不幸じゃない」のイベントで出会った女性が通っていたことで知ったそうです。イベントに参加した経験が、今のアイカさんに地続きにつながっていました。
「将来なりたい仕事ができて、資格をとりたいって思ってるんです」
そう話すアイカさんですが、順風満帆の1年だったわけではありません。学校に通うも体調が優れず、過呼吸になってしまうこともあり、卒業までの中学生活の多くは保健室で過ごしました。そんな中、いつも話を聞いてくれたのは、保健室の養護教諭でした。
「無理に『学校においで』って言う先生じゃなくて、『行けるようになってからでいいんだよ』って言ってくれてうれしかった。学校は好きじゃないと思っていたけど、こんな先生になりたいと思ったんです」
目指すのは大学受験。今の高校は不登校経験者が多いため、グループを作って一緒に行動することが少なく、お互い詮索しすぎないところが心地よいそう。定期的に面談をしてくれる先生からも親身さが伝わると話します。まだ体調は万全ではないですが、「学校に行きたい」という思いが芽生えました。
「昔の明るい自分がちょっとずつ戻ってきた」と話すアイカさん。夢への道を歩き始めました。
「不登校は不幸じゃない」のイベントは、当事者だけではなく、当事者たちに寄り添いたいと思う大人たちの背中も押しました。
昨年、アイカさんが参加した町田会場を主催したのが、当時、会社員だった広田悠大さんです。
広田さんは大学で不登校生の学習支援に携わり、卒業後は企業に就職。それでも不登校など、生きづらさを抱える子どもたちをサポートできる大人を増やそうと、勉強会を企画する「寄り添いを考える会」を運営してきました。しかし、当事者や保護者と接する機会が増えるごとに、「専門的に学びたい」と感じるようになったといいます。
イベント開催をきっかけに、勤めていた会社を退職。NPO法人で仕事として不登校生支援に携わりながら、通信制大学で社会福祉士の資格を目指しています。「これまで経験でしか知り得なかったことが、大学と仕事で納得感を持って理解できるようになった」と話します。
1年経った今年は「教育の多様性」をテーマに、独自企画を立ち上げました。不登校を経験した人たちが、学校以外の場でどのように学んできたのかを体験を通して語るパネルディスカッションです。
また、料理をつくることを通し、参加者が楽しく食育を学ぶことを目的とした「不登校生食堂」も併設。「例えば親御さんはディスカッション、お子さんは食堂という形で、さまざまな人が参加しやすくなればうれしい」と広田さんは話しています。
この1年間でも、不登校をとりまくニュースや話題にさまざまな意見が集まり、議論されてきました。「学校が死ぬほどつらかったら行かなくてもいい」という認識は広がりつつあると思います。しかし、「死ぬほどつらくなければ行かないといけない」という義務感も、同時に広がっているように感じます。
私たちは子どもたちの我慢の度合いを、適切に判断できるのでしょうか。「行きたくない」の言葉の深さを、どれくらい推し量ることができるのでしょうか。不登校のことを、もっと話してみませんか。1年に1回、全国で開かれる「なんとなく立ち寄れる場」から生まれるものがきっとあるはずです。
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