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連載

#125 #withyou ~きみとともに~

リストカット「気持ちいい」と言ってしまう理由 自傷との向き合い方

精神科医の松本俊彦さん
精神科医の松本俊彦さん

目次

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生きづらさを抱える若者たちと向き合う時、「リストカット」はテーマの一つです。取材の中で出会う若者の中には、自傷について、「やめたいけどやめられない」という声を聞かせてくれる方も多くいました。自傷をやめられない若者に、「やめたいと思ったことはすごく良いこと。でも急にやめられなかったからといって、自分のことを責めないで」と語るのは、依存症を専門とする精神科医の松本俊彦さん(国立精神・神経医療研究センター)です。自分の気持ちとの向き合い方について、少しだけ読んでみてもらえませんか。
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やってるときだけが楽なんだ

――自傷をするときの心情について教えてほしいです。
自傷をして「気持ちいい」という子もいるけど、正確に言うと、やってないときがえらい苦しくて、やってるときだけ、瞬間、苦しみから解放されて楽になるんですよね。それを「気持ちがいい」とか「快感」とかって表現しているんだと思います。

――依存症全般に言えることなんでしょうか。
人を依存症に引き込むためには「報酬」が必要です。「依存症の報酬は快感だ」と言うこともあるけど、例えば薬物依存の場合、覚醒剤を使った人が、将来依存症になる人は多く見積もっても15%くらいです。誰も彼もが依存症になっているわけではありません。

どんな人が依存症になっているかというと、現在がしんどい人ほど依存します。
ここからも言えるのは、実は依存症の一番の報酬は、「苦痛の緩和」なんだろうなと。
リストカットもそうですが、「瞬時に」「すごく」、楽になる。
そうなると、頭の中ではいつもそのことを考え、なにか自傷のきっかけになるようなことがあったときに、リストカットという手段を思い出し、行動に移してしまうんです。

――「楽になりたい」という感情ですか。
そうじゃないでしょうか。「酸素が足りなくて苦しい」ってなっているときに、すぐ近くに酸素ボンベが置いてあったら手を伸ばしますよね。それと一緒です。

「暇だから」「なんとなく」から、「腹が立った」へ

――自傷行為の理由はどういったものなのでしょうか。
本人に理由を聞くと、最初は「暇だから」とか「なんとなく」という答えが返ってきます。でも聞いていくうちに、本当は「腹が立ったことがあった」などの理由が見えてくるんです。

ーー怒りの感情に気づけていないのですね。なぜ気づけないのでしょうか。
多くの子たちは「怒りは悪い感情」と思っていたりする。怒っているということを認めたくないこともあります。
患者と医師という関係性を築いていく中で、その感情を安心して出せるようになります。
医師は感情を出した相手に対し、「それは怒って当然だよ」と伝えながら、言葉のやりとりをします。そうするうちに、相手は自傷に訴える前に言葉で表現するようになります。
もちろんその中には「死にたい」「消えたい」もあるけど、それは悪いことではない。実際に傷つけるよりもいいです。

写真はイメージです
写真はイメージです 出典:pixta

――関係性をつなぎながら言葉での表現を促していく。
感情を言葉にできるようになってからも、急には自傷をやめられないかもしれません。
それでも関わり続けます。「どうだったかまた教えてよ」「ああやっちゃったか。まあでもまたどうだったか教えてよ」と。
まさにスモールステップです。「やることのメリットもあるしデメリットもあるし、難しいね」と両価性に共感しながら、関係をつないでいった方が、本人は自分のことを嫌いにならずに済むし、援助関係としても長く続きます。

「ムカついているのかも…」までに時間

――たとえば、楽になるために、自傷を「他の何か」に置き換えることは難しいんでしょうか。
余裕があるときには、運動することなどに置き換えができるけど、切羽詰まってくると、すぐには置き換えられないですよね。
置き換えっていうのは、必要なときに瞬時に置き換えられ、しかも人に頼らなくていい方法じゃないといけない。

――では、現実的にはどんなステップを踏んでいけばいいのでしょうか。感情を覚知していくことができれば、回復に向かいますか。
そんな簡単には感情は覚知できません。でも、「これとこれとこれが重なるとなんかしちゃうよね」みたいな、「このパターンまずいんだよね」というのを分かっていくなかで「もしかしてムカついているのかも」と気づけるようになってきます。
「ムカついてて、なんとかしようと思ってたんだけど切っちゃいました」と言えるようになったら、実は治療は7割方終わっています。
ただ、そこに至るまでが、実は相当時間がかかります。

――「感情に気づく」。言葉では簡単に言えますが、確かにむずかしいかもしれません。
だって、例えば「誰かに嫉妬してムカムカしてやっちゃった」と言葉にできるということは、嫉妬している自分を受け入れることができるようになったということ。それは、よほど安心して心を裸にできるようにならないと言えません。
でも、それまで人との関係で傷ついてきた人が、そんな簡単に心を裸にはできないですよね。
だから最初は言えないのは当然なんです。

写真はイメージです
写真はイメージです 出典:pixta

やめられなくても、「清潔に」「報告を」

――感情を伝えてから自傷がやめられるまで関係はどうつなぎますか。
自傷する前の感情を伝えられるようになると、その感情を話し合うことができるようになります。「切っちゃう前に、腹立つことがあった」と言えたら「どんなことに腹が立ったの?」と聞くことができます。言葉にすることで自傷の重要度が変わっていきます。

――すぐにはやめられなくても、具体的に伝えられることは他にありますか。
まず、やめたいと思ったことはすごく良いこと。でも、急にやめられなかったからといって、自分のことを責めないでほしいです。
やめたくても、やっぱり切りたくなったり、切らなきゃいけなくなったり、ということもあるかもしれません。そのときは、「なるべくダメージが少ない切り方をしよう」とか、「切った後は傷の手当てを清潔にしておきましょう」とかを伝えられますね。
あと、切っちゃったことをダメ出ししない人の前で、報告するということも大事です。

――ダメ出ししない人の見極めが難しいですね。
「切らなくて偉かったね」とほめてくれる人がいい人というわけではないんですよね。そういう関係だと、「その人を失望させないように」とか「切っちゃったら期待を裏切ることになる」と感じるので。淡々と聞いてあげてくれたらいいなと思います。


 

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「居場所」を考えるイベント開きます

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