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#13 ここにも「スゴ腕」
「缶つま」誕生の裏側にあった「発想の転換」 1万円の缶詰も!
価格競争が激しい缶詰業界にあって、高級路線で勝負を挑み、商機をつかんだ缶詰シリーズがあります。国分グループ本社(東京都中央区)の「K&K缶つま」です。「お酒にあう缶詰」というコンセプトを打ち出し、新たな市場を切り開きました。どのようにして、缶つまは生まれたのか。担当者に聞きました。
特徴は素材へのこだわりです。国産の黒豚やホタテなどの高級食材をつかって、酒のつまみにぴったりの料理に仕上げています。そのぶん、値段は平均500円ほど。
「缶つま極 松阪牛大和煮」は5000円、「缶つま極 気仙沼産ふかひれ」は1万円と、驚きの価格の商品もあります。現在71種類あり、売り上げは年約500万個(約30億円)にのぼります。
国分グループは、1712年創業の食品卸売会社。加工食品や酒類、菓子、冷凍食品など約60万品目を扱っています。
実は、「缶つま」シリーズが始まる前から、国分グループは高級缶詰をつくっていました。ただ当時は、缶詰は「安い保存食」とみなされ、サバ缶などの定番商品が100円ほどで売られているのが当たり前でした。缶つま開発担当の森寛規さん(32)によると、「当時の高級缶詰は売り上げが伸びず、生産を続けるかどうかの瀬戸際でした」と言います。
やっぱり、缶詰は安くないと売れないのか――。追い込まれた状況のなか、2009年に転機が訪れました。この年に発行された缶詰のおつまみ本「缶つま」(世界文化社)に、当時の開発担当者が「これだ!」。高級缶詰に「酒のおつまみ」というストーリーを加え、一つのシリーズとしてブランド化することを思いつきました。
翌年、元々あった商品を改良したうえで、「広島県産かき燻製(くんせい)油漬け」など14種類を販売。バラバラだったパッケージのデザインも、白を基調に統一し、高級感を演出します。初年度から1億8千万円を売り上げました。森さんは言います。
「商品のコンセプトを酒にあうおつまみ缶詰と明確にし定義してブランド化することで、他社の商品と差別化することができました」
時代の波にも乗りました。デフレの中、家で一杯やる「家飲み」「宅飲み」が定着。調理の手間なく気軽に食べられる酒のお供として、消費者のニーズにぴたりとはまりました。
ただ、当初は小売店から、「高すぎる」との反応もありました。周りに並ぶ缶詰は100円が中心。500円の缶詰が売れるのかどうか、小売店も疑心暗鬼でした。そこで営業担当者は、缶詰売り場ではなく「お酒コーナー」に置いてもらえるように頼みました。
「500円を消費者に高く感じさせないようにするのがポイントです」と、営業の福島芙実子さん(29)。「100円の缶詰と比べたら、確かに高く感じます。でも、お酒コーナーで、高級チーズと一緒に並んでいれば、それほど割高にも感じないはずです。あくまで、おつまみの値段としてみてもらいたい」。
福島さんは今、小売店だけでなく、アウトドアショップやビジネスホテルといった、お酒を手にする利用者が多い業態にも販路を広げようと、営業しています。
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